Case2 親友が出来婚しそうな36歳

第7話


私には中学の頃から何かにつけ一緒だった、いわゆる親友がいた。

彼女は自由奔放、私は真ACアダプター面目。

そんなある意味凹凸な組み合わせが、長年上手く行っていた秘訣なのかも知れない。


お互い同じ高校に進学し、大学は別々だった。

しかし大学に入っても、だいだい2ヶ月に一度は地元で会っていた。

お互い実家暮らし、家がまだ近いからマメに会えていたのだと思う。



彼女は誰とでも仲良くなる性格なのだが、本命の男性には何故か奥手だった。

好きな人が出来ると真っ先に私に報告し、相談してきた。

私の方がむしろ交際経験なんて無いに等しいのに、少しでも力になりたくて必死に相談に乗った。


成功した、失敗した、告白された、全て彼女から報告が来た。

離れていても、彼女の行動が手に取るようだった。

私はこれが繋がっていることだと嬉しかった。




就職をした。

私は公務員、彼女はとある企業の営業だった。


私にだって彼女の他にも友人はいる。

そんな友人達と折々にグループで集まることもあった。

友人達と会えば、話すのはまず仕事のこと。

話していて少し時間が経てば会社の愚痴、もう少し経つと、転職の話と同時に、結婚の話が聞こえ始めた。


そうなると話す内容が変わってくるわけで、今まで同じメンツで集まっていたはずなのに、グループの中にグループが出来だした。


いわゆる、既婚か、未婚かのグループ。


もちろん結婚してもみんな最初は仕事をしていたから、なんだかんだ仕事の話が共通として存在した。



そして次の段階に行く。

未婚か、結婚しているけれど仕事をしているか、結婚して仕事を辞めたか。

いつも集まっていた飲み会もどんどん参加者が減り、何故か内部で変な差別意識が増えてきた。


結婚していて仕事を続けているのは、経済的な問題か、仕事のレベルの話なのか。


そしてここまで来ると、もう皆で集まることはほぼ無くなっていた。


未婚か、結婚しているけれど仕事をしているか、結婚して仕事をしていないか、そして子供がいるかどうか。


小さな子供がいる友人は、夜の飲み会に参加するのは不可能だった。

この状況になると、今まで何とか繋がっていた関係はカオスになっていく。



誰かがふと、また集まりたい、みんなどうしているだろうと、SNSのグループで言い出す。

そして、良いね、会いたいね、と盛り上がり出すのに、同時に、私は仕事が忙しい、夫の相手が大変、子供の世話が大変と各自のアピールが始まった。

ようは言うだけ言って、だれも幹事という面倒なことをしたがらない。


私だって独り身だけれど仕事は忙しい。

なのに、周囲からすれば、実家暮らしの未婚は、自由時間が満載の一番気楽な存在に見えるらしい。


実は母の体調が悪くて、私が家族のご飯を作っているなんて友人達は知らない。

家の家事もしているなんて知らない。

ようは私が家を出ると家族が困る状況だから出られないなんて事は知らない。


だってそんなこと、いちいち他人に報告して回る事でも無いからだ。




結局私は周囲の圧力を感じ、仕方なく幹事を担当した。

みんなが喜ぶのならとはじめたものの、これがとても面倒で大変だった。


仕事をしている人は夜が良いと言い、子供がいる人は昼が良いという。

平日昼なんて仕事している人間は無理なのに、平然と平日昼間を指定してきた子には驚いた。


では土日どっちかのお昼にしようとすると、酒が飲みたいからそういう店にしてというメンバーと、小さい子がいて早々家から出られないからせめてこういう時くらい出かけたいから、子供もOKな店にしてくれという。


正直、小さな子供の居る友人達がお店の選択肢を狭めてくる。

赤ちゃんがいるから泣いても大丈夫な場所、子供が歩いてもあまりケガしない場所にして、なんて言われる。


私達だってずっと育児で大変なのだからみんなと会いたい。


子供をおいて行けないなら、参加するなと言うの?と、思い切りダイレクトに幹事をしている私にだけ直接文句を言ってくる。



これを、仕事をしているメンバーに伝えると今度はそちら側の不満が爆発する。

何故私達が我慢しなければいけないのか、と。

友人には子供が欲しいのに出来ない子もいる。

子供は欲しいけれど、結婚しても経済面で諦めている子もいる。

そしてそもそも結婚していない私みたいなのもいるのだ。


もうそれは隣の芝は青いどころか、燃えてしまえな勢いだ。



結局一度だけ子供連れOKなレストランの個室で集まることにしたが、一番不満を訴えてきたのは、子供のいないメンバーだった。


その時はみんな笑顔だったけど、終わると同時に私の所には愚痴が多方面から送られてきた。

誰もやらないから仕方なく引き受けたのをみんなわかっているはずなのに、そんな幹事をした私が、なんでこう不満受付所としてその後も対応しないといけないのだろうか。

私はヘトヘトになって、二度とこのグループで幹事などするもんかと思った。



*********



「って事があってさ」


私、岡田愛は中学時代からの親友である、岡口彩に愚痴をこぼした。


彩とは名字が同じ岡で出席番号が近く、名前も「あ」で始まり、漢字1文字、読みは2文字という共通点もあり、仲良くなるのに時間はかからなかった。


その彩と、行きつけのバーで飲んでいた。

バーと行っても食事も色々出すし、話をしたりゆっくりするのにとても良いのでいつも二人で夜会う時は定番のこの店になっていた。


「そりゃー面倒だったねー」


彩はあまり同情を感じさせない声で揚げ物を口に運びながら返し、私はカクテルのグラスを持ったままため息をつく。


「中学高校の集まりだったら彩を巻き込んだのに。

今回は残念ながら大学のだったからね」


「えー、私そういうのそもそもやれないし」


「そうやって面倒なのを私に任せる癖、相変わらずだよねぇ」


彩はちゃっかりしていて、そういうのを上手くすり抜ける。

私にはそんな芸当は出来なくて、真面目に正面から対応してしまうのだ。

けど彩は、なんだかんだ言ってもそれなりにバックアップしてくれる。

だから続いていられるのだ、この関係が。



「この頃、何か恋愛面で進展は無いの?」


彩のいつもの問いかけに、私は首を横に振った。


「仕事場との往復で相手が見つかったら奇跡だわ。

気がつけば自分の周りには既婚者か、めっちゃ若い男性しかいない」


「40代くらいで独身の男性っていないの?」


「いるよ。

何で一人なのかなって思う人も居れば、居ないのも無理ないなって思う人も居る」


「へー。何で一人か聞いたこと無いの?」


面白そうに突っ込んでくる彩に、私はうーんと唸った。


「本人には聞いたこと無いけど、噂では理想が高いとか、長男で家を継ぐ必要があるとか色々。

勝手な噂ばかりで内容は信用出来ないね。

まぁ公務員なのに結婚していないと、どうしても周りは勘ぐるから」


「そういうの鵜呑みにしないとこ、偉いね」


「私だって30代半ばで男もいないのは何故だって、変な噂がたってるんだから」


「うわ、そうなの?ちなみにどんな?」


「それこそ理想が高いだの、実は子供の産めない身体なんだろうとか」


「ちょっと、最後のは酷いんじゃない?」


思い切り眉間に皺を寄せた彩に、私は苦笑いを浮かべる。

残りが少なくなったカクテルのグラスを持ちながら、


「でもさ、子供が出来ないって夫婦だと原因は半々なのに、女性のせいだってされやすいよね。

それに私はきちんと調べてもらった訳じゃ無いし、それこそタイムリミットは近づいてるわけだし」


「高齢出産なんてこのご時世ザラじゃない」


「そうだねぇ。

でもその分の養育費と自分達の老後の資金は?

それこそ家一軒建てるくらいの費用が子供にかかんのよ?

スタートが遅くなる分リスクはどんどん増えるわけだ」


「そうなの?」


「そうなの」


不思議そうにする彩に、私は苦笑いしつつ答えた。


「で、そっちは?」


そう私が振ると、彩はうーんと言いながら首をかしげた。

話したいような素振りを感じ取り、


「なに、いるの?」


私は彩が話しやすくするように、ほら白状しなさいよと言葉を続ける。


「いや、気になる人は、居るって言えば、いるんだけどねぇ」


未だ首をかしげて腕まで組んで悩みながら彩が言う。


「歯切れ悪いわね。

え、もしかして彼女が既にいるとか、奥さんがいるとか?!」


「まさか!違う違う!

何て言うのかな、会社でそれなりに親しくしてくれてるとは思うんだけど、女としてどう思ってくれてるかわからないんだ」


私は、へぇ、と返した。

ここまで奥手な状態だという事は、これはかなり本気なのだろう。


「いいなぁ、好きになれる人がいて」


私は思わず呟いた。


「なにそれ」


「だから、恋人になる以前に、好きだなって思える人がいるって事がいいなと羨ましく思ったのよ。

恋するだけで女は綺麗になれるんだし」


「まぁそれはわかる」


「下手な高級化粧品より、恋してる!って女性ホルモン出まくってるほうが絶対美容にも心にも良いじゃない」


「ついでにHするともっと良い」


真面目な顔で突っ込んできた彩と顔を見合わせて笑う。


「まぁ、彼にダメもとでぶつかって来たら?

勝算がゼロって訳じゃ無いんでしょ?」


私がそう言うと、そうだねぇと彩が苦笑いを浮かべている。


「お互い頑張っても独身だったらワンルームマンションでも買おうか、それも隣同士で」


私は新しく来たカクテルを一口飲むと、にやりと彩に言った。


「えー、それで二人でよぼよぼ歩きながら買い物行くの?」


「そこまで一気にいかないでよ」


思い切り嫌そうな声を出した彩に、私は笑った。


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