(二)-16

 その週末の土曜日、巨勢は出張を理由にして、自宅の車を走らせて、愛人の麻美を連れて箱根の温泉旅館に向かっていた。

 彩夏の言葉がひっかかっていた。生まれてからもう十四年も経った話で、その間全く連絡がなかったのだから、彼女が自分を当てにしてはいないことは事実なのだろう。しかし、もしも彼女が妊娠したことを、もっと早くに、妊娠に気づいた時点で教えてもらっていたら、どうなっていただろうか。何度もそのことを考えた。

 結局は堕胎させていただろうと思う。大学生の時の自分に赤ん坊の面倒をみることなんてあり得なかった。それは今でも同じことだった。


(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る