第27話 再会



 岩沼さんが運転していた車が停車した。


「このマンションで妹さんが暮らしています」


 そう聞いて、心臓がバクバクしてきた。


 魔王との戦いでもこんなことなかったのに、落ち着け俺!


『ポジティブに行こう!』


 と、覚悟を決める。


「送ってくれて、ありがとう」


「いえ。これも仕事ですから、お気になさらず」


――――ガチャリ。


 ドアを開け岩沼さんが車を降り、


「安心してください。妹さんと家族の方には、足守さんの現状はきちんと伝えてあります」


 俺は心を決めて車を降りる。


「それでも、どう接すればいいか悩む」


「大丈夫です。みなさん、ちゃんと理解されていましたし、早く会いたいと言っていましたよ?」


「そうだな。当たって砕けろだ」


 最後の最後で、岩沼さんから事務員の仮面が少し外れたような、そんな気がした。


 こんな話しをしながら歩いていると、106号室のドアの前で岩沼さんがこちらを見て、


「ここです。よろしいですか?」


「OKだ」


――――ピンポーン。


『はーい』


 ドアの中から女性の声が聞こえる。


――――ガチャ。


 ドアを開けて出てきたのは、写真で見た妹の面影があるオバサンだった。


「兄さん。おかえり!」


「あぁ。ただいま」




     ◆




 家の中に入った俺たちを、妹の家族は歓迎してくれた。


 ワイワイと騒いでいると、岩沼さんが割って入った。


「ご歓談中に申し訳ありませんが、手続きを進めさせてください」


 ブリーフケースから書類を取り出して、机の上に並べると、


「先日もお話ししましたが、改めて説明いたします」


 いつもの事務員モードに戻った岩沼さんはテキパキと事を進め、書類を持って返って行った。



 リビングには、よそ者の俺を入れて5人。


 さっきの騒がしさはどこへやら、すっかりお通夜モードになってしまったぞ。


 妹のあおいは、新見にいみに名字が変わっている。39歳。


 旦那さんは蒼介そうすけ


 義理の弟になるが、改ざんされている書類上では叔父おじになる。42歳。


 長男の雄二ゆうじ。15歳。


 長女の一花いちか。同じく15歳。


 甥と姪だが、書類上では従兄弟いとこになる。


 26年という、過ぎ去った時間を実感する。


「足守 蒼大そうただ。これから、暫く世話になる。よろしく頼む」


「ナニソレ? 兄さん、喋り方がヘン」


「まぁ、あっちでイロイロあったからさ。変わりもするよ……」


「そっか……、そうだよね……」


「それと。葵の知っている兄は死んでいる」


 岩沼さんが置いていった書類を、トントンと指先で叩く。


「これが俺の今の戸籍だ。外では絶対に兄と呼ばないようにしてくれ」


 気をつけてもらわないと、世間に俺の素性がバレたら、俺も妹もペナルティを負うことになる。


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