透無症発覚

ある日の仕事帰り、コンビニに向かっていた。その際に県立病院の前を通るのだが、病院の近くにあるバス停にかおるらしき人影をいたような気がすしたが、はっきりとは見えなかった為、その時は深く考えずにそのまま通りすぎた。

 僕はこの時あることを考えていた。

 「そろそろお金も貯まったし、かおるの行きたがっていた場所にでも連れて行こう」

通帳とガイドブックを見ながら呟いていた。そして、緊張しながら通話をかける。

 「あっ、もしもし?そうただけど来月にでもかおるの行きたがっていたとこに旅行行かない?」

「ほんと?!やったー!もちろん行くよ!」

「なら、有休取るの忘れんでね」

「うん!でも、これってLINEだけでも良くない?」

「かおるの声を聞いていたかったもん」

 すると、かおるは照れてしまったのか、いっとき返事が返ってこなかった。

 そして、フフッと聞こえたと思うと

 「大好き!私もそう君の声をずっと聞いてたい」

いきなりそんな事を言い出したから、今度は僕が照れて返事できない状況になってしまう。

 「ありがと……」

「本心だから。そろそろ寝るね。おやすみ」

「おう!おやすみ」

そう言ったものの、どちらも電話を切ることができず結果、寝落ち通話をすることになった。

 その頃には、かおると付き合って4ヶ月が過ぎていて、その頃には季節は夏になっていた。

 そうしているうちに、旅行当日になった。その日は雲ひとつない快晴で、待ち合わせ場所に来たかおるは、

 「まったー?」

そういいながら手をブンブン振ってた。ちなみに、かおるの服装は、スーツケース片手にブランドものではないけどブランドと見間違えるような格好をしてる。かおるを車の助席に乗せ、空港に向けて車をだした。

 「それにしても、そう君がこんなことを計画してたなんて驚きだね」

「まぁ、貯金も貯まったしかおるを喜ばしたくて」

「ふふ、ありがと!」

 そう言ったかおるは車の窓から外を眺めていた為、表情はわからなかった。

 空港に到着した僕たちは搭乗手続きを済ませ飛行機で大阪にむかった。到着してすぐにレンタカーを借り、奈良県に向かった。

 最初の行き先は東大寺と併設されてる鹿公園だ。

 東大寺につき、駐車場に車を停めてると鹿を見つけたかおるが

 「可愛い!本当にこの辺りを歩いてるんだ」

 と楽しそうにはしゃいでいた。車を降りるとかおるは、僕を引っ張って鹿せんべいを買い、一匹の鹿にせんべいをあげようとしていたが、何匹もの鹿に追いかけられていた。

 僕はかおると出会えた幸せを感じながら、思い出にと何気なくスマホでかおるが鹿と戯れてるところを写真に撮った。

 その後日本最大の大仏を見に行った。

 「大っきいね〜」

見上げながらかおるはそう言った。その口調を真似て

 「大っきいね〜」

 と僕も言った。

 彼女は、照れながら

 「もう!」

と言って、思い切り僕の二の腕を叩いてきた。

 「イッテーー!」

「自業自得だもーん」

彼女は一旦そっぽをむいたが、くるっと振り返って笑顔を見せた。それに僕も釣られて思い切り笑顔になった。

 僕は今の笑顔が本当の心の底からの笑顔だとわかった。

「かおると出会えて本当によかった。一緒にいるだけで心が軽くなる」

 「何を今さら、私もそうくんに出会えてよかったよ」

 彼女はそう言うと、僕に抱きついてきた。そして、僕を見上げるとニカっと笑いかけてくる。

 僕たち二人の遅めだったが、食べた昼食は奈良県の郷土料理である、柿の葉寿司である。それを食べ終わると、宿泊をするために予約しているホテルのある大阪へと向かう。

チェックインを済まして、ホテルマンに部屋に案内してもらい、宿泊の荷物を置いて道頓堀に向かった。

その道中、僕は気になったことを聞いた。

「そういえば、最近かおるが、よく病院から出てくるのを見かけるけどどうしたの?」

「あっ、いや……、ただの貧血だから」

かおるは焦ったように目を泳がせている。

僕は、心配だった為なにか、大きな病気になってるんじゃないか、そう考えてしまった。

「本当?心配なんやけど」

「安心していいよ!別に死ぬわけではないから」

「うん……」

その後、道頓堀に到着し二人で写真を撮ろうとしたが、拒否されてしまった。

 僕は少し落ち込んだが、それを感じ取ったのか、かおるはお好み焼きを食べに行くことを提案してきた。

 僕は、お好み焼きが1番好きな食べ物だったため、すぐにテンションが上がった。

 ホテルに帰り着いて、かおるが風呂に入ってる間にコソッとカメラに収めてた姿を確認する。そこには信じたくない物が映っていた。

 彼女の体が半分透けていたのだ。

 思わずカメラを落としそうになった時に、かおるが風呂から上がった。

「どうしたの?」

「あっ、いや何でもない」

「風呂入っていいよー」

「あぁ……」

 僕は冷水を頭から被りながら、考えていた。頭の中にはある病気の名前がグルグルしていた。

僕はこの後からどのような顔をしてかおると過ごせばいいのか分からなくなってきた。

風呂から上がりベットに向かうとかおるは既に寝ていて、その寝顔は幸せそうだった。

「たくっ、ほんとに僕に隠し事は無しだろ……」

そんな呟きは虚しく消えていった。

次の日は今来ている大阪のテーマパークに来ている。その間も僕はどのように接すればいいか分からなくてなかなか、会話もいつもより弾まなかった。

2人でジェットコースターとかを堪能していたが、気持ちのモヤモヤが収まらずけど、そんな事じゃかおるが楽しめないと思い、気持ちを切り替えた。それが幸をそうしたのかその後は絶叫マシンを中心に乗りまくり、いつの間にかその事さえも忘れていた。

「ジェットコースター楽しかったね!」

そう、いたずらっ子のような笑みを向けてきて、僕はと言うとジェットコースターなどの絶叫マシンは苦手だったので文字通り絶叫しまくったのだ。

「もう絶対に乗らない!」

僕達はクタクタになりながらホテルに戻る。

次の日は、通天閣などに登り風景などを撮った。

そうして、2泊3日の旅行は無事に終わった。

その帰り道、僕はあるサプライズを実行した。

「僕はあなたと共に一生を過ごしたいです!その人生を僕に預けてくれませんか!」

そう、僕は彼女にプロポーズをしたのだ。

その日は、快晴で夕焼けが海辺に綺麗に映えていたのでそこ実行した。が、

「ごめんなさい。気持ちは嬉しいけど、私にはそんな資格ないの……」

その言葉で僕はあることを思い出した。

「それって、あの病気が関係してるの?」

「……もしかして、写真撮った?」

「うん……、撮った」

すると、彼女はとても悲しそうに自分の病気を語り始めた。

透無症。それはここ数年で確認されるようになった奇病であり、症状としては写真を撮るごとに写真から透けていき、完全に映らなくなるとその三日後にはこの世から完全に忘れ去られてしまうと言うものだ。発症率は極めて稀で対処法や改善例が無いためどうすることも出来ないのだ。その病気に彼女がなっているのである。

「ごめんね。本当はこのまま忘れてもらおうと思っていたの……」

「で……でも!」

「別れましょう」

 かおるはいきなりそう切り出した。

僕は震える声で

「別れるってなんだよ……」

「言葉通りよ。私たちに、もう時間は残されてないし」

「だからって…‥」

「だから、もう私に関わらないで‼︎」

彼女は弱々しく笑いながら、僕に一言ありがとうと言う。

 僕はそれでも彼女を離したくなかった。だからまだ諦めようとせず喰らいつく。そのため思わず語気を強めてしまった。

「それは違うだろ!」

「違くない‼︎私は……もう存在が消えるんだよ?もう誰にも迷惑をかけたくないの!だから……だからもうほっといてよ!」

 そのまま会話をする事もなくなり、彼女を家まで送る。その足で自分のアパートに帰った。寝室に着くと、一気に気持ちが爆発した。

「何だよ!なんでお前は1人で悩み苦しんでんだよ!僕に相談してくれたっていいだろうが!」

 そんな僕の叫びは誰にも聞こえる事なく虚空に消えてった。

 ベットに横たわった瞬間、一気に眠気が襲いかかり、気絶するように眠りに落ちた。

 朝の直射日光が顔面に差し込んできてから目が覚めるが体は鉛のように重く、昨日の彼女のことを引きずっているため、気分は最悪だった。

 そのため、会社に行くだけでも相当の体力を使ってしまう。

 会社に出社して先輩に挨拶すると何かを感じ取ったのか、質問してきた。

「お前、何かあったのか?」

「え?なんでですか?」

「いや、なんかとても負のオーラ?的な物が漂ってるからさ」

僕はそんなに悲壮感出てるのか?と思いながら

「まぁ、かおると喧嘩してしまって……」

「じゃあ、今夜飲みに行こうぜ!」

「僕、お酒苦手です。それにそんな気分じゃありません」

「そういう問題じゃなくてなぁ、相談に乗るから来いっていうことだよ。それに、伝えないといけない事もあるしね」

 そういう、先輩の気迫に押されて

「わ、分かりました」

そう返事をした。

 その日は仕事に身が入らずミスが多く目立ち、先輩にその度にフォローされる1日になった。

 そして、仕事が終わり居酒屋で先輩に話を聞いてもらっていた。

「えっと……かおるは透無症を患っていて、それに僕が気づいてしまってそれで、別れようと言われたんだ……。それで……」

と、そう説明する。

 その説明を聞いた先輩は真剣な顔になりあることを言い出した。

「実は、お前に伝えないといけないことがあるんだ」

「なんですか?」

 と、僕。

 先輩は、少し言いづらそうにしていたが、腹を括ったのか、口を開いた。

「朝にお前の彼女が俺を訪ねてきて、昨日のことでお前が落ち込んでいるはずだから元気づけてくださいってことと、私のことは心配しなくていいよ。ということだったぞ。それに、巻き込んでごめんなさいって俺に頭を下げてきたんだ。」

「そう……ですか」

 先輩は、お酒を飲みながらおもむろにこんなことを言い出した。

 「それで、お前はどうしたいんだ?」

「どうしたいって言われても、彼女がそう望むのなら仕方ないですよ」

 しかし、先輩は僕の本心を見抜いているのか、

「俺が聞きたいのはその虚言ではない。自分の気持ちを全部ぶちまけてみろ!」

僕はそれでも本心を隠し続けようとし

「それが本心ですよ。だからもう大丈夫ですよ……」

 けど、先輩は納得してないのか僕の言葉を跳ね除ける。

「俺は、このまま前みたいに全て我慢して崩れていくのをみたくないんだよ!それともあれか?お前は嫌なことから目を背けて逃げるだけの意気地なし人間なんだな?」

 いきなりそんなことを言い出した先輩に僕は思わずカッとなり持っていたコップを思い切り置いて叫ぶように本心をぶちまけた。

 「僕だって、このまま別れるのは嫌だよ!このまま終わらせる事もしたくないよ‼︎」

 「その言葉が聞きたかった!よし!彼女のとこに行ってその想いをぶつけてやれ!」

 そう先輩はニッと笑い僕の背中を押してくれた。

「行ってくる!」

僕はそのまま走り出した。

その道中、頭によぎるのは彼女との思い出や愛くるしい笑顔を何度も思い出している。

何度も転びそうになりながら、彼女の住むアパートに到着した。

インターホンを鳴らして、彼女が出てくるのを待った。数十秒後に玄関が開き彼女が中から出てきた。

「私に関わらないでって言ったでしょ!」

そう言ってドアを閉めようとした彼女を制して、

「かおるにどうしても言いたいことがある」

「……」

僕は、今思っているありったけの気持ちを伝える。

「今まで、お前が1人で病気に悩み苦しんでるのに、そんなことも気づかない僕でごめんな……。本当に苦しかったよな……」

彼女は怪訝そうに口を開いた。

「何よ、いきなり」

そこで僕は彼女を抱き寄せて、泣きそうになるのを堪えながら、

「もう、逃げるなよ。僕ももう、お前から自分の気持ちから逃げない!だから最後の1秒まで一緒にいよう」

「なんで……なんでそんなに私に構うの!」

彼女は泣きながらそんなことを言った。でも僕の中では分かりきっていた答えだった。

「だって、かおるの事がかけがえのないとても大切な存在だからだよ」

「でも、私はもうすぐこの世から存在ごと消えるんだよ?それでもいいの?

僕はとっくに腹を括っていたため、答えは決まっていた。

「それでもいい!だから、一緒にいよう!」

彼女は、そんな僕の言葉を聞いて泣きながら笑っていた。そして、

「そんなこと言われたらもう逃げれないね」

そう、彼女は言い

「改めてよろしくね」

とも言った。

僕は、彼女をもう一度抱きしめて2人で嬉し泣きをしながら最後まで生きていくことを誓った。

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