012 遊戯
痛む頭を抑えつつ、生徒会長はようやく立ち上がった。あたりを見回すが、舞園由梨花と砂肝和一の姿はない。逃してしまったかと舌打ちをする。
「フェアな逃げ方ならまだ許せるけれど、僕に対して不意打ちを狙うとは、なんていう卑怯者なんだい……砂肝クン」
ぎりぎりと歯ぎしりをしつつ、端末を取り出し十神につなぐ。苛立つように、部屋の中をぐるぐると歩いたまま彼が出るのを待つ。
『なんだ生徒会長。人間狩りにゃ遅れる。妹にたこ焼きをあーんしなけりゃならん』
「うるさいな。そんなものどうだっていいだろう」
生徒会長は、怒りと屈辱に我を忘れていた。その発言に十神は、端末を握りつぶす勢いの声で怒鳴る。
『妹に全力をささげなくて、なにが家族だ‼ 家族を馬鹿にするのか』
「そういう場合じゃないと言ってるんだ十神謙二! 僕の言葉に従え。でないと殺すぞ」
理性などない。もうそれは本能がしゃべっている。流石に十神も、この異常な状態に気が付き黙り込む。
生徒会長はそれを了承と受け取った。
「砂肝和一と舞園由梨花を探してくれ。二人で逃げた」
『ほぅ……。生徒会長は今どこに』
「女子寮だ。これから生徒会室に向かう。資料を漁って、下部組織にも連絡を送るつもりだ」
「なるほど。他の連中には知らせたのか」
「これからだ。とりあえず一番近い真宮寺ちゃんに知らせる。情報を掴めたら連絡しろ」
「わかったよ、会長」
ぷつりと通話が切れる。端末をポケットにしまい、生徒会長は部屋を出ようとして、入り口に立つ人影に気が付いた。
それは、トレンチコートを着たあまりにも独特の服装の少女。
「真宮寺ちゃん。君から来てくれるとは有り難いね。手間が省ける」
喜びに声が上ずる。だが、真宮寺莉愛は無反応だった。
いや、反応をしていないわけではない。
ただ、答えようとしないだけだった。
「なんだい、反抗的な目を僕に向けて」
不愉快な視線だと感じる。真宮寺莉愛は完全に自分に、敵意を向けていた。
「そうか……君は舞園ちゃんと仲が良かったもんね。彼女を守りたいのかい」
「ああ、守りたい」
コートが風に揺れる。
「アタイは、あの子をそばで見てきたんだ。あの子の、感情を忘れようともがく姿も。本当は、あの子は心優しい子なんだ。だけど、人間狩りを果たす為、生徒会である為、彼女は感情を捨てようと苦しんできた」
拳をガツンと合わせる。
小さな爆発が起きる。
「だが、それはもうお終いだ。あの子はスナギモと……大切な奴と一緒に逃げる。それがユリカの出した答えなんだ」
そうして彼女は構える。戦うために。
「だったらその応援に全力尽くすのがダチってもんだ!」
「僕に歯向かうのかい。無駄だよ。全部無駄だ」
「無駄なもんかよ。ほんのちょっとの足止めにでもなるなら、アタイは命かけるぜ!」
拳が会長に向かう。まだ頭の痛む、万全の状態ではない。けれど、避けれない拳ではない。
「当たれば確かに強力だけど、当たらなければ何の問題もないんだよ」
「じゃあ当ててやる。お望み通り、強力なやつを」
彼女は自分の拳を噛んだ。思いっ切り、くっきり噛み、野獣のように笑う。
「起こしてやるぜ、大爆発。こんくらいやってやらなきゃ」
振りかぶる。
走る。
殴る。
「女が廃るぜぇえええええ‼」
だがその拳よりも早く生徒会長は彼女と距離を縮める。
「くそったれ」
すぐに軌道を変えようと動き出す真宮寺莉愛。会長もそれには気付いている。
一瞬遅ければ自分の命は危ないと。
そう、たった一瞬。
「見せてあげるよ、真宮寺ちゃん」
会長は愉快そうに言う。
「僕のチカラの欠片をね」
そういって会長は、真宮寺の首筋を舐めて目を見た。
まっすぐに、彼女の瞳を見つめた。
「ちっぽけな欠片だけど、見れただけでも幸運じゃないかい」
会長はそう言う。
もう真宮寺莉愛にその声は聞こえない。
真宮寺莉愛は黙り込む。
もう殴る意志さえ持ち合わせていない。
目は虚ろに、会長を見る。
もう彼女は、ただその場に立ち尽くすだけ……。
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