004 猫の進化である
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。赤ちゃんの第一声は、普通はママだよね。
私の第一声を両親に少し怪しまれたが、そこから自分を呼んでくれとうるさかったので、2日後に「ママ」。4日後に「パパ」と呼んであげたらご満悦。父親は、呼ばれるまですんごい元気なかったけど……
そのやり取りを、ジュマルは不思議そうにジーっと見ていた。何を考えているかわからないのは怖いが、顔を舐めに来なくなったから結果オーライだ。
私の1歳の誕生日、3月7日も過ぎると、そろそろ歩けないかと掴まり立ちを繰り返す毎日。両親は「キャッキャッキャッキャッ」と喜んでくれるのはいいのだが、うるさい。
ジュマルは遠くからジーっと見ているだけだから好きにできるけど、その視線が怖い。仲間だった者が、実は違うと思って襲い掛かって来ないだろうか。
そんな日々を過ごし、数歩あるけるようになって両親が飛び跳ねて喜んだ次の日、いつものように掴まり立ちをして筋力アップのトレーニングをしていたら、ジュマルがハイハイで近付いて来た。
私はギャン泣きするべきかと悩んだけど、一歩離れたぐらいの距離で止まったので、見詰め合うこととなった。
(お母さんは……キッチンかな? これなら……)
私は背伸びして母親の位置と食器を洗っている音を確認すると、口を開く。
「にゃに?」
その声に、ジュマルはキョトンとした顔になった。
「おにちゃ、たてない。あちし、たてる。かった。ハッ……」
そこに、舌足らずで
「にゃ~~~!!」
一瞬、襲い掛かられると後悔した私であったが、ジュマルは奇声を発しながら部屋中をハイハイで走り回る。それは、猫が発狂したような暴れようだ。
「なに? なになになになに?? ジュマ君どうしたの!? 待って~~~」
いつもより激しく走り回るジュマルに驚いた母親は、ジュマルを捕まえようと追い回すが追いつけない。しまいには倒れてしまった。
すると、ジュマルは私をロックオン。凄い速度で近付き、急停止して私の前で「はぁはぁ」言ってる。
(お母さん! いまがチャンス!!)
このままでは何かされそうなので母親に視線を送ってみたが、足が攣ってるっぽい。でも、片手を伸ばして私を助けようと必死の形相をしている。
そんな中ジュマルはというと、私の隣に来てソファーを掴んで立ち上がった。
「にゃ~……」
そして、ドヤ顔。その上から目線に、私もピキッと来た。なので、反撃だ!
掴んでいたソファーから手を離してバンザイ。
「ハッ……」
からのドヤ顔返し。かかってこいや~!
ジュマルもまた怒り心頭で私のマネをしたけど、頭が重いのかフラフラして後ろに倒れた。
「にゃ……にゃ~~~!!」
勝負アリ。私に負けたジュマルは、悔しそうに床をカリカリ引っ掻くのであった。
「ジュマ君!」
私たちのやり取りを見ていた母親は、足を引き摺りながらやって来てジュマルを抱き締めた。
「よく立っちできたね……うわ~~~ん」
そして、私以上のギャン泣き。ジュマルが数秒立ったことがよっぽど嬉しかったのだろう。
「にゃ~……」
ジュマルも母親の行為に何か思うことがあるのか、母親の涙を舐め続けるのであった……
その日の夜、私はベッドの中で天井を見詰めていた。
(私の挑発に乗ったということは、この方法はアリなのかな?)
そう。ジュマルが猫から人へ、一歩前進したのだから作戦は必要だ。
(アレかな? 見本があれば上達するとか……お父さんやお母さんでは、同じ生き物だと認識していなかったのかも? 私ぐらい小さな赤ちゃんなら、似ているとわかってくれたのかもしれないわね。これならなんとかなりそう)
私は隣で寝ている母親に目を向ける。
(お母さん、嬉しそうだったな~……待っててね。私がお兄ちゃんを立派な人間にしてあげるから……う~ん。赤ちゃんのセリフじゃないな)
私は新たに決意を高めたが、自分の小さな手を見て少し揺らぐのであったとさ。
それから私はジュマルを挑発しながら、ヨチヨチ歩き。最初の頃は私のほうが上手く歩けていたのだが、ジュマルはあっという間に追い抜いて行った。
そりゃそうだ。1年の遅れは、幼児に取っては死活問題。体の大きさも強さも違うのだから、勝てるわけがない。
さらにジュマルは、ハイハイで母親を圧倒していたのだ。幼児とは思えないほど運動能力が高いのだから、今まで歩けなかったほうがおかしい。コツを掴んでからは、もう走ってやがる。
そのことについて、両親は大号泣。確かに2歳にもなってハイハイしていたのだからわからなくもないけど、進化の早さに疑問を持って! いま、バク転したよ!!
私はジュマルのバク転をしている姿を見て、猿から人へ進化する絵を思い出し、バク転する絵を付け加えるのであったとさ。
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