ヒトの変態

Umi

第1話 変態

 ――新暦500年


 人類絶滅論を唱える思想家が核保有国にて国家元首になったことで起こった核戦争から丁度500年の時が経った。

 500年も経つと狂っていた環境もある程度安定し始めて放射能に耐性を持つ動物が多く生まれた。

 ヒトも数世代に渡って放射能を浴び続けていたことで耐性を得ることが出来た。しかしヒトだけは耐性を得る際に副産物を得ていた。それが【変態】だ。昆虫でよく聞く変態だが、ヒトの変態は他の生物が持つ特徴を発現させるというものだ。もちろん哺乳類という枠組みから大きく外れる力を得ることもある。

 【変態】で野生の力を得たヒトは自分の力を誇示するかのように弱者を痛めつけた。

 僕はもちろん痛めつけられる側の人間だ。色々な要因があると思っているけど一番の理由は……僕には【変態】が出来ないからだ。

 そもそも【変態】とは自分の意思で行って一時的に野生の力を得るものなのだが、僕がいくら【変態】しようとしても体力を使うだけで、身体に変化が現れないんだ。蟻のように見た目からは考えられない力や蜥蜴のような再生力を得たのかもと検証をしてみもしたが……言わずもがなである。

 そんな僕は今日も変わらず痛めつけられていた。僕を痛めつけるのは、ここら辺を取り仕切ってる蟷螂の力を得たティスだ。

 あいつは僕に野生の力がないのが分かるや否や蟷螂の野生の力で変化した両腕の鎌で僕の腕を浅く切り付けた。浅い傷だったため薬草を使って綺麗に治すことが出来たが、その日から絶望の日々が始まった。

 朝早くに起こされ雑用をやらされる。少しでも動きを止めたら鎌で切りつけられた。今の僕は身体中に薬草で治りきらなかった傷が身体中に広がっていた。

 そんな僕にも転機が訪れた。それは僕たちが過ごす村が動物に襲われたのだ。動物と言っても猪や熊などの凶暴と言われていた動物ではない……兎だ。

 放射能によって過剰に進化した兎は核戦争以前の文献に載っている熊くらいの体躯を持ち、その強靭な脚から放たれる蹴りは巨木を一撃でへし折る力を持つ。

 元が兎なためヒトを襲うつもりなどはなかったのだろう。ただ進む道の先にヒトの村があっただけなのだ。

 どうして兎が襲ったのを僕が知っているかと言うと兎の右脚が切り裂かれて落ちているからだ。きっとティスが頑張ったのだろう。僕は少し悩んだ。強い動物ほど美味いというのはこの世の常識なのだが、ここで肉を調理してしまえば匂いに釣られて凶暴な肉食獣が寄ってきてしまうかもしれないからだ。しかし僕は『変態』出来ない未熟者。力のない僕が一人で森を放浪しても直ぐに死んでしまうからと思った。だから最後の晩餐は美味しくしようと兎肉の調理を始めた。

 調理と言っても調味料などの高価なものはうちの村には置いていないため、ただの炭火焼きとなったのだが……今まで食べてきた野菜とは比べ物にならないほどに美味しそうだった。

 炭で焼いた兎肉は巨木をもへし折る脚の肉とは思えないほどに柔らかく、噛んだ瞬間炭火焼きの遠赤外線によって凝縮された旨味が口の中に弾け飛んだ。

 

「美味い――!!」


 あまりの美味しさに僕の目からは涙が零れていた。

 涙が地面に落ちた瞬間草むらが揺れる音がした。ああ、最後の晩餐に相応しいご飯だった。

 音のした方へと振り返ると熊の姿があった。しかし現代の超巨大な熊とは比べ物にならないほどに小さく脚から推測される兎のサイズよりも小さく思えた。しかしいくら進化することの出来なかった古代種だからと言って【変態】の出来ない僕からしたら十分な驚異であった。

 どうせ最後なんだからとヤケになって【変態】を意識した。やはりなんの変化も訪れ……た。

 僕の脚の筋肉が異常に発達し始めたのだ。僕も最初は絶望で幻覚でも見ているのかと思っていたのだが、確かに自分の感覚でも脚の筋肉は発達しているのが分かった。脚の発達の仕方はまるで兎のようなだった。

 これが夢でもいいから力があるのなら抗いたい。そう思った僕は地面を蹴りつけた。

 その一歩は10数mは離れた熊との距離を一気に詰めた。一歩だけで熊との距離を詰めることが出来るなど考えもしてなかった僕は咄嗟に脚を前に突き出して前蹴りの構えを取った。

 僕の放った前蹴りは熊の身体を抉り絶命に至らせた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

主人公……変態【兎】?

ティス……変態【蟷螂】 死亡


ここからはあとがきです。


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