第28話 斬蔵とラザ
酒が良い感じで身体を回り、すっかり気分が良くなった二人は、いつしか「斬蔵」・「ラザ」、「俺」・「お前」と呼び合う様になり、とりとめのない話で盛り上がった。そして、それぞれが経験してきた戦場の話になった時、斬蔵の顔が少し曇ったのをラザは見逃さなかった。
「どうした? 何か気に障る事でも?」
心配そうに言うラザに斬蔵は笑顔を作ろうとしたが、彼にしては珍しくそれが出来なかった。
「悪ぃな、シラけさせちまって。ちょっと嫌なコト、思い出しちまってな」
斬蔵が思い出した『嫌なコト』とは? ラザは気になりはしたが、「そうか」と言ったきり、それ以上それに触れる事はせず、話題を変えた。
「そう言えば、ガンズ様がお前の剣をクリムゾンフレイムで打ち直すって言った時、断ったろ? ありゃあ、いったいどうしてなんだ?」
ラザとしては話を変えたつもりだったのだが、実はその件は斬蔵の顔が曇った事と密接な繋がりが有った。と言うより直結していた。斬蔵は大きな溜息を吐くとポツリポツリと話し出した。
「俺は、ココに来る直前に火を操る男に負けちまうトコだったんだよ」
「負けるトコだった? お前が? そりゃ凄いヤツも居たもんだな。そうか、それで今回は俺達『火の国』の敵に回ったって訳だ」
「いや、別にそーゆーんじゃ無いんだけどな。でよ、ヤバいってんで池に飛び込んだんだ。んで、必死に泳いで……池から出たら嬢ちゃん達、セレスとエレナが居た。それも全裸で」
それを聞いたラザは思わず吹き出した。
「全裸って……お前、いったい何があったんだよ!?」
「何かよく解らんが、セレスは救世主ってのを求めてたんだってよ。そこで俺が呼ばれたらしいんだが、まさか池から上がれば女湯だったとはな。ツイてるんだか、ツイて無いんだか……」
昨日の事なのだが、随分と前の事みたいな気がする。遠い目をする斬蔵にラザは笑いを噛み殺しながら言った。
「しかしお前、いきなり女湯に現れたんじゃ変質者扱いされてもおかしくないぞ」
「されたわ! 思いっきりな」
間髪を入れず不満げに声を上げる斬蔵だったが、気分を落ち着かせるかの様に酒を一口含んでゆっくり飲み込んでポツリと言った。
「だがセレスが俺の事、救世主だって言い張ってくれてな」
「それでお前さんはセレスちゃんに肩入れしてるって訳か」
「ああ。まあ、そんなトコだな」
そんな会話の間に酒瓶は斬蔵とラザの間を何度も往復し、遂に空になってしまった。
「ちっ、無くなっちまったか。じゃあ、そろそろお開きにするか」
椅子から立とうとする斬蔵をラザは引き止めた。どうやらまだ話の続きがある様だ。さっきまでの酔っ払いの目とは違う真剣な目で斬蔵を見ながらラザは尋ねた。
「で、救世主としての役目を終えたお前さんはこれからどうするんだ?」
ラザの質問に斬蔵は拳を握り締めた。斬蔵もラザと同じく酔っ払いの目では無く、腹を決めた男の目をしている。
「決まってんだろ。国に帰ってアイツともう一回勝負すんだよ」
「そうか。次は勝てると良いな」
一転して穏やかな目でラザが言うと、斬蔵は大きく胸を張った。
「まかせとけ。秘策を考えてあるからな」
「秘策?」
「ああ。水竜、こっちじゃリヴァイアサンって言うんだっけな……に、ちっと頼みごとをしてあるんだ」
そう言った斬蔵はニヤリと笑うと椅子から立ち上がった。どうやらリヴァイアサンに頼んだのは、自分の国に帰ってから神社で火を操る男に再戦を挑む時の為の準備の様だ。しかし、この時は斬蔵もラザも思ってもいなかった。どうすれば斬蔵がレイクフォレストから自分の国に帰れるのかという事を。
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