第47話「巨大魔石」

アルテミス1の報告を聞き終わったすぐ後に、工業都市が見えてきた。宙港に着陸して、自動運転車に乗りかえたあと倉庫地区へと向かう。

ヴァリトラの死骸が置いてある保冷倉庫に入った。両側に保冷庫が立ち並ぶ、広大な倉庫の中を車で走る。一番奥の巨大な保冷庫の前で車を降りた。


 保冷庫の扉をアルテミス1が開く。中にヴァリトラの死骸が置いてあった。

「解体準備は出来たか?」

「はい、艦長。準備は出来ています」

「じゃあ、開始してくれ」

「承知しました。邪竜ヴァリトラの解体作業を開始せよ」


 レーザーメスを備えた箱型の大きなロボットが、ヴァリトラの周囲を取り囲んだ。一斉に接近して解体を始める。アルテミス1が解体プログラムを入力したロボットが、次々に現れてヴァリトラの解体を進める。

 

 レンヌの見ている前で外皮が取り除かれ、肉が処理されていく。学術サンプル用の血や肉などが採取される。

「艦長! 発見しました」

「見つかったか!」

 レンヌが、アルテミス1に頼んでいたヴァリトラの魔石が見つかった。反重力装置付きの運搬台に巨大な黄色の魔石が載っている。運搬台は静かにレンヌの前に降りた。


「デカイな!」

「直径120センチの正多面体構造で重量は200キログラムです」

「200キロ! 俺の体重の三倍以上か。けっこうな重量だな」

 アルテミス1の報告が続く。

「魔石を分析した結果、属性は土です」


 演算処理能力、秒間5000京回を誇るストラスブール王国のマザーコンピューターの系列機であるアルテミス1は、高度な演算処理能力に加えて最新鋭の積層式次世代型人工知能なので疑似人格を有している。その、アルテミス1が『魔法の理』を求めて解析した時に得た魔法の分析情報である。しかし、魔法には未知の部分が多すぎて解析は済んでいない。


「ところで、この魔石はどうしたらいいんだろう?」

「艦長、冒険者ギルドに持ち込んでは、どうでしょう?」

「なるほど、それは良い手だ。そうしよう。ところで運搬台ごと持っていっていいか?」

「艦長。運搬台のリモコンをお渡しするので、それで操作してください」


 ドローンが飛んできて運搬台のリモコンをレンヌに渡した。

 レンヌは試運転をしたが、初めてにしては問題なく動かせたので安心した。運搬台を自動運転車のトランクに積んで、宙港で飛空艇に載せ替える。そのまま、領都「トリニスタン」に向かった。


 飛空艇を冒険者ギルドの裏にある屋外訓練場に降ろし、ギルドに入る。運搬台を操作して冒険者ギルドの裏口から中に入った。レンヌの前を、宙に浮く運搬台が行く。たまたまギルドにいた冒険者たちは浮いている運搬台に驚いた。しかし、その中にある黄色の巨大な魔石をみて、もっと驚いた。


「なんだ、ありゃあ?」

「でかい! デカすぎる」 

「あんなに大きな魔石が存在したのね」

「この世の物とは思えない」

「あんなに大きな魔石を持つ魔物って、どんな大物なんだよ」


 ギルドの中で冒険者たちが騒いでいたので、カウンターの奥からサブマスのグレイが出てきた。

「いったい、なんの騒ぎだっ……てえええ。なんじゃ、こりゃあ!」

 直径120センチもある魔石が台の中に入って浮いている。

「やあ、サブマス。ギルマスはいる?」

「また、お前かレンヌ。騒ぎがあれば、いつもお前だな。ギルマスは執務室だ」

「それは心外だな、グレイ。俺が騒ぎを起こすんじゃなくて、騒ぎの方が俺に寄ってくるんだよ」


「屁理屈を言うな」

「屁だって、理屈を言うぞ」

「なんて、言うんだ」

「ブゥ、ブゥ」

「それは理屈じゃなくて、文句だろ」

「そうとも言う!」


 運搬台を先行させて階段を上り、一番奥のギルマスの部屋のドアを叩く。

「ギルマス、レンヌです」

「おう、入れ」

 ドアを開けて運搬台を先に入れる。レンヌは、入りますと言って台の後に続いた。

 ゴランが書類仕事を止めて、顔を上げレンヌの方を見る。必然的に宙に浮いている物体が視界に入る。


「なんだあ、それは?」

 宙に浮かんだ運搬台と、その中に入っている魔石を交互に見比べてゴランは言った。

「俺はいったい、どっちに驚けばいいんだ!」

「どっちでもいいというか、どうでもいいというか。そんなことより、ギルマスに頼みがある」

「どうでもいいとか言うな」

 とりあえず、ツッコミを入れてからゴランは言った。

「で、頼みとは?」


「この魔石を処分したい」

「これを売るのか? 本当にいいのか」

「えっ! 売っちゃ不味いのか?」

「不味いことはないが、もったいないぞ」

「もったいないとは?」

 ゴランは立ち上がり、執務机を回り込んでお茶の準備をする。

「まあ、とりあえず座れ」

「あ、ああ」

 レンヌが腰掛けるとゴランはお茶を差し出した。

「ありがとう」

 ゴランに礼を言ってレンヌはティーカップを持ち上げた。

 

 ゴランはレンヌの対面にあるソファーに座った。

「それほど巨大な魔石になると購入希望者が殺到する。しかも並の人物じゃない。王族や貴族の他に、大商会の会頭や大金持ちなどが来るんだ」

「騒ぎになる?」

「いや、そうならないようにオークションというものが開催される」

「オークションなら知っているが主催は誰が?」


「問題はそこだ!」

「どこだ?」

 レンヌは、後ろを振り返って言った。 

「いや、ボケなくていいから」

 ゴランは手をヒラヒラさせて言う。

「そうか、すまん」


「オークションの主催者には、当然ながら莫大な手数料が入る」

 ゴランはお茶を一口飲んだ。

「だから、その魔石の情報が漏れると有象無象の輩がお前の所に押し寄せてくる」

「じゃあ、どうすればいい?」


「方法は二つある」

 レンヌは冷めかけたお茶を口に含んだ。

「一つは信頼できる人物や組織に頼む。もう一つは国の後ろ盾を利用する」

「国の後ろ盾って?」

「お前、一応は伯爵なんだろう。自覚は無いようだが」

「まあ、その通りだから反論はしない」


 ゴランは言う。

 貴族ならば自国の王家に献上すると恩賞として領地とか褒美が貰える。しかし、それだけ巨大な魔石の恩賞を考えたら、ロワール王国の国土の半分は渡さないといけない。現実としてそれは無理だから王家も献上しろとは言わないだろう。

 献上する代わりに売上の何割かを税として納める事になる。税が少しでも高くなるように、お前に代わり国がオークションを取り仕切ってくれる。


「なるほど、それは理解した。でも信頼できる人物や組織って?」

 ゴランは大声を出した。

「お前は! いったい、どこの組織に所属してるんだ?」

「あっ! すまん。忘れてた」

 ゴランはソファーの上から滑り落ちた。

「お前な!」


 ソファーの下に寝そべりながらゴランは呆れてしまう。これがウチのギルドのエースか、と落胆する。


「それなら、ギルドのトリニスタン支部に任すよ。ここに置いて帰っていいか?」

「いや、困る。持って帰れ」

「ケチだな、ゴラン」

「お前な、そいつの価値が分かっているのか?」

「いや、それくらい分かってるよ。なんせ恩賞が国土の半分だからな」

「そ、そうか。分かってるなら持って帰れ。そんな物は保管場所に困る」

「じゃあ、ゴラン。オークションの事をお願いする」

「おう、了解した。詳しい事が決まったら連絡する」


 レンヌは運搬台と一緒に飛空艇に戻った。そして工業都市に行き、魔石を金庫に保管した。それから、工業都市の移転の事を考えた。

「アルテミス1、反重力装置の進捗状況はどうだ?」

「艦長、順調に進んでいますが、搭載する運用艦の状況も踏まえると、完成までは後96時間を要します」

「わかった。目処がつき次第報告してくれ」

「わかりました、艦長」



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