第38話 最後の戦い
「あー、死ぬかと思った」
二階にある一番手前の教室。鍵が掛かってないのをこれ幸いと思い体を休ませる。こんな事なら水を買っておけばよかったと後悔を催すほど、俺の表情はだらしなかった。
―――疲れたなあ。運動部じゃねえんだぞ、こっちは。……は、それで救われたのか。
障害もなく迫りくるクソ生徒ども。そんな彼らに共通するのは教職員を除いてその全てが部活動生徒。外は制服が殆どだったが、中は部活動制服が多い。ってきり操る生徒を千差万別してるのかと思ったが適当らしいと結論づける。
俺と篠崎さんも屋上に行くのが一時間遅かったら巻き込まれていたのかもしれない。
数分の休憩をして教室から出る。先刻は泣き言を上げたが、敵を引き付けるのは俺の仕事。篠崎さんに負担をかけるわけにはいかなかった。無理のない範疇で務めるようにする。
「あああああああー」
「なんだまた敵かって……は?」
単独で聞こえた声に安心した俺の体は一度硬直する。
―――嘘だろ、なんで居るんだ?
ゆらゆらと、不規則に揺れるその体に俺はゆっくりと硬直が解けていく。
中谷蓮斗。
大の親友がここで立ちふさがった。
*****
〈篠崎〉
「必要以上の力を使えば後悔する……わしの善意は届かなかったか。気を付けろお嬢ちゃん。奴は生徒の指揮者でありながら、、意識が刈り取られておる」
「!」
「はああああああ」
独特な関西弁はもうない。乱れた黒髪の奥底から瞳を突き出し必死の形相でこちらを振りかぶる。聞いていた話より酷い。彼女は体をかがませると爪をかぎたて高速這い這いで私に迫る。
―――対話なんてできっこない。殺される‼
再びたじろいでしまう私、ぎゅっと目をつぶりかけた時―発砲音が周囲にこだまする。
「相手を見るんじゃ」
隣から聞こえる爺さんの声にハッとする。
怖い、、けど……ゆっくりと目を開くと、目を虚ろにさせながらガタガタと挙動を起こす長山さん。
「麻酔が効いておる、行くなら今」
「はい」
決心させ私は彼女に向って歩き定める。長山さんには能力無効の魔道具が使われていたらしいが、この様子じゃ解けているらしく、私の異能力も効果があるとのこと。
異能力の使い方は西岡くんと別れた後、爺さんが教えてくれた。私はその通りに行使すればいい。
十メートル、八メートル、六メートル。あとちょっと…………、
「ぎゃああああああああ!!」
「‼ 仲間がいたか!」
物陰から飛び出す生徒。爺さんが銃を発砲するもー
カキン!
「固い! こやつ体を金属で固めとるのか!」
信じられない、とばかりに爺さんが驚嘆して、瞬時に瞬間移動しようと目を光らせるが間に合わない。なにせ、敵は目前だ。
「そんな!」
両手で私は顔を覆った。
その時―私を中心に眩い光が降りかかる。
「え?」
特殊な光で形成された半球体上の壁は襲い掛かった生徒を拒み、私を守っていた。
「ああああああああああああああああ!!!」
―――綺麗。まるで、強い意志……勇気を顕現させているような……………。
「美しい、、」
生徒は障壁に勢いよく弾かれる。
それはいつの間にか消えており、気が付くと座り込んで辺りの光景を眺めていた。目をぱちくりとさせ、茫然と有る私はひらひらと目の前で落下するカードを手に取る。
「昨日の、タロットカード……」
「危なかったのぉ」
ぽつりと呟く私に、後ろから走ってきた爺さんが解き明かす。
「道具は所詮道具よ。使うものによってその力は大きく左右される。わしらの業界で能力者にしか使うことのできないそれは、お主を護ってくれたようじゃな」
一番危険な任務を任されたのに、道具一つ渡さなかったのはこれを知っていたからなのか。
「タロットの意味は力。強い意志のもとに現れるらしい。たとえそれが悪であってもな」
云々唸る爺さんを放っておき、私は手元のタロットカードを見つめる。優しそうに触れる女性にどこか脳裏で懐かしさを感じた。
そのひっそりとその感慨に浸っていた私に、苦しみのないどこか聞き覚えのある声が伝達される。
「うう、、」
「! まだ息があるのか。下がっとれって……ん? お主、」
「あ、桜莉!」
どうやら襲ってきたのは雲斎桜莉だったらしい。見れば、目はちゃんと焦点に合っており先ほどの様子とは偉く違い、まともな様子。疲労は隠し切れないがそんなの些細な事だった。
「生きてる?」
「う、誰よ、初っ端から失礼な言葉浴びせるのは……………って紬希、?」
「そうだよ、私だよ。正気に戻ったんだね」
何故彼女だけが此処にいるの、とかそんな疑問はどうでもよかった。友達が生きてる、その事実で自分は心が満たされていた。
「なん…………か……疲れた。ん、ごめん、少し休むわ」
「分かった。今は休んでて。とっとと終わらせてくる」
「…………変わったね。紬希、前よりも強く……………立派に………、でも……ナガ……ッチ………には、、気………を、付けて」
―――最後まで私の心配。やっぱり良い友達だな。
薄っすらと眠りにつく桜莉に、私は頬を赤らめた。
「ああああああー」
「「!」」
すぐ近くで奇声。
麻酔で動けなくなった長山さんが声を震わせる。
それを見て決心を固める。
「私、やります」
「やり方は………大丈夫じゃな」
怯えと恐怖は消えていた。タロットを仕舞い、蹲る彼女の背中に手を触れると、私はガっと目を開かせる。
能力者との対話。それは能力者の心のうちに入りこまなければならない。能力を使い人の心を覗き込む。犯してはいけないテリトリーを今から実行する。
―――ごめんなさい。………私、やり直したいの。
「いきます!」
そうして私は、人の内側に入り込んだ。
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