初恋の人との晴れの日に令嬢は裏切りを知る
柏みなみ/ビーズログ文庫
第1章 婚約破棄と新しい婚約者①
「ティツィアーノ=サルヴィリオ、僕の
エリデンブルク王国の王太子、アントニオ王子の婚約者の誕生日という事で、王宮にて私の十八歳のパーティーが開かれた。
……と思っていたけれど、彼の横に立っていたのはモンテーノ
彼は自分の外見を理解しているようで、自身以上の容姿に身分、才能を持った存在はいないと思っている。
その自信に
「……
こんな茶番の
今、国境沿いにある自領、サルヴィリオ領で
父上が「せっかく殿下がお前の誕生日パーティーを開いてくれるのだから
しかも、今特に魔物が頻繁に出没しているのはサルヴィリオ領に
と二人を冷たい目で見ていると、アントニオ王子は得意げに私を指差して口を開いた。
「ふん、今日から俺様の婚約者はこのマリエンヌ=モンテーノだ。お前のような女らしさのかけらも無い、
――ほーう。
サルヴィリオ家に生まれた人間は男女関係なく団長となって代々国境沿いの魔物や他国から領民、国民を命をかけて守ってきている。それを野ザル呼ばわりとは……。
確かに彼女のお胸のサイズは殿下のお好みど真ん中でしょうけどね。
「それに、モンテーノ男爵領が
――ほー。
自分のところで警備できないならせめて後方
そもそも国境警備を広げたのも婚約者である殿下の顔を立てるため引き受けたんですけど? しかも、国境沿いの住民は重税に苦しんで、食べる物がないと言っていた。その為騎士団から
そのことは報告をあげているはずだけど……コイツ、読んでないな、報告書。
「なぜモンテーノ領にそんなひどいことができるのか理解に苦しむ。はっ……まさか、最近俺様とマリエンヌが
いや、急にどうした? こっちが理解に苦しみますが?
一緒にいたことすら小耳にも届いてませんよ。
「ただでさえ
野猿は少なくともあんたよりよっぽど
もはやキョトンの世界。クズの境地。
そう冷え切った目でアントニオ王子を見ても、彼は意味不明の愉悦に
彼が自分で言った『軍神と名高い母親』であるサルヴィリオ家を
この国の
二人を見ていると、一体今まで私のしてきたことは何だったのかと
彼が公式の場で
母の『軍神』という名高い人気と、貴族たちからも
十年前に婚約が決まった時から、彼の王子としての資質に疑問を感じていたけれど、王子は彼しかいなかった。彼を支えて国を、
けれど、彼ではダメだ。
自分のことしか頭にない……、王子というプライドしかない男では国は
でも彼には五年前に弟が生まれ、
きっとあの方なら民はついてくれるだろう。
もう
こんな男、こっちから願い下げだ。これ以上こんな男に時間を
彼と私のベクトルは決して同じ方向を向くことは無い。彼も大人になれば立派な王にと思っていたけれど、本人にその意志がなければどうにもならない。
「―― アントニオ殿下。
いつか、……いつかと思い、持ち歩いていた書類を後ろに
「こちらの婚約破棄の書類にサインをいただけますか? 二部ありますので
「なんだ?
愛も
婚約破棄しなかったのは母の期待に応えたかったからだ。それと――――。
二枚ともにお
もとに残し壇上から降りた。
そうして貴族
「では、殿下。これで私は失礼いたします」
「あぁ、これからも国境警備に力を
ご
「はい、これからサルヴィリオ領の警備に
そう言うと、二人は真っ青になった。
「待て待て! モンテーノ領は今後も引き続き警備しろ! これは命令だ!」
「なぜですか? 私は婚約者である殿下の顔を立てるために善意で引き受けただけです。もう婚約者でもございませんし、引き受ける理由はございません」
「ダメだ! これは命令だと言っているだろう! そもそも貴様も分かっているだろう? モンテーノ領は不作続きで国境警備に人員が回せないのだ!!
顔を真っ赤にして私を責めているけれど、問答するにも
本当に不作だけが原因なら考える余地もあるが、そうではなく、モンテーノ家の
もはや何からツッコんでいいのか分からない。
「今回の件は、殿下と私の口頭での個人的な話し合いのみのもので、正式な王命を下されたわけではありません。命令とおっしゃるなら正式に母に……陛下からサルヴィリオ家を通して下さい。そんな回りくどいことをされなくても……殿下が婚約者の方の領地を助けて差し上げたらいいではありませんか。殿下の婚約者には、国から大きな予算が割り当てられていたと思いますし。私はそこにはほとんど手を付けておりませんから。殿下の資産と合わせて
彼が私に割り当てられたはずの予算を使い込んでいたのはずっと前から知っていた。それを知った上で言うと、彼は真っ青になって
「殿下、いい加減変わりましょう。貴方が守る民のためにも。周りがなんとかしてくれる、ではなく、ご自身が変わる努力をしなければ。周りがどんなに言葉にしても、ご自身が変わろうと思わなければ変われませんよ」
彼は
みにくいなと思いながら、足を進めた。
周囲の人間は
その視線を一身に集めながら広間を後にした。
「お嬢。いんですか?」
王宮からサルヴィリオ領に向かう為、
「何が?」
「王太子妃になるべく、あんなに
「……テト、あんな男が自分の将来の
「まぁ、俺なら関わり合いすらしたくないレベルですね。見事なクズっぷりである意味すごいっすよ。リタがいたら、
リタとはテトの
二人は旧クアトロ男爵家の次男の子だが、訳あって小さい
兄弟と言っても過言ではない
二人ともそっくりな可愛らしい顔立ちに、
リタもテトも騎士団に所属していたが、戦場について来られる侍女としてリタの
「だからあの子は王宮に連れて来られないのよ。殿下のこと
「そっすねー。あれだけクズなら仕方ないっすけど」
テトは、女の子にも間違えられそうな可愛い顔を
「……どうせこの婚約破棄のせいで次の結婚は無いだろうし、好きなことしちゃおうかな。元々騎士団長としての期間は殿下と結婚する予定の十八歳までのはずだったし……」
本来なら来月の殿下の
結婚目前での王家との婚約破棄ともなれば傷物
「好きなこと……。例えば?」
「そうね、
するとテトはワケ知り顔で片方の口角を引き上げた。
「いいんですか? 団長職を退いて。好きだったでしょう?」
「いいの。ウチには優秀な弟がいるから」
そう言って十二歳になった弟のオスカーを
最強の竜種から取れた
この世界で貴族が貴族たる
生後、
王族や上位貴族は総じて最高位の金とされる事がほとんどであるが、サルヴィリオ家は
けれど私は赤ランクだった。
アントニオ王子にも
ランクは努力
そんな私に比べてオスカーの魔力判定は『金』という結果だった。彼は私の苦手な身体強化もすぐに使いこなし、次期
「そもそも騎士団長も殿下と結婚するまでの条件付きだったし。この剣も……
母に団長就任後渡されたのはこの黒竜の剣だ。魔力の弱い団長が不安だったのか、せめて団長に相応しい剣を持てという意味だろう。
「……大丈夫ですよ。そもそも向こうが意味不明の婚約破棄を言い渡してきたんですから。お嬢が
テトはそう言うが、母は私が王太子妃になることを望んでいたと思う。
だからこそアントニオ王子の
サルヴィリオ家の長子として、騎士としての
魔力の弱い私が団長としてやってこられたのも、この黒竜の剣と、私特有の能力のおかげだ。
私は生まれつき魔力が弱かったが、なぜか、視力、
森のはるか奥まで
この能力をフルに活用して隣国の動向や、魔物
母に持たされた黒竜の剣がズシリと重く感じ、思わず小さくため息が
「色々考えたいから、領地までゆっくり帰りましょう……」
頭を整理したくて、本来翼馬で帰れば二日の道中を、
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