一旦集合するようです
運良くスタルカの範囲攻撃魔術の外側にいたゴブリン達は、まだ動けないでいるようだった。まるで凍り付いたように。
先ほどのスタルカの魔術に圧倒され、怖じ気づいているのだろうか。あるいは過剰に警戒しているのか。
いずれにせよ、今しばらくは攻め込んできそうになかった。カティ達にとっては好都合だ。
一旦集合。その言葉に従ってそれぞれが駆け出し、三人のちょうど中間地点辺りで合流した。
駆けてきた勢いもそのままに、顔を突き合わせて話し始める。
「どないなっとんじゃい!! なんなんだよさっきのあれは!? 聞いてねえぞこっちは!! 何も!!」
最初にクロウシがそう叫んで切り出した。
戦闘による興奮状態と様々な衝撃が混ざり合ったせいなのか、若干変なテンションになっている。
怒っているのか何なのか。まあ、いつもと大して変わりはないが。
「こっちも聞いてねえぞ。まさかお前にあんな隠し玉があるたぁな」
どうなってんだありゃ。カティはからからと愉快そうに笑いながらそう重ねる。
カティも多少興奮してはいるが、クロウシのように我を忘れるほどではない。比較的落ち着いている。
「『ヨロズ返し』って技だよコンチクショウ!! 俺の奥の手中の奥の手だぞ、教えるわけねえだろ!! つーか、こんなところで強制的に使わされることになるとは思わんかったわ!!」
クロウシがほとんど怒鳴るようにそう答えてきた。何だかやけっぱちな様子である。
「じゃあ、教えなかったのはおあいこだな。お前が最初からもうちょっと素直だったら、話はずいぶん早かったんだが」
「それ多分俺のせいじゃなくてあんたの信用のなさが原因だよカッさん!! あそこまでメチャクチャに強いんだったらちゃんと言っといてくれよ!! いや、まあ、言われてたとしても――どころか、実際見た今でも全然信じられねえけど!!」
冷静に指摘するカティに、クロウシはそんな支離滅裂な言い訳を叫び返してくる。
その後で、今度はくるりとスタルカの方に顔を向け、
「つか、お前もお前だよ!! なんだよあの範囲攻撃魔術!? デタラメにも程があるだろ!! アレをこの状況でバンバン撃ち続けられるってんなら、お前のことチビ助どころか名前に〝様〟をつけて崇めてもいいですけども!?」
クロウシは猛然とそう捲し立てる。怒っているのか褒めているのか、もう何が何やらである。
言われているスタルカも目を白黒させるしかない。
「それなのに、何で俺とカッさんごと撃ってくれやがったのさ!?」
しかし、その後でズビシと、指でさしながらクロウシがそう叫んだ。
それを受けて、スタルカは「うっ」と一瞬言葉に詰まった顔をしていた。
その後でぷいっとそっぽを向きながら、ぼそぼそとした声で答える。
「……私の魔術、味方ごと巻き込まないと撃てない……」
「やっぱただのクソチビ助!!」
それを聞いたクロウシは頭を抱えてそう叫んでいた。
スタルカは頬を膨らませてそんなクロウシを睨みつけているが、何も言い返せないようだった。
「まあまあ、いいじゃねえか。巻き込まれてもお前は一応魔術を回避できる技を持ってんだから。いやー、オレの見込み通りだったようで一安心だぜ」
「いや、全然よくないだろ……!? てか、あんたこそ何で魔術食らってもピンピンしてんだよ……!!」
「オレは、まあ……そういう体質なんだよ」
「体質で!?」
クロウシはカティの言葉になおもツッコみたがっているようだった。
だが、カティは人差し指を立ててそれを制止する。
「そこまでだ、これ以上無駄話をしている時間はねえ」
それでひとまずクロウシも黙り込んだ。多少不満げな顔ではあるものの。
スタルカも表情を引き締めてカティの方を見てくる。
「ともかく、これで全員それぞれの実力がどれほどのものか理解できただろ? そんで、互いをある程度信頼できるようにもなったし、自分がこのパーティーでどういう役割を果たすべきかもわかったはずだ」
カティは満足そうに頷きながら二人へそう語る。
「この連携こそが今回の戦いにおいてオレの想定していたものだ。ここまでキレイにピッタリとハマってくれたのは予想以上だけどな。だが、とにかくこれならオレ達三人だけでもあのゴブリンの大軍に打ち勝てる。この連携が崩れない限りはな。お前達もようやくそう思えるようになってきたんじゃないか?」
ニヤニヤと微笑みながら問いかけるカティに、二人は無言のまま何も言い返してこなかった。それもある意味肯定の返事のようなものだったが。
「とりあえず、クロウシ。お前の働きは見事だった。引き続きオレの討ち漏らしを始末しつつ、スタルカを守り続けろ。魔術の発動を中断されないようにな。そうする必要はもう十分思い知っただろ? 後は自分の身も守りつつ、死ぬ気で魔術を避けりゃいい。お前なら出来るよな?」
「……ッス」
クロウシは短くではあるが、確かにそう返事を返してきた。渋々といった様子で。
色々言いたいことはあるようだが、今はそうするしかないと納得もしているらしい。
「スタルカも、見事だったぞ。いいタイミングでぶっ放してくれたな。大した判断力だ。それでいい。これからも可能な限り、お前が適宜タイミングを見計らって魔術を発動させてくれ。だけど、そこまで気張る必要もない。お前自身が危なくなる前に、どんどん撃っていいんだからな。自分の身を守るために」
「……うん!」
優しい声でそう告げるカティに、スタルカは素直な頷きを返してきた。嬉しそうに、やる気に満ちた顔で。まったくクロウシとは大違いである。
「よっしゃ。そんじゃあ、そろそろ戦闘再開といこうじゃねえか。向こうもお待ちかねのようだからな」
カティはそう言うと、視線を流して促す。二人もそれに従って、同じ方を向く。
その先では、まだまだ健在なゴブリンの大軍がジリジリと包囲を狭めてきつつあった。
あれだけ減らしたというのに、依然その数は果てしない気分になるほど多い。
向こうも流石に動揺と恐れからは回復しつつあるようである。
しかし、まだまだ警戒を解いていないのだろう。こちらへ向かってくるその勢いは先ほどより鈍い。
だが、それも今だけのことだ。
すぐにまた群れ全体が興奮状態となり、こちらへ雪崩れ込むように突撃してくる。
今はその前の、ほんの少しばかりのインターバル。
だったら。カティは再び獰猛な笑顔をその美少女の顔に貼り付けながら呟く。
「今度はこっちからひっかき回してやろうじゃねえか。あちらさんの体勢が整う前に」
その呟きは横の二人にもしっかり聞こえたらしい。
ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえてきた。再びの緊張を感じているのか。
だが、カティは敢えてそれを気遣うことなく、二人に号令をかける。
「――っしゃあ、行くぞぉぉ!!」
三人は再度、叫びながら猛然と駆け出した。
突撃し、襲いかかっていく。
圧倒的な数の相手へと、自分達の方が多勢であるかのような勢いで。
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