第9話 友人

『ようよう樹。どうした、怪我か? 火事か? それとも死んだのか?』

『色々とツッコミどころ満載だな。今度は救急コールセンターの真似か」

『残念。正解はコールセンターと見せつつただバカにしながら心配する中谷くんでした』

『うわぁー、うぜえきめえ』


 学校を出て篠崎さんと約束をした後、俺は帰路に着いた。親が帰宅しており、共に晩飯を食べ、風呂に入水してのち、お茶を片手に友達と電話するこの状況に至る。


 二週間に一度はこいつと愚痴を言い合うので、二年生初日に通話する事は変ではない。このいけ好かない野郎は多数の人間と友好を結んでいて、その手腕で俺も学校の立ち位置が良くなったことは感謝を覚えつつ本人には言わないと腹に決めていた。


『さて、余興はこんぐらいにするか。しかしお前から電話をかけてくるなんて、珍しいこともあるもんだな』


 ちょっと心配しちまったよと答える中谷、こういう所がモテる秘訣なのかもしれない。


 俺は口元を尖らせながら本題に斬りかかる。中谷に連絡を入れた端緒は当然本日の一騒動であった。

 クラスの振る舞いかたと友達のつくり方、というこの一言。後々を考慮せず了承してしまった謂れだが、自分自身決してクラスで上手くやれてるとは思案していない。受けたからにはまじめに取り組もうと意気込むが、それには中谷の人脈と情報網が必須だった。


 極力篠崎さんについて喋らない。いずれにしてもこれが意地以外の何者でもないことに感取はしていた。


『突然で悪いんだけど、うちのクラスメイトってどんな感じか分かる?』

『ガチで突然だな。つうか俺メールで送んなかったっけ?』


 言われて過去に遡れば、「やっほーい、クラスの連中個性的な奴ばかりだって」という送信が目につく。内容的にもう少し掘り下げてほしいと告げ知らすと、キョトンとした威儀で返された。


『何、気になる子でもできた?』

『違う違う、そうじゃなくてクラスの雰囲気とか気になってさ。仲良くなれそうな奴がいるかなーて、』

『それ学校で推察してなかった?』

『自分は自分。俺はお前から詳しく聞きたいんだ』


 それを参考に篠崎さんと対応策を企てる、とは言わないでおく。


『そうだなあ、男子はわりといい奴ばっかだな。うちって二年生から文理に分かれるけど治安の悪い奴らはみんな理系いっちゃったし。俺らのクラスの日本史選択は、穏やか男子が集まってるから』

『それは女子も?』


 肝心な要のところを尋ねると、その途端中谷は唸る。心持ちは肯定しかけるも電話越しは否定する情調が伝わった。


『これは他言無用なんだが』

『別に気にしない』

『……長山さんは違うんだけど、それにつるんでる女子はなかなかキツい。去年目をつけられた女子が中退したって噂もあるぐらい』


―――はは、初手からハードル高いぞ。


 嘆きながら明日の相談内容が中々ハードになることに不安を抱える。クラスに馴染む筈がこれでは逆に他クラスにいく方がいいのかも。俺は視点を切り替え画然たる部分に傾注した。


『その他の女子たちはどうだ?』

『他の女子………わりと大人しめの人間が揃ってるから良いと思うけど。まあ一部問題児は除いて。篠崎さんとかな』

『ぶ、⁉︎』


 知った名前が露わになって飲みかけのお茶を吹き出した。

学校の中心軸に位置する人間も、ああいうひっそりとした女子を視野に入れて常日頃行動するのが自然なのか?ー中谷の通話だけでは判別が欠けている。


―――篠崎さんが問題児ってのはおそらく誰とも関わりがないって事を言ってるのかも?………今はよそう。とりあえず篠崎さんと仲良くなれそうな女子を探すのが先決だ。


『おい大丈夫か?』

『ゲホゲホ、…ちとむせたわ』


 ごほんごほん、とむせたのちそれらしく咳をして大人しげな女子について質問をこなしていく。

すると、初日にしては出来すぎたクラスメイトの情報がピックアップされた。


 名前が挙がる二人の女子。

 那覇士なはし香織かおりという水泳部の女子。そして、


『ん? その人っていつも長山と一緒にいた奴じゃないか?』


次に挙がるのは、雲斎桜うんさいおう


元同じクラスメイト。今日ジャンケンをして勝たれた相手、会話するのが稀なためナガッチと長期間行動していたイメージ。彼女が候補として列挙するのが殊の外予期せぬ範疇はんちゅうだった。


 そんな俺を案じたのか軽ーく紹介文に取りかかる。


『雲斎さんは元長山グループで唯一まともな存在だよ。


  友情はどろどろしてるなーっと砕けた口調で笑いだす中谷。それについては苦笑いを装いお互いに笑い合って流し合いつつ、内容は掴めたのでひとまず礼を口にした。


『夜遅くまでサンキューな。あと、明日は昼休み寄るとこあるから俺の事適当に紹介しといてくれ』

『了解だ、接待じゃねえからそんな気にすんなって。そっちも……』

『ん?』

『ま、うまくやれよ』


 ブチっと途絶える音声通話。

 俺は携帯を再び閲えっし、朦朦もうもうたる嘆声たんせいいた。

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