第3話 木の国の少女
一人の少女が教会で祈りを捧げている。ここはレイクフォレスト。豊かな自然に恵まれ、大きな湖を有する国だ。そしてこの国は森に住む神々を崇め、木の精霊の力を借りて様々な魔法を使う事が出来る『聖職者』が存在する『木の国』として周辺諸国に知られていた。
この少女は聖職者のタマゴで名をセレスと言う。小柄で白い肌、長い金髪と大きなツリ目が印象的な美少女で、全寮制の聖マリウス学園に通いながら日々修行と学業に明け暮れる日々を送っている。
セレスが両手の指を組み、頭を下げて祈りを捧げていると教会の扉が突然何者かによって開かれた。
「あっ、やっぱり居た!」
扉を開けた者が声を上げるとセレスは祈りを中断して振り向いた。
「……エレナ」
扉を開けた者はセレスの同級生エレナだった。エレナは緑色の髪を短く切り揃え、大柄で、日に焼けた肌が健康的な魅力を醸し出している。活発そうなエレナは聖職者と言うより武闘家と言った方が似合いそうだ。
「今日は学校終わったら買い物に行こうって言ってたじゃない」
「うん……でも、その前にお祈りを……」
呆れた様な、怒った様な口調のエレナにセレスはおずおずと説明しようとするが、エレナはその説明を見事にぶった切った。
「真面目か! 神様はちょっとお祈りを欠かしたぐらいで怒ったりしないって先生も言ってたでしょ。さあ、行くわよ」
エレナはセレスの腕を掴むとずんずんと歩き出した。もはやセレナに出来る事は引っ張られながら神に謝る事だけだった。
「神よ……お許し下さい……」
*
「あっ、来た来た」
「やっぱり教会に行ってたのね」
エレナとエレナに引っ張られながら歩いてくるセレスを見て二人の少女が言った。一人は青い長髪に長身で切れ長な目が涼しげなジル。もう一人は肩にかかった明るい栗色の髪と大きなタレ目が可愛いらしいフローラ。二人共エレナと同じくセレスの同級生で、どうやら今日は四人で買い物に行く約束だったらしい。
聖マリウス学園は全寮制なのだから一度部屋に戻り、着替えてから買い物に行くのが筋ではないかと思ったりもするが、そこを敢えて制服のままで行っちゃうのが年頃の女の子というものだ。ちなみに聖マリウス学園は女子校で、制服の可愛さにも定評がある。彼女達は、町に出れば男の子に声をかけられるかも……なんて期待もしていたりするのだ。もっともそれはセレスを除いてだが。だがしかし、意気揚々と町へ出かけたセレス達は男の子に声をかけられる事も無く、買い物を終えるといつもの様に女の子だけで喫茶店のテーブルを囲んでいた。ああ、もったいない。
「あーあ、今日も出会いは無かったかー」
エレナがつまらなさそうに言うと、セレスが厳かに口を開いた。
「私達は一人前の聖職者になる為に聖マリウス学園に入学したのよ。出会いとかそんな浮ついた事を言っている場合じゃ無いでしょ」
セレナも随分と固い事を言うものだ。しかしエレナも負けてはいない。
「子孫を残すのは人間、いえ、あらゆる生き物にとって大切な事でしょ! 子孫を残さない事こそ神様への冒涜だと私は思うの。そして子孫を残すには異性が必要なの。だから私達だって相手を見つけないといけないの!」
これはまたエレナも飛躍した発想の持ち主だが正論と言えば正論だ。返す言葉の無いセレスにジルが笑った。
「はっはっはっ、セレスの負けね」
ジルがセレスの肩を叩くとフローラも笑いながら言った。
「ホント、セレスはマジメなんだから。私達だって恋の一つや二つしても良い年頃なんだからね」
エレナだけで無くジルとフローラにまでに弄られてセレスはただでさえ小さな身体を更に小さくして肩を震わせている。しかしそんな事はお構い無しにエレナは大きく頷きながらフローラの言葉に賛同した。
「まったくセレスは固いんだから。大神官だって結婚してるし、そもそもアンタが生まれたのだってアンタの両親が……」
エレナがそこまで言った時、セレスがキレた。テーブルをバンっと叩いて立ち上がると涙目でエレナを睨みつけ、普段のおとなしいセレスからは想像もつかない様な罵声を浴びせ出したのだ。
「うるさーい! 大神官とかうちのパパとママは関係無いでしょ! だいたいエレナは○○なクセして××だし、○△×な上に□×○△なのよ! この○×□△……!!」
「うわっ、セレス、落ち着け!」
聞くに耐えないセレスの罵声にエレナが焦って落ち着かせようとするが、焼け石に水とはよく言ったもので、セレスの興奮が覚める事は無く、セレスのエレナに対する罵倒は延々と続いた。
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