036 終局
どかん! と凄まじい爆発音とともに彼の笑い声が飲み込まれ、悲鳴に変わる。わたしはそこから少し距離をとっていたので爆発には巻き込まれない。
まるで呪いのような、血の底を這うような会長の声が聞こえる。
「何故」
呪詛のように。
「何故ッ!」
煙がはれていく。そこには、両足を失い地に這いつくばる会長の姿があった。
わたしは立ち上がり彼を見下ろす。
「何故……簡単な事。毒殺するプランは第二プラン」
「だいに……プラン……?」
首をかしげながら両足をべたべたと彼は触る。
手が真っ赤になっていく。
「すなぎもが青酸ソーダを持っていることがあなたにバレていることは知っていた。だから、それを利用して『わたしのプランが毒殺』だと思い込ませた」
「おもいっ……こませた?」
そう。これが見抜かれないわけがないとは思っていた。
まさかこうも正確に見抜かれるとまでは思っていなかったけれど、会長が毒殺の可能性を考えないわけがないと知っていた。だってわたしの思考が分かっているんだから。普通の私なら確かにそこで終わっていた。
でも。
「すなぎもは言っていた。『固定観念に惑わされるな』って。それは、わたしを何度も救った。その一つが、今。わたしは毒殺の手段をあえて使わずに、もう一つ策を用意した」
木っ端みじんになった将棋盤に目を向ける。
「それが、将棋盤の足に設置していた『りあの小袋』」
「なん……だって……?」
「りあの唾液を入れた小袋は爆発物。ちょっとの衝撃で爆発する。誤爆するんじゃないかってドキドキしてたけど、どうにかしのいだ。そして毒なんか塗ってないシャープペンシルを舐めて、『毒を舐めて苦しんでいるフリ』をして貴方が油断しているところでシューズを将棋盤にぶつけて衝撃を与え……」
「ばくはつ……させたってことか」
「正解」
「だが残念だったね。僕は死んでいない。僕は死んでないんだよ!」
会長は叫ぶ。
わたしは一歩一歩彼に近付く。
距離はだんだんと短くなり。
わたしは、手を伸ばす。
そもそも、この騒動の中不思議なことがいくつか起こっていた。
一つ目、くりぬかれたはずのわたしの目が元に戻っていたこと。
二つ目、りあが正気に戻ったこと。
三つ目、爆発の中で壊れたはずのストラップがいつの間にか元に戻っていたこと。
それらはとても不思議だけど、共通点があった。どれも、わたしが強く望んだこと。
目を失っていなかったらすなぎもの足手まといにならないのに、と。
りあにいつもみたいに戻ってほしい、と。
すなぎもに、また会いたい。
そしてもう一つ共通点があった。それらの異常は、すべてわたしの手の中で行われていたこと。
わたしが片目を抑えていたとき。
わたしがりあの顔を掴んでいたとき。
わたしが手を握りしめているとき。
すなぎもは、『固定観念を疑え』と言った。
だから疑った。わたしの能力は本当に、特殊な周波で聴覚を騙すことによって相手に幻を見せる能力なのか。
そうじゃないのかもしれない。
わたしの能力は、強く望むことで、現実を小規模に改変するのではないか。
普通それは、手で触れている対象に行うのではないか。
ストラップは、わたしが壊れて暴走したから物体に触れていないのに改変できたのではないか。
つまり、それは。
「すなぎもを取り込んだ会長に触れて、すなぎもを取り込んだという現実を改変できるということ!」
会長の胸に手を触れる。
「わたしはすなぎもを取り戻す!」
叫んだ。
夜のどこまでも響きわたるような声で!
「すなぎもが好きだから‼︎」
改変する。
こんなひどい結末を!
わたしはそう強く望み、光が……まばゆい光があたりを包み込んだ。
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