033 あざとい子である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。熊さんごめんなさい。


 個人レッスンの空手教室で、ジュマルが熊みたいな先生を倒したのだから、私たちは唖然呆然。


「ゴロニャ~ゴ~~~!!」


 そしてジュマルは熊に乗って勝ち名乗り。強敵相手にテンションが上がったのか、猫の本能が出まくってる。


「ど、どうするのこれ??」

「に、逃げるか? 行かなかったと嘘つくか??」

「ダメよ! 死体を放置してなんてすぐバレるわ!! 海に沈めるか山に埋めないと……」

「あ、ああ……解体して別々の場所に隠したほうが確実か……」


 その惨劇に母親も父親も大混乱。なんか完全犯罪しようとしてる……まだ死んだと決まってないでしょ!


「手当て! おにちゃは熊さんから離れろ!! ママとパパは、熊さんが生きてるか確認して!!」

「「は、はい!!」」


 私が怒鳴り散らすと、全員素直に動いてくれる。でも、みんなこの先生のことを熊だと思ってたんだね。

 その結果、熊は顔面血塗れだけど息があったから一安心。母親が声掛けし、父親は救急キットを探そうと道場内を走り回っている。


 そんな中、私はジュマルをお座りさせて仁王立ちしていた。


「お、怒ってる?」

「ちょっと……でも、わたしたちが悪いから怒れない」

「ララは悪くないと思う……」

「ううん。パパの暴走を止めなかったから同罪。それに、おにちゃがこんなに強いなんて想定外だった」

「言ってること、わからない……」

「だよね……もっとわたしが慎重になるべきだった。おにちゃ、ゴメンね」

「ララ、悪くない……謝らせてゴメン……」


 私が謝罪して抱き締めると、ジュマルはしおらしく謝るのであった……



 両親の献身的な看病のおかげか、この熊が思ったより頑丈だったからか、顔面の血も止まり延髄辺りを冷やしていたら10分後には目を覚ましてくれたので、私たちは安堵と共に謝罪した。

 しかし、顔に六本も引っ掻き傷のある熊は記憶が飛んでいたのでハテナ顔。ジュマルに負けたと言っても信じてくれない。なので、父親がスマホで撮影していた動画を見せた。


「なっ……」

「驚きですよね? これをネットに流されたくなかったら、今日の件はご内密に……」

「脅すな!!」


 父親が熊を脅迫していたので、私は跳び蹴りしてタッチ交代。


「熊さん、体はだいじょぶですか? 吐き気とかないですか??」

「あ、ああ……心はヤバイけどな……てか、熊さんって俺のことか??」

「じゃあ、おにちゃのサンドバッグになってくだちゃい」

「なんだこの天使のような悪魔は!?」


 私が笑顔でかわいらしくお願いしたら、熊も震えてしまった。たぶん、ジュマルのことがトラウマになっているのであろう。私のせいじゃないよね?


「ララちゃん! 娘がすみません。少々説明させていただきますね」


 最後に母親が私を抱き締めてジュマルを連れて来た本当の理由を優しく語り、父親と私が言ったことを言葉巧みに了承させて、証拠の映像も残していたのであった……


 母親が一番怖いわ~。



「もしもオリンピックに興味が出たら、俺に連絡してください」

「「「殺人犯にしたくないんです!!」」」

「あ……」


 熊を使ったジュマルの力加減の実験が終わったら、熊はスカウトして来たけど、私たちは断固拒否。

 確かに6歳で熊を倒せるジュマルが空手に取り組めばオリンピックぐらい目じゃないけど、それまでに屍が積み重なる未来しか見えないからやらせるわけがない。

 そのことに気付いた熊は、小1にボコボコにされただけで私たちを見送るしかなかったのであった。



「第109回、広瀬家、家族会議を開催します……」


 その夜は、家族会議。ジュマルの実力を知ったのだから、父親も表情が暗い。


「ララ……パパのこと蹴ったよな?」


 いや、私が跳び蹴りしたから傷付いていたっぽい。


「ち、ちらない……」

「パパのこと、嫌いになったの~~~??」

「すきすきだ~いすき~」

「だよな~? アレは夢でも見てたんだな。うん!」


 父親には言い訳がきかなかったので、めっちゃ適当に好きと言ってみたらご満悦。私もナメてたみたい。


「それは置いておいて、ララちゃん。私たちに命令してなかった?」


 しかし、父親はチョロイけど、母親は騙されなかった。


「ち、ちらない……」

「いつも言うそのとぼけ方も変なのよね~……ララちゃん、普通に喋れるのにやってない?」

「ちらない……」

「お友達もそんな喋り方してないのにな~……あざといって言われない?」

「わかんない……」

「……気のせいか」


 母親は怪しんで誘導尋問して来たけど、引っ掛かるわけないでしょ! でも、そろそろこの子供っぽい喋り方はやめたほうがよさそうだ。

 ただでさえ頭がいいように見えるから、両親の前では子供っぽくしておいたほうが何かと都合がいいと思っていたんだけどね~。


 母親はまだ怪しんで私を見ているので、ここは父親に頑張ってもらおう。


「パパ、今日の復習やって」

「え……パパに殴られろと言ってるの??」

「あい。おねがい~」

「ララのためならやっちゃうぞ~。かかってこ~~~い」


 こうして私のかわいさにメロメロな父親は、覚悟を決めてジュマルに殴られに行くのであった……


「やっぱりあざといわね……かわいいけど、今後が心配だわ」


 母親はますます怪しんでいたので、私はそちらを見ないで父親をキャピキャピ応援し続けるのであった……

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