第27話 再会
岩沼さんが運転していた車が停車した。
「このマンションで妹さんが暮らしています」
そう聞いて、心臓がバクバクしてきた。
魔王との戦いでもこんなことなかったのに、落ち着け俺!
『ポジティブに行こう!』
と、覚悟を決める。
「送ってくれて、ありがとう」
「いえ。これも仕事ですから、お気になさらず」
――――ガチャリ。
ドアを開け岩沼さんが車を降り、
「安心してください。妹さんと家族の方には、足守さんの現状はきちんと伝えてあります」
俺は心を決めて車を降りる。
「それでも、どう接すればいいか悩む」
「大丈夫です。みなさん、ちゃんと理解されていましたし、早く会いたいと言っていましたよ?」
「そうだな。当たって砕けろだ」
最後の最後で、岩沼さんから事務員の仮面が少し外れたような、そんな気がした。
こんな話しをしながら歩いていると、106号室のドアの前で岩沼さんがこちらを見て、
「ここです。よろしいですか?」
「OKだ」
――――ピンポーン。
『はーい』
ドアの中から女性の声が聞こえる。
――――ガチャ。
ドアを開けて出てきたのは、写真で見た妹の面影があるオバサンだった。
「兄さん。おかえり!」
「あぁ。ただいま」
◆
家の中に入った俺たちを、妹の家族は歓迎してくれた。
ワイワイと騒いでいると、岩沼さんが割って入った。
「ご歓談中に申し訳ありませんが、手続きを進めさせてください」
ブリーフケースから書類を取り出して、机の上に並べると、
「先日もお話ししましたが、改めて説明いたします」
いつもの事務員モードに戻った岩沼さんはテキパキと事を進め、書類を持って返って行った。
リビングには、よそ者の俺を入れて5人。
さっきの騒がしさはどこへやら、すっかりお通夜モードになってしまったぞ。
妹の
旦那さんは
義理の弟になるが、改ざんされている書類上では
長男の
長女の
甥と姪だが、書類上では
26年という、過ぎ去った時間を実感する。
「足守
「ナニソレ? 兄さん、喋り方がヘン」
「まぁ、あっちでイロイロあったからさ。変わりもするよ……」
「そっか……、そうだよね……」
「それと。葵の知っている兄は死んでいる」
岩沼さんが置いていった書類を、トントンと指先で叩く。
「これが俺の今の戸籍だ。外では絶対に兄と呼ばないようにしてくれ」
気をつけてもらわないと、世間に俺の素性がバレたら、俺も妹もペナルティを負うことになる。
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