運動祭騒動

体育祭が近い


「そろそろ体育祭の準備、始まるな」

「だなあ」


 学校も始まって約一月。我が校では始まってすぐに体育祭が行われる。5月の下旬に開催されるのだが、このあたりの学校ではかなり大々的に行われる為、観客も多く入る行事で、多くの生徒が楽しみにする行事でもある。


「俺は超楽しみだぜ?」

「俺もまあ楽しみなんだけどよ……」


 楽しみであると言い切った斗真は、いまいち煮えきらない態度の俺を不思議そうな顔で見てくる。


「いや……ひまりと咲ちゃん、めちゃくちゃ運動できるんだよ……」

「お前よりもか?確か、お前も多少できたろ?」

「得意なの以外は負けてる」

「まじかあ」


 たしかに俺は多少何でも出来る所があると思う。大体の種目で平均か平均以上の成績を残せる。

 だが、ひまりや咲ちゃんはもっと運動ができる。おそらく、女子の中では相当なレベルだと思う。だから、あまりあの二人の前で運動するのは好きではない。

 だが、まあ学校行事なら。それに、運動自体が嫌いというわけではない。


「まあ良いか」

「まあ良いかって……適当だな」

「競技はしっかりやるよ」

「頼むぜ?なんだかんだクラスのみんなも俺とお前に期待してるみたいだしよ」

「嘘こけ」


 バレたか、と笑いながら前を向く。

 今は実行委員を決めるホームルーム中で、前ではやる気に満ち溢れた運動部の気のいい奴らが率先して立候補している。

 特に興味がないので、適当に話を聞いているふりをしながら本を読む。最近は簡単に面白い本の情報が得られて便利らしい。確かに、本屋大賞などに選ばれた作品は面白い作品が多い。本の虫である祖父は、本屋に通っては、面白そうな本を片っ端から立ち読みしていたらしい。今の時代はビニールやらが貼られ、立ち読みできないので、それも一種のジェネレーションギャップかもしれない。俺が小学生のときは、まだできたんだがなあ……


「おい!流石にそろそろ本しまっとけ」


 斗真に注意され、本をしまう。黒板の前には男女二人の実行委員らしき生徒が立っている。確か……男の方は井上で、女の方は上村、だったか。


 前に立って、抱負などをやる気満々で宣言している。がやがやと教室も盛り上がり、だんだん体育祭の雰囲気になってくる。


「おうおう。これでこそ体育祭だよなあ!」

「まあそうだな。出来るだけ精一杯頑張るよ」

「出来るだけって、やる気ねえなあ」


 まあお前らしいけどな、と笑いながら肩をバンバン叩いてくる斗真。しょうがないだろ。出来るだけしか出せないんだ。

 出来るだけ精一杯。力を出し切れるようにやるさ。



「先輩。なんか、もう体育祭なんですね」


 ホームルームも終わり、昼飯を食べていると、教室の外に咲ちゃんがやってきた。一人できていたのだが、やはり居心地悪そうにしていたので、途中で弁当を片し、廊下に出た。


「今日は一人?」

「いや、まだひまりちゃんはご飯食べてるので、あとで来ますよ」


 確かに、俺の教室で弁当を食べているメンバーもほとんどまだ食べ終わっておらず、咲ちゃんもそれに気がついて、「早く来すぎましたね……すいません」と、申し訳無さそうにしていた。

 まあ、別に残った弁当は家に帰ってからでも食べられるし、特に問題ない。


「ちなみにそっちも体育祭の話とかあったか?」

「はい。なんか集められて、この学校は大々的にやるんだからその覚悟を……みたいな話をされました」


 肩をすくめ、面倒くさかったのだろう態度を隠そうともしない。

 確かに、俺のときも面倒な集会が開かれた記憶がある。確か、そのときはぼーっとしていて何も覚えていない。別に大切なことは何も言っていないのだ。マナーを守れ、という一言で済む話を、学校がなんとか、生徒のなんとか……と、いろいろ付け足しまくって長くしただけの話だ。


「そりゃあ災難だったな。、まあ、体育祭自体は楽しいから、楽しみにしとくといい」

「へえ、先輩が楽しいっていうの意外でした。なんか、どっちかと言うと、めんどくさがりそうな……」

「別に運動が嫌いなわけではないから」


 びっくりした表情で俺をじろじろ見て、すこし思案し、「確かにひまりちゃんを追いかけてたときもそんなにバテてませんでしたね」と、納得したのかうんうん頷いていた。


「お兄ちゃん!」


 そうこうしているとある程度の時間も経ったのか、ひまりが廊下を走って駆け寄ってきた。そして、俺に飛びつくように抱きついてくる。


「なんか、いつも以上に甘えん坊だなあ」

「だって妹なんだもん。甘えたって誰も咎めないでしょ」

「そうかも知れないけれども。とりあえず危ないから止めときなさい」


 そう言うと、ちぇ!と、いやいやながらも離してくれる。

 前のあの咲ちゃんを送った帰り道以降、今までまあ甘えてくることもあるくらいだったひまりは、今まで以上に甘えてくるようになった。兄としては嬉しいと言えば嬉しいのだが、見ている人からの目線が痛いので、あまりよろしくない。

 「あの二人って、兄妹なんだよね……?」とか、「もしかして……」と、邪推するような言葉も聞こえてきているのだ。


「あんまりくっつきすぎないほうが良いと思うぞ。特に学校では」

「良いの。お兄ちゃんは噂とか、私の立場とか心配してくれてるんだろうけど、私達は私達なんだから」


 そう言って、注意も取り合ってくれない。まあ、そこも可愛いし、別に嫌というわけでもないのでそのままにいている。


「相変わらずくっついてるね。ちょっとうらやましいくらい」


 咲ちゃんは最初こそ驚いていたものの、最近は全く驚かない。既に日常の一部になっているのかもしれない。もしくは、咲ちゃんの中で、俺とひまりはそういうことしてておかしくないやべえブラコン兄妹と思われてるか。


「……なんか咲ちゃんの中で俺たち兄妹がどんな認識されてるのか気になってきたな」

「?なんか、兄妹という認識よりも、個人個人で、ひまりちゃんはこれ以上ないくらい大切な友達、先輩はこれ以上ないくらい大切な先輩だと思ってます」


 私の評価のうち最上位のこれ以上ないくらい大切な部門を独占してますね!と、胸を張って言っているが、恥ずかしくないのだろうか。

 まあ、俺も二人はまた大切な人だと思っているが。二人と、佐山、斗真を合わせ、俺の交友関係の多くを占めているが、その分深い仲を築けていると思う。


「ちなみに、私の一番大切な人はお兄ちゃんと咲ちゃんだから」


 ひまりは断言するように、そう言う。交遊関係はそこそこ広いはずなのだが……そう言ってやると、「咲ちゃんやお兄ちゃんがあまりに自分にとって大切な人なだけで、友達もみんな大切な人ではあるよ」とのこと。良かった。

 

「ちなみに、さっき咲ちゃんと話してたんだけど、ひまりは体育祭、楽しみか?」

「楽しみだよ!咲ちゃんとお兄ちゃんをしっかり見れるから!」


 正直自分のやつは興味ない。と話すひまりはすこし楽しそうに見えた。

 確かに、その考えは良いかもしれない。ひまりがどれだけ運動ができるようになったのか、咲ちゃんがどれだけ頑張っているか。斗真がどんな活躍をするのか。佐山が斗真に見られている状況で、どんな結果を残すのか。

 そう考えると、すこし楽しみになった。

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