第7章 正体を知る①
──「……シルヴィアか……」
ソファに座り直した後、
「ご存じですか?」
「知っている」
あまり、社交界に関心の無い母ですら知っている『シルヴィア』とはどれほどの美女なのだろうか。
「知っていることを私が教えるのは簡単だが……。これから同じような問題が起きた時、いつもこうやって
「今戦う準備をしているところです」
「そうだな……。少し見ない間に
「はい! 姉上とっても綺麗です」
母の言葉を
「ありがとう、でも身内の欲目よ」
「またそうやって自分の価値を下げて、逃げていくのか?」
「お前のゴールはあるのか? 自信の持てる見た目とは何だ? お前の想像するシルヴィアと同じ容姿になれば良いのか? もっと根本的なことだろう?」
その通りだ。みんな褒めてくれる。それでも元
「じ……自分は! ティツィアーノ様に好きだと言われたら天にも
母の後方でルキシオンの横に
「お前にはやらん」
「……ティツィアーノ様。
思いもしない彼らの言葉に目を見開く。
「そうですよ。サリエ様が
そこにルキシオンが
「向き合え」
母のその言葉にハッとする。
レイと同じ言葉だ。
「それでもお前の価値が分からない男はゴミ以下だ。捨ててしまえ」
それもまた同じ言葉。笑ってしまった。
「ここでしている事も私たちは口を出さないから気が済むまでやったらいい。お前の帰って来る場所はあるんだからな」
父が、
「サルヴィリオ騎士団のみんな、お前の事が大好きだよ。
「私に勝ったら嫁にやってもいい」
そこにすかさず母が言った言葉に「勝てる人いませんよ」と笑ってしまった。
──例の
「ねぇ、ルキシオン。私の事
「はい?」
「私ずっと思ってたんだけど、母上の指示で私の副官になったでしょう? 今までは私が
彼が常に戦場でつけているタッセルは私が小さい
しばらく考え込んだ後、彼が私にこっそり耳打ちをした。
「私は実はリタが好きなんです」
「えぇっ! ……っむぐ」
あまりの
「っちょ。大きな声を出さないでくださいよ」
思いもよらない告白にこちらが赤面してしまう。
「ごめん……。あまりにビックリして」
「リタが好きだから、貴方の副官として第一騎士団に残留希望を出したんです。貴方のそばには基本常にリタがいますからね。
「……え。ごめん。本当に分からなかった」
「貴方に
「それに一度
「え!?」
「まあ、一度断られたぐらいでは
そう言う彼はなんだか楽しそうだ。
「……レグルス家に
私が
ルキシオンの気持ちを知っていたら連れてこなかったかもしれない。
「
そう
「なんだか大人な反応でムカつく……」
「大人ですから。それに妹のように思っている貴方の側に彼女がいてくれたら私も安心です」
物心ついた頃からルキシオンは騎士団にいた。見習いから護衛係になり、最年少で副団長にまで登りつめた彼の努力も、才能もずっと見ている。私を騎士としてここまで育ててくれたのは彼で、兄のように常に優しく、厳しく私を守ってくれていた。
「二人がうまくいってくれたら嬉しいな……」
「ティツィアーノ様が幸せになったら、次は私がリタを幸せにします」
「え、なにその自信。一回フラれてるクセに」
「それくらい彼女が好きという事ですよ。他の誰にも
だから貴方も
「……ありがとう」
その優しさに思わず
「ちょっと! レオン様! そこの
横でセルシオが慌てた声で言ってきた。
彼女が母親と話せるように、外出に見せかけて部屋を出て、中庭の渡り廊下が見える
馬鹿
サリエ
部屋の中の会話は聞こえなかったが、出てきた時の彼女はとても晴れやかな表情だった。
彼女の
昨日、母親の話をした時の彼女の
そんな彼女を見て、気付かぬうちに
が。が、しかし。
彼女は廊下を歩きながら副団長のルキシオンに話しかけたかと思うと、あの男は彼女に顔を近づけ、愛くるしい耳元で何かを
「あの男……。彼女が赤面するほどの何を言ったと言うんだ……」
「ちょちょっ! 壁壁! レオン様、壁
「これが落ち着いていられるか? 見ろ! 今度はじゃれあい始めたぞ」
「もう、本当にストーキングやめません? あんた本当に逃げられますよ?」
段々とぞんざいな物言いになるセルシオの言動も気にかけてはいられない。やはり彼女の思い人はルキシオンで
あんなに幸せそうに、優しく
その笑顔をこちらに向けてほしい。
綺麗になりたい? それを他の男が見るのは許せない。
彼女が母親と向き合うのが怖かったのが理解できる。
必ず彼女を手に入れると思っていたが、あの笑顔を向けてくれるだろうか。
他の男を想う彼女に、心が
一度は手に入れられたと思っていた彼女が、この手からすり
「……っは……。正気の
自室に戻り、リトリアーノ国の動向や魔物の密輸についての報告書に目を通していると、開けていたベランダの窓から
思わずそちらに足を運び、「アンノ?」と声をかける。
「公爵様……」
驚いたようにこちらを見つめる彼女の横顔に
「サルヴィリオ騎士団のみんなと話す時間を作れたようだが、
「はい。
そう言って嬉しそうな顔で微笑む彼女の
「……ティツィアーノ
そう
まだしばらくは正体を明かす気は無さそうだと思いながら、「そうか」と返事をする。
「あのっ……。公爵様はなぜティツィアーノ様に
本人にそう問われ、思わず「なぜ……とは?」と聞き返してしまう。
散々送った手紙でも、自分の想いは伝えたはずだ。
「だって、……公爵家に
そう言った彼女の言葉に思わず息を
「そうだね……君の言うような女性は
そう言うと彼女は少し驚いたようにこちらを見つめた。
「先日……彼女が押し付けられた国境警備のモンテーノ領の
だから君をここから
「……そう……ですか」
と彼女は
「そうだよ」
だから早く諦めて、ティツィと名乗って欲しい。そうして一刻も早くこの
俯いた彼女が「……ふぅ」と息を
「公爵様、私は今からレイのところに行かないといけないので……もし、今夜お時間があったらここでもう一度会えますか? お話ししたいことがあるんです」
予想しなかったその言葉に、
彼女の話はティツィアーノとして『他に愛する人がいる』という話か。それとも──……。
彼女が部屋に戻ったのを見届けて自室に戻り、『レイ』になるべく銀の指輪を
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