第51話「領都グリーンウッドの政策方針」
領都に幾つもある巨大なメディカルセンターでは医療用のナノマシンが大活躍していた。医療ポッドに入った病人はすぐに完治したが、栄養不足の者が多かったので入院して点滴を受けることになった。
四肢の欠損までも再生するナノマシンにより、自分の体を取り戻した人々の歓声がセンター内に響いていた。
「俺の足が再生した。奇跡だ」
「長年治らなかった病気が完治したわ。信じられない」
「ご領主様のおかげだ。ありがたや」
「俺の指も動くようになった。ここに来て良かった」
「家もくれると言うし、ご領主様は神様みたいなお人だ」
人々は、奇跡だと喜び、奇跡を与えてくれたレンヌ伯爵を神と称えた。
更に、治療を終えた人々は住居に案内された後、その地区にある食材や衣服の無料配給センターに向かった。
配給センター内では、音声ガイダンスが無料配給の説明をしていた。そのあと、それぞれの地区の集会場に集められて、職業斡旋所や学校教育に関する説明を受けた。
子供のための学校教育は領民の義務とされ、怠ると領民の資格を失うこともあると注意があった。学校と病院は無償で活用できる。それでも生活が苦しい者は、役場に申請すれば支援が行われると説明を受ける。
魔石と魔物の素材が売れる事を知ったレンヌは、エルフを指揮官にしてロボット部隊を多数作った。そして、ロワール王国に点在する『魔物の森』で狩りをさせようと思った。
レンヌはギルマスのゴランに相談した。
「領都運営のために魔物狩りで資金を捻出しようと思うんだけど?」
「ああ、あれだけ無料政策を出したら、そりゃあ資金も不足するわな」
「新しい領地には必要な事なんだ」
「それは理解している。ただ、魔物を狩るのは推奨するが、程度をわきまえろよ」
「程度と言われても初めてやるので、どのくらい狩っていいのか分からん」
「お前のことだから国中で狩りをするつもりなんだろう?」
レンヌは驚いてゴランに聞き返した。
「どうして分かった?」
「やっぱりか。困った奴だ」
「ギルマスは人の心が読めるのか?」
「ああ、読めるぞ。単純馬鹿限定だがな」
レンヌは心当たりがあるので反論を控える。
「ギルドの支部一つにつき持ち込む魔物は百体までだ。それ以上持ち込むと、解体場の主任が怒り狂う」
「分かった。数には配慮する」
「それから、魔石と魔物の素材を傷つけるよ。価値が大きく下がるからな」
「忠告ありがとう」
魔石と素材を傷付けないように、基本武器はパラライザーガンという麻痺銃を使う事に決めた。ゴランの忠告通りに魔物の討伐数と売る場所は、アルテミス1が調整する。
更にレンヌには構想があった。グリーンウッドからトリニスタンに通じる街道の間に街を造り、周囲を開拓して耕作地を作ろうと思っていた。それは、将来的な食料の確保を一つの目的としていたが、街道の安全を図るという目的もあった。
それだけでは、20万人の領民を養えないので、グリーンウッドに近い白壁山脈の麓の森を開拓する予定だ。開拓地は自分の領土にして良い、との許可はブロッケン宰相から既に貰っている。
前もってロワール王国と国内の貴族領から食料を買い付けていたが、思ったよりも移住者の集まりが早かったので食料不足が懸念された。そのため、レンヌは緊急で食料の調達が必要になった。それで、リール王国とミュウレ帝国からも食料の買い付けを行う必要がでた。
だが、それは一領主が勝手には出来るものではない。そのための許可を国に貰う必要があった。レンヌはブロッケン宰相と謁見をするために王都に向かう。出発前に、アイシス伯爵に連絡して宰相の謁見予約を取ってもらった。
アイシス邸に一泊する予定だったので、今回は評判が良かったケーキを持参した。
「艦長、お世話になっているアイシス伯爵家の家人の方たちの分も用意したので、忘れずに持っていってください」
「おお! アルテミス1、気がきくな。そこまで頭が回らなかった。助かったよ」
「いいえ、どういたしまして」
いつも通りにアイシス伯爵邸の前庭に着陸すると、玄関前にアイシス伯爵夫妻と多くの家人が並んでいた。
レンヌが先に降りて、そのあとを宙に浮いた運搬台がいくつも続く。運搬台の上には白い紙箱が見えた。
「きゃあああ! きっと、あれがそうよ」
「楽しみだわあ」
「お前たち、はしたないぞ」
と注意しようとしたアイシスは、隣で唾を飲み込む妻を見てため息をついた。
「はあ。アイリーン、お前もか!」
王城で宰相と謁見して両国に行く許可を貰い、その上で領地名と家名の届けを出す。
「レンヌ伯爵、両国への先触れは王国から出しておく。日程は先ほど打ち合わせた通りだ」
「宰相閣下、ありがとうございます」と礼を言ってレンヌは王城を出た。
城を出てすぐに、レンヌはアルテミス1に命令を出した。
「ミュウレ帝国とリール王国に偵察用の小型ドローンを放て、至急に結果が欲しいので出来るだけ多くのドローンを使ってくれ」
「艦長、調査目的をお願いします」
「両国と交易をする必要が出来たので、交易に使える情報が欲しい。特に、塩や農作物と特産品についてだ。市場の動向も調べてくれ」
「了解しました。小型ドローンの製造許可をください」
「許可する」
領民の募集をしてから五日が経ち、ひとまずは移住希望者の申込みも落ちつきをみせた。
その間にレンヌはアニエスとイネスの二人と話し合っていた。領都の中央付近に地上800メートルのタワーがある。最上階の下が司令官室で、最上階全部がレンヌの居住空間だ。レンヌの自慢は360℃パノラマ展望風呂だ。タワーの一番上にあるので、ワイバーン以外には覗かれる心配も無い。
「それじゃあ、結婚式は別々がいいと言うんだな?」
大きな胸を隠そうともせずに、下半身だけを浴槽に沈めたアニエスが言う。
「ええ、イネスとも相談しましたが、面倒でも別々にしたいのです」
「面倒だということは無いが、エルフ族も二度集まることになるが」
浴槽の縁に腰を掛け、クビレた腰と長い足を晒したイネスが笑いながら言った。
「それが、皆の狙いなのですよ。レンヌ殿、ふふふ」
「狙い?」
「結婚式を二度行えば、レンヌ様が教えてくださったウェディングケーキが、二回食べられるではないですか」
「ウェディングケーキを二回食べるために結婚式を二度するというのか」
レンヌは開いたままの口を閉じてから言う。
「ところで、二人とも。婚約したというのに殿や様はおかしくないか? 貴方とか旦那様とでも呼ぶかい?」
「それは……」と言って、アニエスは大きな胸を隠さずに、両手で顔を隠した。
イネスは浴槽に体を入れて、真っ赤になった顔を横に向ける。
『長命なエルフ族は恥じらいというものが薄いのです。ですから、レンヌ様。羞恥心が無いとは思わずにご容赦ください』と言っていた最長老のネメシスの言葉をレンヌは思い出した。それでも、ときおり恥じらう姿を見せるのでレンヌは思わず、からかいたくなるのだ。
ネメシスが言うことに、確かに思い当たる節がある。それは、さっきの出来事。
レンヌが展望風呂に入っているとアニエスとイネスがとつぜん入ってきた。いきなり全裸で現れた二人は、私たちもご一緒させてくださいと言って俺に許可を求めた。そのような状況で断るほどの余裕がレンヌにはなかった。レンヌは『にごり湯の入浴剤』を浴槽に投げ入れて、慌てて湯の中に入り下半身を隠した。いかにレンヌがヘタレと言っても、極めて美しい二人の全裸を見て興奮しない訳がないのだ。
「結婚式の主役はアニエスとイネスなのだから、二人の言う通りにしよう」
とレンヌは言った。二人は大喜びでレンヌに飛びついた。レンヌの左肩は巨大な谷間に埋まり、右肩には柔らかい感触が押し付けられた。レンヌは浴槽から出る事が叶わずにノボセて意識を手放した。
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