第11話 モーリスの勘違い
セレスとエレナは二人の兵に城の広間へと連れられた。そこではモーリス学園長が大神官のレザインと騎士団長のオルベア、そしてレイクフォレストの王ウィリエールといったレイクフォレストの錚々たる顔ぶれが揃い、国の命運をかけた戦いに向けて巌しい顔を突き合わせていた。
「失礼します。モーリス様に面会を求められる方をお連れ致しました」
兵の一人がおずおずと声をかけると巌しい顔の四人の目が一斉に向けられた。思わず足を震わせる兵の後ろからセレスが一歩前に出た。
「セレス、どうしたのだ? こんな時に」
突然現れたセレスに驚いたモーリスが巌しい口調で言うが、セレスは怯む事無く更に一歩前に出て、王に向かって跪いた。
「ウィリエール王様、突然押しかけて申し訳ありません。私はセレス・コルナゴと申します。至急の用件がありますので、モーリス先生と少しお話させていただけませんでしょうか」
セレスの真摯な声にウィリエール王の顔から巌しさが消えた。
「『こんな時』だからこそ来たのだろうな。その話というのは皆の前でも構わないのかね?」
ウィリエール王の言葉はセレスにとって寧ろ好都合なものだった。王の前で大きな声でモーリスに話をすれば自分の思いが直接王に届くのだから。セレスはウィリエール王に感謝の言葉と共に深々と頭を下げ、モーリスに向き直ると敢えてその場に跪いた。
「モーリス学園長、聖なる泉の救世主の伝説をご存知ですよね」
その声はモーリスはもちろんウィリエール王を始め大神官や騎士団長、そして誰よりも声を発したセレス本人が驚く程大きく響いた。モーリスは思いもよらぬセレスの大きな声に戸惑いながらもこんな時に何を言い出すのかといった顔でセレスを見ている。なにしろ『聖なる泉の救世主』の話はレイクフォレストの民なら誰もが知っているが、それは民話や童話、お伽噺と言った類のものだという認識でしか無いのだ。しかしセレスは真剣な表情で自分がしてきた事、そして斬蔵と名乗る男が浴場に忽然と現れた事を話した。
するとモーリスの顔色が変わった。
「女子校である聖マリウス学園の浴場に男が!? セレス君、大丈夫か? 何もされなかったろうね? 騎士団長、騎士を何人か回してもらえるか、不届き者をふん縛ってやらんと!」
激高するモーリスにセレスは慌てた。このままでは斬蔵は完全に変質者扱いだ。
「違うんです学園長、私はザンゾーさんが救世主だと思っているんです」
その場に居る誰もがセレスの言葉を聞き、反応に困ってしまった。だが、セレスは尚も力説を続けた。
「聖マリウス学園の『聖』って、聖なる泉の『聖』ですよね。それにお風呂を泉だって考えたら……」
常人には考え付きそうに無い発想だが、辻褄は合っていない事は無い。しかもモーリスはセレスが真面目で良い子だと知っているだけに頭から否定してしまう訳にもいかなかった。
「その男はドコに居るのかね?」
とりあえず一度ぐらいは斬蔵に会ってみようと思ったモーリスが尋ねると、セレスは城門で兵に槍を突きつけられながら待っている旨を告げた。するとウィリエール王が驚いた顔で口を挟んだ。
「するとセレス君、君が救世主だと思って連れて来た男は、君の為に自ら危険で屈辱的な仕打ちを受けていると言うのかね? 面白い、では私もその男に会いに行くとしよう」
出会ったばかりの少女の為にそんな事が出来る男に興味を持ったウィリエール王だったが、騎士団長のオルベアは逆に難しい顔となった。クリムゾンフレイムの罠ではないかと懸念したのだ。だが、心配そうな顔のオルベアにウィリエール王は落ち着いた顔で言った。
「相手は正面から戦争を仕掛けてきているのだ。今更そんな小細工などしては来ないだろう」
「ですな。勝てるという自信が有ってこそ戦争を仕掛けられるものですから」
モーリスがウィリエール王の意見に同意すると、今度は大神官のレザインが怪訝そうな顔をした。
「それにしても解せませんな。何故クリムゾンフレイムは我が国に対して突然侵攻を……」
レザインが思ったのも無理は無い。と言うよりレイクフォレストの民全てがそう思っていただろう。と言うのも木の国レイクフォレストにとって火の国クリムゾンフレイムは分が悪い相手であるが、クリムゾンフレイムにも分の悪い相手は存在する。『水の国』アクアパレスだ。この三国はいわゆる三竦み状態であるが故にバランスを保っていたのだが、それを崩そうというからにはクリムゾンフレイムがアクアパレスに対抗し得る力を付けたとしか考えられない。まずは楽に落とせるであろうレイクフォレストを攻めた上で最終的にはアクアパレスをも攻め落として覇権を握ろうとでもしているのだろうか?
「今更どうこう言っていても仕方があるまい。セレス君、その男は城門に居るのだね。では救世主殿に会いに行くとしようか」
確かに実際にクリムゾンフレイムが攻めてきているのだから、その理由を考えても仕方が無い。ウィリエール王の言葉で小走りのセレスを先頭に一同は城門へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます