第33話 新事実
「それって実行、」
「できとらん。第三者からの干渉。それにより彼女の能力が暴走しておる。加えてわしらは仲間と連絡が取れなくなった」
「状況はどうなってるんだ?」
現状を尋ねる俺に、爺さんはくしゃりと顔を歪める。
「最悪の一歩手前といったところ。お主の学校は乗っ取られ、彼女の意のまま存在している。能力発生はお主と屋上で会った一時間後。自身の能力の範囲を一瞬で拡張させ、学校に居た生徒と教職員を自分のコントロール下に置いた。あまりに長山陽葵の抱える闇が大きすぎたのが要因じゃろう。恐らくその邪心が利用されこの度の事態に陥っとる」
「黒幕がいるってことか? 能力者なんだろ、なんとかできないのか?」
「相手の方が一枚上手、わしらは追い込まれておるのじゃ。」
悔しそうに喋る趣旨に頭を寄せる。
―――黒幕……、要は学校を支配した光景、長山にとってあれは本意じゃなかったという可能性もあるのか。
俺の思いに気付いたのか、爺さんは肯定した。
「確証はないがな。とはいえ長山陽葵の能力は他者が持つ自分への好感度を上昇させるといったもの。これは部署の者が下したから絶対に覆らんとして、それが利用されたのなれば犯人は何かしらの魔道具で長山を強化しておる」
魔道具。言うなればそれは、異能力者にだけ使える代物や一般人にも使用可能な物も存在するらしい。今回の事件は、ナガッチが敵の魔道具に利用され、強化されているとのことだった。
爺さんが言う今回の魔道具は、一時的に異能力が増幅され、ゲームで表すならバフかけみたいなのが起こっているようだ。
つまり敵がナガッチの能力をパワーアップさせ、好感度を上げる力を好感度200ぐらいにまで引き上げて学校の生徒、教職員全員を彼女に支配させているとのことだった。
「なんでそんな……、力があるならナガッチを脅すなりして自分で操ればいいのに、」
「わしらは黒幕には別の目的があると踏んでいる。あくまで長山陽葵の暴走は余興とな」
「その目的っていうのは分からないのか?」
俺が問うと、ここにきて顔色の悪かった爺さんの表情が一段と濃くなる。
「はっきり言って………見当もつかん」
「ダメじゃん!」
「分かっても今できることなんて実際限られておるんじゃよ」
喋りながら指さす方向、そこには多くのパトカーが道路を占めている。
「おかしくなってるのは生徒と西山高等学校の教職員のみ。それを見つけた一般人が警察に連絡し彼らが向かっておる。わしら能力者の存在は公にさらされてはならない、じゃがあと数時間でそれが破られてしまう」
そういや俺も警察に通報していた。だが時間的にそれより以前に電話をした人がいたのか。 一斉にパトカーが到着したのか付近の道路はどこも詰まっている。
しかし対応が早く現時点で警察が交通整備をしてるのが確認できる。どっちみち時間は残されていなかった。
「現時刻は九時ジャスト。わしらの仲間も応援も来そうにないし、隠ぺい工作はしておいたが、効果が切れまであと一時間。それまでに長山陽葵をどうにかしなければならん」
「策は?」
「一応。最悪の一歩手前と言ったじゃろう」
ゆえに爺さんは時間をかけ瞳を閉じて次の転瞬、食堂の時のようにガっと目を見開く。
ドスっ!
瞬間移動、そう身構えた俺は目の前の場面にあっけにとられた。
「え?」
「は?」
現れたのは人。それも今日は欠席していた筈の、
「篠崎さん……?」
「え? 西岡くん………」
可愛らしいクマのキャラクターのパジャマを着こんだ篠崎さんにフリーズする俺。眼鏡はかけておらずコンタクトらしかった。
彼女は手に持ったぬいぐるみを勢いよく投げつける。
無論、俺に。
「へ、変態‼」
「おが⁉︎」
不可抗力、そう叫ぶ間もなく顔面に激突したぬいぐるみによって一分程度、意識を刈り取られることとなった。
・・・
脱力感から解放された俺は若干涙目になった篠崎さんにこれまでの内容をそっくり喋る。初めは半信半疑だった彼女も次第に飲み込まなければ辻褄が合わないのを察し、帳尻を合わさるために三分ほど費やした。
「話は済んだか?」
「ああ」
返事をする俺に爺さんは続きを開始する。
「わしらは長山陽葵という能力者を確保するために此処に訪れた。じゃが、彼女の能力を理解して尚おかしな点がある。ズバリそれは、西岡樹。お主じゃよ」
は⁉︎っと自身を指さす動作に爺さんはあきれながらも答える。
「長山陽葵の好感度上昇、それがお主に一ミリも効いてない。わしらにだって、気をつけなければ効いてしまうというのに」
「!」
言われて蘇る先ほどの記憶。
『原理原則は大切じゃない。肝心なのはあーしの力、それを西岡は弾いた。それってあーしのミラクルパワーが効いてないってことやん』
―――ナガッチが言ってきたセリフ。あの時は何を顕してるのかさっぱりだが、今なら合点がいく。
「ナガッチはクラスメイト全員から好かれていた。嫌っていたのは俺だけ。思えばあの空間じゃなく俺が可笑しかったのかも」
「いや、能力で作成された空間が変なのは事実。じゃが、………………」
―――なんだ、この爺さん。急にロボットみたいに動かなくなって。
一言喋って動きを止める爺さんに俺はうさん臭さを示す。
「なんだ? 俺にも何かしらの能力があるってことか」
「わしの見立てでは外部からの能力排除みたいに考えておるがそこは何とも言えん。何にせよ、これで面倒が増えたことに変わりはない。」
「俺に異能力……か」
ーーー憧れるけど、ぶっちゃけ現実だと使いどころないしなー。
自分にも何かしらの能力が芽生えてる可能性。普通の人とは違うという嬉しさの反面、ナガッチのように悪用すれば他人を傷つけてしまう心配がある。その点で言えば、能力が分からないのは有難かった。
「物思いに耽る時間はない。ここからが肝要となる」
「まだあるのか」
「説明と報告で終わってたまるかい。事件解決に付き合ってもらうぞ、お主たちもな」
爺さんは憫笑するように口元を緩ませる。
「男の背中に隠れるお嬢ちゃん。お前さんが考えてること当ててやろうか、『あの、私ってどうして此処に連れてこられたの?』 これじゃろう」
「分かってんならとっとと言え。怯えてんだろうが」
震える彼女の前で怒気を払い、ガンを飛ばす。それに引き換え爺さんは肩を竦めて呆れたまなざしを送っていた。
「ほんと、女にはあまいのぉ。だからかの元凶にも強く言えんのじゃ」
「……見てたのか?」
「いやぁ、わしにはさっぱり」
とぼけを軽視し、食えないジジイだと加味を行う。瞬時にわたる睨み合いが続くも、拉致が空かなくなり、爺さんの発言を追立てた。
「篠崎さんをどうして瞬間移動させた」
「そちらのお嬢ちゃんも能力者だからじゃよ」
「………………………………………………………………は?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます