正体が明かされるようです その1
「――それで」
食事が一段落した。腹が十分満たされたのか、全員口に運ぶ手が緩み始める。
その頃合いを見計らって、カティが口を開いた。
「流石に、そろそろ説明してもらえるんだろうな?」
言いながら、カティはがぶりとパンに齧り付く。
他の三人はそろそろお腹一杯なのだろうが、カティはまだまだ食べ続けるつもりだった。なので、会話も食べながら続けていく。
「ええ、もちろん」
その催促へ、ブランは素直にそう返してきた。
どこから取り出したものか、真っ白いナプキンで口を拭いながら。
「何でもお尋ねください。お聞きになりたいことを、なんなりと」
体をカティの方へと向けてきながら、ブランはにこりと微笑んだ。
「そうかい。じゃあまずは、今まで再三尋ねてきた、根本的なことから答えてもらうとしようか」
その笑顔に相変わらず言いしれぬ怪しさを感じつつ。
カティは尋ねる。言葉どおりのことを。
「ブラン。お前は一体何者だ? 今度こそはぐらかさずに、納得のいく答えを聞かせてもらおうじゃねえか」
その質問に便乗してか、クロウシとスタルカも同じ疑問を乗せた視線をブランへと向ける。
カティももちろんブランを真っ直ぐ、睨みつけるように見る。
顔と言わず、その全身を上から下まで眺め。
「――お前のその服装、何度か見たことがある。確か、王族や貴族――そんなお偉いさんが住む家に奉公している使用人が着ているもんだ。それも、その仕立ての良さから察するに、下働きをする立場じゃねえ。恐らく、〝執事〟とか言うやつだ。使用人の中で最も身分が高く、主人に近しい位置で家を取り仕切る。そんな感じじゃなかったか?」
カティはそう指摘した。自分の記憶と照らし合わせながら。
その推測は恐らく間違っていない、そのはずだ。
型に嵌めたようにかっちりしたシルエットの、上等な厚手の生地で仕立てられた真っ黒な上衣。ズボンもまた同じシルエット、同じ生地、同じ色で揃えられている。
上衣の下のシャツも真っ白で、折り目のきっちりついた高級なもの。白い手袋も同様だろう。
ブランが身を包んでいるそんな服装は、やはりカティの記憶にある執事の服と合致している。
自分で言ったとおり、何度かそれを目撃する機会があった。
一流の冒険者となると貴族からの依頼を受けることもある。
とんでもない豪邸へと直接呼びつけられる場合もあった。まあ滅多にないことではあるが。
その時に己の役職を〝執事〟と名乗り、主人の傍らに控えていた人物――それがこんな服を着ているのを見て、覚えていた。
「奇妙な話だな、オイ。オレの推測どおりなら、お前はどこぞのお偉いさんの家の使用人だ。それがどうして、こんな辺境をうろついている? しかも、仕事着のままで。どう見ても旅行には向かねえ服装だな。ましてや戦いにも向いてねえ。それとも、着の身着のままで家出でもしてきたか?」
どうなんだ? と、カティはまるで尋問でもしているような調子で問いつめる。
考えてみればあまりにも奇妙なことだらけだった。
一方、それをぶつけられたブランの方はといえば――。
「…………」
ひとまずはふっと、優雅に微笑んでみせた。これまでのように。
それで一拍を置いてから、遂にその重い口を開く。
私は――、と。
「確かに、あなた様の仰るとおり。使用人……というよりは、家来や従者――そういう役職の者です。執事、確かにそうですね。それが最も例えとしては正解に近いのでしょう」
ブランは素直にそう認めてみせた。
では、何故。そんな人間がこんな場所にいるのか。そもそも誰に仕えているのか。
カティは次にその説明を求めようとした。が、そのことを向こうも予測していたらしい。
ブランが片手でそれを制してきた。まだ話には続きがあるようだ。
「そして、何故私がこの場にいるのか……でしたね。しかし、これは異なことを仰られます。
その言葉に、カティは眉をひそめる。
持って回った言い回しに対してではない。その言葉の意味することに対して。
その言葉に従えば、それはつまり――。
「…………」
カティはまず無言でスタルカとクロウシ、二人の顔を見る。
だが、二人とも仲良く首を横に振って答えてきた。当惑した顔で。
次に、ブランの方へ顔を戻す。すると、そちらも首を軽く横に振ってきた。
ということは。答えは残る一つしかない。その結論に達して、カティは目を丸くする。
その驚いた表情に向かって、ブランは微笑みながら頷きを送ってきた。
「そう、確かに私は〝従者〟です。主人に仕え、従うことを役目とする者。そして、私の仕えるべき
ブランはきっぱりと、確かにそう告げてきた。
いつの間に椅子から降りたのか。床に片膝をつき、深々とした礼をカティへと捧げてきながら。
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