異世界転生してもモブキャラ勢三人が安酒をあおって愚痴を語る話

差掛篤

異世界転生してもモブキャラ勢三人が安酒をあおって愚痴を語る話

異世界に飛ばされて2年が経った。


うだつが上がらない転生者三人が、酒場の隅の席で、ぼそぼそとしゃべっている。

転生者が最初に過ごすこととなる、小さな町だ。

その中の小さな酒場。


安い蒸留酒を、炭酸で割ったものを飲んでいる。


懐がさみしいからだ。


「二太、お前さ。『無限インベントリ』ってすごいスキルがあるんだからさ、積極的に強いパーティーに入っていけばいいじゃん」

三人のうちのひとり、一郎が言った。

「無限インベントリって、アイテム収集にいいしさ。皆が欲しがるだろ」


「おれの『無限インベントリ』は、重量は考慮されないんだ…。だから、結局めっちゃ重くなる。インベントリはいいんだけど、俺自身が持てなくなる。」二太が首を振る「俺、『力』は最低値なんだよ」


二太が落ち込み、微妙な空気。三夫が口を開く

「あの、一郎のテイマースキルもいいじゃん。一度に何匹も下等モンスターなら連れていけるんだろ?」


一郎は首を振る。

「仕えてる侯爵様が、モンスター嫌いなんだ。絶対に連れて帰るなと。育成ができない」


二太が言う

「それじゃ冒険出れないじゃん」


一郎が答える

「それが‥侯爵様が厩係で雇ってくれてるんだ。馬なら襲ってこないし、かわいいしさ。それだけで何不自由ない給料は貰えてるんだもの。冒険に出る理由がなあ‥‥」


二太がはっとして言う。

「そうだ、三夫!お前こそ最強のスキルじゃん!モンスターの技や特性をコピーできるんだろ?何て言ったっけ」


「ラーニング」三夫が言う。「でも、その分『縛り』がある。おれがその技で『殺される』ことが発動条件なんだ。だから、蘇生されてからなんだ。技が使えるのは。一応『不死』のスキルもあるんだ」


一郎が叫んだ「最強じゃん!」


三夫が怒鳴った「簡単に言うな!お前、殺されるのがどれだけ苦しくて痛いか知らねえだろ…。そりゃ一度だけ試したよ。俺だって、異世界で成功したかったしな。でもな、心臓を剣で一突きされて…その時の焼けるような痛み、弱くなっていく心臓の鼓動、呼吸のできない苦しみ、襲い来る死の恐怖…今まで経験したどんなことよりも怖かった。だからもうできない」


一郎は謝った。

「ごめん…そんな苦しみがあったとは…死ぬって、そうだよな。で、それでどんな技を覚えたんだ?」


三夫が呟いた

「ガイコツ突き。股関節を外して踏み込む、少しだけ間合いの長い突き技」


二太が吹き出して、直ぐに下を向く。


三夫が怒鳴る「笑ったな?!今!」


一郎「剣持ちガイコツか。おれでもテイムできる下等魔族じゃん・・・」


三夫が大声で言う

「うるさい!とにかく、それ以来おれはトラウマで、ダンジョンに入ろうにも足がすくんで入れない。たぶん、トラウマ的な病気なんかだと思う。無理なんだ」


三人は一緒に肩を落とした。

異世界転生した時はこんなはずではなかった。

自分のスキルこそ最強だと信じた。


はじめこそ努力の日々だった。


だが、いつの間にやら自分たちは町民らと変わらない生活をしている。

うだつが上がらない毎日


最後にダンジョンへ行ったのは何カ月前だったろうか。


彼らは6人で転生してきた。

彼ら3人はこの調子だが、一方の3人は違った。


「おお!勇者凱旋だ!」

その時、酒場内に歓声が広がった。


そう、彼らが同じタイミングで転生した3人だ。


全員きらびやかかつ、仰々しいまでの装備だ。

全員がイケメンで、高能力者。

美女ぞろいのパーティーを連れている。


おそらく、全員が一郎たち3人を遥かにしのぐ強さを誇るだろう。


この世界、長年の悲願であった悪鬼ドラゴンを倒し、王宮に凱旋する途中なのだという。

しかし、なぜこんな小さな町の酒場にやってきたのだろう。


酒場の客は、皆、凱旋者を取り囲み、ほめたたえた。


「いやな奴らだな」一郎はつぶやいた。

なにもこんな時に、この酒場によることはないだろう。

二太も、三夫もうなづいて目配せする。


どうせからかいに来たのだろう。


凱旋の三人のスペックはとにかく高かった。


一人は、戦士 元軍務経験者で軍務系大学出身。「隻腕のサイボーグ」と呼ばれ、義手を様々な武器や火器にも変化させる。


二人目、魔術師 元高学歴医学部、医術と錬金術を駆使し「英知の宮殿」との異名を持つ。無限の知識と、詠唱時間の極大短縮スキルを持つ


三人目、剣士 元剣道師範の国体選手 腕が六本あり、全てに剣を持つ「阿修羅剣」の使い手…


その功名は、異世界中に轟いている。


一郎たちは、ぼそぼそと陰口を言った。

元々のデキが違う。

天から与えられた才能があるものが勝つのだ。


ガチャなのだ。


才能だって、スキルだって、天に恵まれない者は決して成功できない。

比べるのがはなから間違いだ。


一郎たちはそう話した。

どうせ、同時期に転生した自分たちを笑いに来たのだろう。

一郎たちはそう思って、警戒していた。


すると、上等の生麦酒が一郎たちに提供された。

獣人ウェイトレスは笑顔で言った。


「凱旋した勇者様方からです」


黄金に輝く生麦酒を前にして、三人はあっけにとられた。


すると、「隻腕サイボーグ」が席に歩いてきた。


「みんな、久しぶり。」とサイボーグ「今回、どうしても君たちに報告したくて、王宮へ戻る前に遠回りして寄ったんだ」


一郎らはぎょっとしたが、直ぐに立ち上がって表面上は賛辞を贈った。


「ありがとう」サイボーグが照れくさそうに言った「君らと異世界に来て、俺は能力の『縛り』のために片腕を失った。片腕で戦うのは、過酷な挑戦だった。来る日も来る日も血のにじむような訓練をした。でも、君たちと励まし合ってようやくここまで来れた」


「そうだ」今度は医者魔術師が言った「突然異世界に飛ばされ、今までのキャリアも何もかも失った。それでも君たちと励まし合い、前向きに生きようと酒を酌み交わした。だから達成できたんだ」


「君たちとは、目指すものが異なったかもしれない」と剣士「だが、困難な挑戦に挑むとき、必ず君たちの姿を思い描いた。この町で一生懸命異世界を生き抜いているはずだ…と」


一郎たちは下を向いた。

これなら、罵倒して蔑んでくれた方がありがたかった。

こちらも嫌ったままで振り切れるからだ。


だが、奴らの頭にあったのは、転生したての頃、お互いを切磋琢磨し、異界で生き抜こうと励まし合った一郎たちの姿なのだった。


憎めれば楽だった。

しかし、彼らはいい奴だった。


大いなる目標に挑み続け、世界に名をとどろかせた勇者たち。

彼らの壮大な生き方から、小さな町で等身大に生きる一郎たちをバカにするなど…考えに至るワケもなかった。


「目指す方向は変わっていったが…一度伝えたかったんだ」サイボーグが言った。


サイボーグたちはそのまま、急いで王宮に行かないといけないと話もそこそこに立ち去った。


客はおろか、店主やウェイトレスも勇者たちを送るため店から出た。


喧騒の後、誰もいない酒場の隅の席


一郎たちは口をほとんど付けていない生麦酒を前に、うつむいていた。


いつからだろう。

目標と向上心を置き去りに、日々を過ごしていたのは…


才能だけの話なのだろうか…


日々の暮らしに満足せず、サイボーグ達のように初志貫徹すればどうなったのだろう。


「おれ……筋トレする」二太がつぶやいた。「剣士の野郎…目指すとこは一緒だよ」


「俺も…厩係から侯爵家を登っていくか…もう一度冒険者がやりたいのか…よく考えてみる」一郎が言う。


一郎とニ太が三夫を見る。

「お前は無理しちゃだめだよ」


三夫は言った。

「いや、分かってる。それでも俺は…やっぱし冒険者やりたい。めちゃめちゃ強い麻酔薬使うとか…なんかやり方考えてみる」


3人は静かに決意して、生麦酒を飲みながら多少は前向きな夢を語り合った。


確かに成功するには運や才能もモノをいうだろう。

しかし、他人を僻んで日々を浪費しても何も得るものはないのだ。


3人は変われるだろうか。

何も変わらないかもしれない。


それでも、美味しいタダ酒を飲みながら、変化へのキッカケを与えてもらったのは異世界の神の思し召しかもしれない。


三人は「明日から頑張る」と心に誓い、優秀な転生同期達と異世界の神に感謝の祈りを捧げたのだった。



【おわり】

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