第39話 対話

 ナガッチが能力を使ったのは俺と篠崎さんが屋上で話してから一時間後。

 

 その前にコイツに電話をしたとき、既に帰宅途中だったのは覚えてる。よってコイツが此処で操られるのは可笑しかった。


―――今日登校したのちに操られた? いや狙いは俺だからそれはない。危なかったらなにかと連絡起こすダチだし。


 一人じわじわと向かってくる友に俺は麻酔銃の照準を合わせる。中学からの幼馴染にして筋力も人気力も俺とは差がついていた。


「んま、終わったと聞き出すか。そういや、俺お前に勝負して勝ったことなかったな」

「があああああああああ!」

「今日がその勝利の幕開けだ!」


 一発しか使用していない弾を撃つ。普通の銃となんら変わりない動作で起動した麻酔銃はそのまま中谷の腹元にー カツン!


「な⁉︎ 避けられた!」


 ふらふらと揺れる腹を狙ったのがいけなかったのか。弾は中谷の背にある壁へとはじき返される。


 下唇を噛みながらもう一度照準を合わせる俺。攻撃されるのを理解したのか、中谷はスピードを上昇させ這い寄ってくる。


「ぎゃあああぁああああああ!!!!」

「くそ、意識ねえなら元気になるんじゃねえ!」


続けて三発。

発砲、発砲、発砲。


「ぎゃらああああああああああぁああ!!!!!」

「全部外すんじゃねえよ⁉︎ 中谷動体視力良すぎだろ! マジで!!」


 三発とも壁にぶちまけ、残る弾は七発。なあに、まだ余裕はある。そう思い照準を合わせ、引き金を引いたが。


 カチャ!


「弾詰まってるるるぅー‼ マジで言ってる⁉︎ 仕組み知らんが多分火薬とか入ってねえだろ、なんで詰まるんだあああああ!」

「ぎがあああああああああぁああ」

「もう無理、死ぬ。今度こそ死んじまう!」


 拳銃を投げ捨て中谷に背を向ける。せっかくコイツに合法的に勝てる手段が思いついたのに。だがこの場では自分の命が大切だ。


 そう思い、中谷を撒こうと走りこんだ俺は………… 思い切り足から滑り込んだ。


「痛‼ なんたるドジっぷり。笑えねえ!」


 中谷は雄たけびで声を震撼させながら転んだ俺に迫りくる。もうここまでか・・・そう感じ身を縮めた直後、


 バチンイイイィィン!

  

 っという音が俺の体から聞こえた。


「なんだ!」


 数刻の時間が経っても襲われない自分を不審に思い、中谷を見る。するとコイツは、少し離れたところで派手に失神していた。


「はは、攻撃を反射したのか?………」


 服に忍ばせたタロットカードを取り出す。重ねて入れていた筈なのに二枚しか原形をとどめておらず、一枚は木っ端みじんに粉々に分解していた。


「タロットカード……力を付与するにしては…………強すぎねえか?」



*****


〈篠崎〉


潜る。潜る。人の深淵へと潜っていた。


―――これが、長山さんの・・・心の中。


 人のことを取捨選択する性格だと聞いていたが、意外にも彼女にも色々な思い、それこそ優しさだって隠れていた。


 喜び、怒り、嫌悪、悲しみ、驚き、恐怖等々。けれどマイナス感情が此処には多く分布している。


「……………く、ここには長くいられない」


 自分の意識が、後方へ引っ張られるのを感じた。 肉体を置き去りに、精神だけを飛び込ませる。それが私の能力。


 命綱をしないで海に沈む感覚。抗いようのない感情の波が、長山さんの精神世界で引っ張られる、引っ張れる、引っ張られる。


 精神体となった視界で、引っ張られるまま、激流のように駆けていく。


 気付けば、あっという間に私の精神は場所を捉えられなくなってーやがて、焦点収束の果てに極微小の彼方へと吸い込まれる。


 そして、いつしか大いなる海の中に立っていた。


 神秘的な異才を放っていた。視界のすべてを、星の輝きで覆う水平線。


「ここは……?」

「魂の奥底、あーしの精神の根っこの部分」


 喋りかけるその女性のシルエットには見覚えがあった。

 長山日葵、彼女が黒い霧のようなものを纏って座り込んでいる。


「もう無駄や。何をしたって。西山高等学校は、いや世界は潰れる」

「!」


 強く唱える彼女には何か根拠があるのか。


―――黒い霧……これはなに……?


 考えを見透かしたのか、彼女が答えてくれる。


「この黒いもんはな、あーしの力」

「力…」

「能力は、むやみやたりに乱用すると瞳が大きく傷つく。タロットカードの力に頼りすぎた。元々能力は一部の人間が先天的に眼球を進化させたもの。・・・今まで見てこなかったか?力を使用する者が何をネックにしていたか」


言われて過去を振り返る。


ーーー度々瞬間移動をしていた爺さん、彼が能力を使用するときは必ず目を見開いていた。それに遠くであんま見えなかったけど、爺さんと一緒に高台にいた女の子、あの子も目を瞑っていた。それに私も……………。


 考えを読んだかの如く、自虐的に彼女は話す。


「そーや。能力者は瞳を用いて能力を使っとる。ならその瞳はどこに繋がってるか、なんて無粋な質問はええよな。頭ン中に繋がってるってことは精神にも付随しておるんや」

「ここの精神体の貴方に巻き付くそれは能力。その黒い霧が必要以上に酷使した代償ってこと?」

「正解や、篠崎紬希。タロットカードを使って無理矢理強化してたからな。その結果力が乗っ取られた。……あの野郎の言うことなんて聞いたから……いや、違うか。あーしが西岡を手に入れたいと思ったから、、こうなったのか」


 どこまでも悲痛的に言葉を垂れ流す彼女を横目に私は推察する。


 あの野郎、この人物が恐らく今回の黒幕だろう。だけどそんなのはもうどうでもよさそう。彼女は唯々自暴自棄になっている。


「西岡くんが好きだったの?」

「好きなんてもんやない。彼はあーしの正義のヒーローやったんや」


 そこから、彼女の一人語りが始まった。

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