発射されるようです その2
「出来んのかよ、そんなこと!?」
「ええ、恐らく可能かと。私の『黒縄』と、カティ様のその無双の怪力をもってすれば」
叫ぶように確認するカティへ、ブランは頷き、そう答えてくる。
そして――。
「――――」
突然、その両腕を素早く振るい始めた。何かをそこら中に放り投げているかのように。
「幸い、この丘の道はその両側を背が高く幹の太い樹木に囲まれています。負荷を複数本の木に分散させれば、あそこまで届かせるレベルの張力を支えることも可能でしょう。その張力に達するまで黒縄を引っ張るのはカティ様にお任せいたします。それに関しては、あなた様のその怪力であれば容易いものかと」
ブランはその言葉のとおりに、複数の木の先に向かって黒縄を飛ばして結びつけていたらしい。
十分な量に達したと判断したのか、その複数の黒縄をひとまとめにしたものをカティへと手渡してくる。それはもはや、かなりの太さの〝大縄〟であった。
「…………」
カティは無言でそれを引っ張ってみる。
ブランの言うとおり、しなやかに伸びる。それも、かなりの長さを。
一回、試しに放してみた。大縄は伸びた分の勢いと共に急速に縮んでいき、地面に落ちた。
確かに、これなら何かを発射することが出来るだろう。弓矢の原理――というよりは、巨大な〝
その巨大なスリングショットを、カティが全力で引いて発射する。
自分自身を、あのうっすら遠くに見えている古竜へ向けて。
確かに出来なくもなさそうではあるが……。
「本当に、そんな上手くいくか?」
「それと合わせて、『
ブランはさらにそう言ってきた。
『
文字通り、敵に衝撃を与えて吹き飛ばすという単純なもの。
カティもかつての仲間がそれを使うところを何度も見たことがある。
それ故に、一つの疑念が生じるのだが。
「一応聞くんだが、それって人体に撃ち込んで大丈夫なやつか?」
「――カティ様、そもそも
そして、と続けて。
「『
ブランはあっさりとそう言ってのけた。
それを聞いて、流石のカティも苦い笑顔で頬を引き攣らせてしまった。
スタルカとクロウシに至ってはもはや口をあんぐり開けて絶句している。
「……つまり、お前は今から
「ええ、まさしく左様でございます」
「また一応聞くんだが、お前、オレの従者だよな?」
「主人の望みを手段を問わず全力でもって叶えてみせるのもまた〝良き従者〟というものでございますれば」
呆れたような声で問うカティへ、ブランは悪びれもせずにそう答えてくる。美しく礼を捧げてきながら。
「さて、どうされますか? これはあなた様の人間離れした〝怪力と頑丈さと回復力〟を前提とした、
「…………」
「ですが、恐らくこれが今の状況下においては
頭を下げたままでそう言ってくるブラン。
それに対してカティは目を伏せ、一瞬黙した後で、
「……ブラン」
「はい」
「気に入ったよ。それでこそオレの従者だ」
「勿体なきお言葉にございます」
獰猛な笑みに顔を歪めながらカティはそう言った。
ブランもまたそれに対して深い礼を返してくる。
「――これで行く。二人とも道を開けてくれ。つーか、危ないから離れてろ」
「お姉ちゃん!?」
「おいおい、正気かよカッさん!?」
「今更な言葉だな。そもそも古竜に戦い挑もうってのが既に正気じゃねえんだ。だったら、その前にもう一回くらい正気じゃねえことしといたって大して変わらねえだろ」
二人で仲良くぎょっとした顔を向けてくるスタルカとクロウシ。
だが、カティはそんな二人に向かってあっさりとそう返す。
その言葉を聞いてか。あるいはカティの決意に満ちた横顔を見てか。
何を言っても無駄だと悟ったのだろう。
「――っ、古竜に挑む前にあんたが死ぬのだけはやめてくれよ! 本末転倒だ! 何としても無事に辿り着いてくれなきゃ、俺達全員ただの馬鹿だぞ!」
クロウシがそう叫ぶと、馬に乗ったままで横に退いた。ついでに他の馬も連れて。
「任せとけ。先に発射されて、上手くいきゃお前達が危ない目に合う前にぶっ倒しておくさ」
カティは冗談とも本気ともつかない調子でそう言うと、次にブランの方を向く。
「他に注意するべきこととかあるか?」
「『
「了解だ。後の手筈は全てお前に任せる。二人と一緒に街へ突入して、その防衛に加勢しろ」
カティは懐にスクロールをしまい込むと、頷く。
ブランも黙って頷きを返してきた。
「さぁて――」
呟き、黒縄の太縄を掴んだカティは、それを思いっきり引っ張る。
「――――」
引っ張って、どんどんと伸ばしていく。駆けながら。その横をブランも併走してくる。
黒縄の張力と、それを支えている木の耐久力――その両方の限界付近まで到達したところでようやく止まった。
大斧を背負ったカティは、太縄を片足で地面に思いっきり踏みつけて固定。そのまま待機する。
その隣ではブランが『
全てが整ったところで、二人はどちらともなく目を合わせた。
「行ってくる」
「お気をつけて」
それを合図に、カティが踏みつけを緩め、両足を太縄に乗せて――。
「~~~~ッッ」
限界まで引き絞られた太縄が恐ろしい速度で縮む。
そのとんでもない勢いと、重ね掛けされた『
遠くにぼんやりと佇む古竜へと向けて、一直線に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます