第30話 斬蔵の過去
「俺が居た国は戦乱に明け暮れてたんだよ。で、裏の工作活動を行うのが忍者ってヤツなんだ」
「裏の工作活動? それは聞き捨てなりませんねー。例えばどういう事をやったんですか?」
『裏の工作活動』という怪しい言葉にエレナは強く心を惹かれた様で、キラキラと目を輝かせて更に尋ねた。すると斬蔵は恐ろしい事をさも何でも無い事の様に言った。
「ああ、色々やったな。まず情報収集だろ、それと敵の機密事項を探ったり……あとは強奪とか暗殺とか」
強奪に暗殺と物騒な事を言う斬蔵にセレスの表情が曇ったが、斬蔵はそれに気付かず尚も語り続けた。
「奇襲とか陽動作戦なんてのもやったな。まあ、基本的には汚れ仕事だよな」
言ってから自虐的に笑う斬蔵にセレスは震えながら呟いた。
「ザンゾーさんって、何人も人を殺めてきたんですね……」
斬蔵の戦いぶりを見て、斬蔵が何度も死線を越えて戦ってきただろうという事ぐらいはセレスにも分かってはいた。だが、こうはっきりと言われると……
セレスの足が震え出したのに気付いた斬蔵は、言わなくても良い事を言ってしまった事を後悔しながら言った。
「それが忍者ってヤツだからな。まあ、国があんな状態だったから、それが普通だったんだよ」
斬蔵の居た日ノ本は戦乱の時代で、何人もの小国の王が日ノ本統一の野望に燃え、各地で戦いを繰り広げていた。斬蔵は、ある小国の王が従える忍者の一人で上の命令は絶対なのだと説明する斬蔵にセレスは言葉を失い、エレナは不思議そうな顔で質問した。
「じゃあ、どうしてザンゾーさんは忍者なんかになったんですか? 何故そんな厳しい仕事に?」
エレナの質問に斬蔵は軽く鼻で笑った。
「それが別になりたくてなった訳じゃ無いんだな。俺は物心付いた時には里で修行ばっかさせられてたからな」
「里? 何ですか、ソレ?」
話の途中でエレナがまた質問した。
「ああ、里ってのは『忍者の里』、簡単に言やぁ俺達忍者の本拠地、まあ村みたいなモンだな」
「なるほど、そこでザンゾーさんは生まれ育った訳ですね」
エレナがわかった様に言うが、斬蔵は首を横に振った。
「いや、育ちはしたが、生まれてはいないと思うぜ」
「じゃあ、ザンゾーさんは小さい頃に忍者の里に引っ越したんですね」
エレナが能天気に言うと斬蔵は更に恐ろしい事を言い出した。
「忍者ってのは戦で親を亡くした子供を引き取ったり、そこら辺に居る子供を拐ったりするんだよ、忍者に仕立て上げる為にな」
この衝撃的な言葉には、さすがのエレナも言葉を失った。だが、それまで足を震わせて黙っていたセレナがおずおずと口を開いた。
「じゃあ、ザンゾーさんは……」
それ以上は言いにくかったのだろう、セレスはそこまで言って言葉を飲み込んでしまったが、何と言いたかったのかは容易に想像出来る。
「俺は……さて、どっちだろうな? どっちだか知んねーけど、今となってはどーでも良い話だ」
かなり重い話だが、斬蔵は軽い口調で答えた。セレスやエレナにとっては衝撃的な話でも斬蔵にとっては何の事もない、ただの昔話でしかなかったのだ。
「それで、任務で嬢ちゃんの持ってる剣を奪いに行ったんだけどな……そん時に火の妙な術を使う野郎に負けそうになって……気が付けばココ、レイクフォレストとやらに居たって訳だ」
「じゃあ、突然行方がわからなくなっちゃったんですね。忍者の里の人達、きっと心配してますよね」
セレスが申し訳なさそうな顔をするが、斬蔵は嘲笑う様に言った。
「仲間はともかく上の者は心配なんざしちゃいねぇよ。俺みたいな現場働きは使い捨てだからな……って、おい、嬢ちゃん?」
壮絶な過去を何でも無い事の様に話していた斬蔵が突然慌て出した。セレスの目からボロボロと大粒の涙が零れ落ちていたのだ。
「ザンゾーさん、大変だったんですね……」
「いや……まあ、大変っちゃぁ大変だったけど、俺にはソレが普通だったからなぁ……」
セレスに泣かれてしまって困った斬蔵が頬を掻きながら言うと、セレスは涙を流しながら両手の指を組んだ。
「ザンゾーさんに神の祝福があります様に……」
セレスは目を閉じて斬蔵の為に神に祈りを捧げた。そして祈りが終わると目を開け、斬蔵に穏やかな顔で言った。
「ザンゾーさんが何人もの人を殺めてしまった事、神様はきっと許して下さいますよ」
斬蔵は神殿に土足のまま上がり込み、神様が怒ったとしても、戦うだけだとぐらいにしか考えない男だ。正直なところ神様が許してくれようが許してくれまいがどうでも良かった。しかしセレスの口から「神様は許してくれる」という言葉が出たという事は、セレスも許してくれるという事だろう。
「そうか、ソイツは良かったぜ」
斬蔵は口元にニヤリと笑みを浮かべた。
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