第5話 軍議?
レイクフォレストの王城では大臣を始めとする聖職者の幹部達が集まり、突然降って湧いた危機に対する対策についての会議を行っていた。
「こうなれば徹底抗戦あるのみ!」
「だが、クリムゾンフレイムの軍に勝てるのか?」
「ではどうする? ヤツ等の要求を飲み、隷属すると言うのか?」
「冗談では無い! 何故我が国が隷属など」
議論は長く続いたが、決まった事は一つだけ。それは「隷属はしない」という事。
しかしどうやってクリムゾンフレイムの軍勢を退けるか? と言うか退ける事が出来るのか? 重苦しい空気の中、時間ばかりが過ぎていった。
この会議には聖マリウス学園の学園長であるモーリスも呼ばれていた。モーリスにとっての最重要事項は学園生達の安全だ。全面戦争となれば学園生達も戦争に巻き込まれる恐れが高い。その上もし敗北してしまえば学園生達はクリムゾンフレイムの慰み者にされかねない。そんな懸念がグルグル回り、何の意見も発する事が出来ずにいるモーリスに王から声がかかった。
「モーリス、貴殿はどう考える?」
一同の視線がモーリスに集まった。優れた聖職者を数多く育て、王が絶大な信頼を寄せているモーリスの言葉は国の運命を左右するものなのだ。
「出来れば戦争は避けたいところですが……」
モーリスが重々しく口を開くと、その場に居る者全てが固唾を飲んで耳を傾けた。
「話し合いが通じる相手でも無さそうですし、腹を括らなければならないでしょうな」
モーリスの言った事は、すこぶる当たり前の事だった。聖職者達は重い表情となり、大臣達は何故かやる気満々に雄叫びを上げ、拳を振り上げた。そんな大臣達をモーリスは睨みつけ、一喝した。
「何を騒いでおるか! 戦争になるのが嬉しいと言うのか? ならば貴公達が先頭に立って戦ってくれるのだろうな?」
モーリスの怒りに満ちた声に大臣達は一様に尻込みしながらお決まりの逃げ口上を口々に述べだした。
「いや、ワシ等老いぼれが戦場になど……」
「戦闘は若い者に任せてだな」
「そうじゃ、我が国には頼もしい騎士団があるではないか」
「そうそう、ワシ等には参謀という重要な役割があるからの」
大臣達の呆れた物言いに開いた口が塞がらないモーリスに、一際大きな身体の男が耳打ちした。
「モーリス様、腹の据わっておらぬ此奴等の言う事など聞いていても時間の無駄と言うもの。ここは我々で……」
モーリスに声をかけたのは、大神官のレザインだった。ちなみに大神官とは聖職者の上位職である神官を束ねる長であり、レイクフォレストの事実上ナンバー2と言って良い存在だ。しかし、レザインはモーリスを『様付け』で呼んでいる。
「おお、大神官殿、これは手厳しい事を仰るものですな」
肩を竦めるモーリスにレザインは冷めた目を向けて言った。
「何を仰いますか。モーリス様はもっと厳しかったではありませんか……特に私に対して」
どうやらレザインはモーリスの弟子だったらしい。ちなみに大臣達は神官でも聖職者でも無い。これは神に仕える者だけで国を治めるべきでは無いというレイクフォレストの王の公正な考え方から来ているもので、平常時は持てる智力を存分に発揮している大臣達だが、未曾有の危機に直面している今は完全に怯えてしまい、ただのダメな大人になってしまっている。だが、そんな大臣達を責める訳にもいくまい。何しろ彼等は修行とは無縁な世界の人間なのだから。
「そうだったかの? 年を取ると記憶も曖昧になってしまってのぉ」
笑いながら誤魔化す様に言うモーリスにレザインは大きな溜息を吐いた。
「そもそも貴方が大神官を私に押し付けたんでしょうが。私などよりモーリス様の方がよっぽど適任だと言うのに」
苦々しい顔で言うレザインにモーリスは飄々とした態度で尋ねた。
「おや、お前さんは大神官になりたく無かったと言うのかい? 大神官になりたいと思っとる神官は山程居るというのに」
やはり大神官という地位に憧れを持つ神官は多いらしい。もちろんレザインもその一人ではあったのだが、その大神官の地位に就いた今でもレザインは自分よりも相応しい人物が居ると信じて疑っていない。
「そういう問題では無いでしょう! 貴方が大神官になるべきだと申しておるのです」
「いや、儂は大神官なんぞより学園長の方が気楽……オホン、儂は未来有る若者達を立派な聖職者にする使命を全うせんといかんのだよ」
レザインの言葉に身も蓋もない答えを言いかけた後、咳払いを一つして自分にはもっと重要な使命が有るかの様に言ったモーリスにレザインの口からまた大きな溜息が溢れた。
「ともかくですね、対策を考えないと。神官や聖職者を集め、騎士団と連携してクリムゾンフレイムに対抗するより他はレイクフォレストが生き残る道は無いのですから」
溜息を吐きながらもレザインは大神官としての職務を果たすべくクリムゾンフレイムと戦う決意を固め、騎士団との連携を求めた。すると騎士団長のオルベアは大きく頷き、レザインの手を取った。
「レザイン殿の仰る通りです。我等騎士団の誇りに懸けてレイクフォレストを守り抜く所存ではありますが、相手が相手ですからな。神のご加護を我等に」
レザインの手を力強く握るオルベアの手は汗でじっとりとしていた。勇敢な騎士団を纏める騎士団長とてやはり不安なのだろう。なにしろ初めての戦争、しかも相手は木の国レイクフォレストの天敵とも言える火の国クリムゾンフレイムなのだ。
「向こうが攻めて来ると言っている以上、争いは避けられない言う事ですな……」
聖職者達も腹を括った様だ。しかし、騎士団と神官、そして聖職者達だけではクリムゾンフレイムに対抗するには数が少なすぎる。モーリスに一喝されて小さくなっている大臣達を蚊帳の外にしてレザインとオルベアが話し合った結果、結論は『義勇軍を募るしか無い』というものだった。
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