作品解説、あるいは物語の言い訳

『王女の迷宮譚』 二人の主役、あるいは長めのイントロダクション

https://kakuyomu.jp/works/1177354054935182520


キャスロード・ラスワード、十三歳。

魔術大国リースタンの第二王女。黒髪で蒼い螺鈿の瞳、胸は未発達。元気でやんちゃで腕が立ち、宮廷衛士に人気が高い。母の影響もあって武術に秀でているが、自身に魔術の資質がないのを自覚した反動でもある。領国に嫁いだ腹違いの姉は王家の名に恥じない優れた魔術師であり、今も憧れとコンプレックスを抱いている。

毎日の修学にうんざりしているものの、魔術の講義を強いられない現状には安堵している。ところが失踪した宮廷魔術師長が密かに彼女の魔術講師を内定していたと聞き、あれこれと着任の妨害を企てることになる。

魔術修練の空白については、謀反を企てた亡き王弟が古魔術に手を染めていたことを理由に、宮廷が魔術指導に慎重を期したためだった。

その謀反には自身の記憶も曖昧な幼少の因縁があり、当時の事件に係わっていたのが宮廷魔術師長に招聘されたクラン・クラインである。


クラン・クライン、年齢不詳。

魔術師まがいの呪いで糊口を凌ぐ旅の史学士。ひょろりとした蓬髪の青年で、身なりも性格も怠惰。リースタンには縁があり、宮廷にも幾人かの知人がいる。

王都郊外に帰り着いて間もなく、本人も知らぬ間に第二王女の魔術師講師に抜擢されていた彼は、否応なく宮廷に連行されることになる。

折しも宮廷は次代の国主を巡って第一王女派と第二王女派が争っており、魔術師偏重の気風のなか、宮廷魔術師長による第二王女への魔術講師の指名は無視できない火種となっていた。


クラン・クラインの本業は忌み語りである。

国史は往々にして歪みが多く、国家を超越した歴史の護り手として史家協会が存在した。そのなかでも市井に出せない封印、禁足の秘事を語り継ぐ者を忌語りと呼ぶ。協会に属してはいるものの内外にその正体を知る者は少なく、個人か集団かも定かではない。

逆に歴史ある王族や魔術界の最高位には顔が利き、何者にも変え難い畏れと唯一無二の信用がある。ただし組織、国家の意に従わないため自身は公の庇護を受けられず、呪を一身に抱えているためひと処にも居つくこともできない。

その彼が第二王女のもとに招聘されたことについては、政治云々の布石というより新たな災厄の予見が窺えた。


副題からは消しましたが『忌語りの災難』が本来のタイトルです。

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