第37話 バイト代
魔力研究所から先月分のバイト代が振り込まれた。
本1冊の翻訳と、数時間の通訳をやっただけにしては結構な額だ。
先月の後半は、ムキになってランク上げをしていたから、翻訳をしている時間が少なかったが……。
割のよいバイトだし、今月は翻訳の仕事を増やそうかな。
俺が暮らしていた26年前と比べ、インフレ化が進んでいる。
とくに食料品の値段が何倍にもなっていて、家計を圧迫しているのは問題だと思う。
食料生産には、広い土地が必要だし時間もかかる。
その土地が、魔力渦の出現で消えてしまうのだから、生産者は多大な痛手を負うことになる。
生産者が減ってしまう理由は理解できるが……。
だからこそ、国が後押しをしないと先細りな気がする。
これは食料に限った話しではなく、すべての生産品が足りていないのが現状のようだ。
年末まではこの家で世話になるつもりだから、バイト代から生活費を渡すのは当然の流れ。
夕食を終えてお茶を飲んでいるタイミングで、
「バイト代が入ったから、生活費を渡す」
と話題を切り出した。
「蒼大くんには、まだまだお金が必要になるだろう。今はそんなこと気にしなくていいんだよ」
「そうだよ、兄さん。装備とか高いんでしょう?
お金をもらうよりも、それで安全を買ってほしいな」
「言うと思ったよ。
バイト代が入ったのにタダ飯をご馳走になるわけにはいかない。
どうしても生活費を受け取らないと言うなら、俺は下宿先を探して出て行くしかないんだが?」
妹と蒼介さんの顔を交互に見て、どうする? と問いかける。
「蒼大くんは大げさに考えすぎだと思うよ?」
「兄さんの性格は知ってるけどさぁ、そこまでしなくても、ねぇ?
こんな時代なんだもん、助け合いが必要だよ?」
「シーカーに金が必要なのは事実だ。
そこの二人は俺より金が必要になる。
今は収めといて、来年二人のために使ってやってくれないか?」
子どもの将来を引き合いに出した結果、妹夫婦は受け入れてくれた。
甥と姪のことを想う気持ちは本当で、
俺の装備よりも質のよい物を身に着けてほしいと思ってしまう。
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