エピローグ やりたいこと:次は箱庭ゲームが始まるらしい
聖騎士たちに襲われていたアリスを助けた俺たちは、転移魔法を浸かってアイウェオ王都から脱出した。
到着したのは絶海の孤島と言われる『アルカディア』。
このフォースデン世界で俺が初めて降り立った場所だ。
この場所から旅立ってまだ一ヶ月も経過していないが、なんだか妙に懐かしさを覚える。
「なんとか無事帰ってこれたな」
「当然です。転移スキルに間違いはありませんから♪」
「しばらくはここでゆっくりするのをオススメする」
「そうだな。俺もちょっと休みたい」
馬車で寝泊まりして旅をするのも得がたい経験だったし、街の宿屋に宿泊するのも初めての経験だったけど。
馬車では荷台で雑魚寝だったし、宿屋の寝具はお世辞にも快適なものではなかったから、身体の隅々に疲労が蓄積していた。
今日はゆっくり眠りたい――とそんなことをメイドたちと話していると、周囲をキョロキョロと見回していた同行者が不思議そうに口を開いた。
「あ、あの、カミト様。ここっていったいどこなのかな?」
「ここ? ここはアルカディアっていう島らしいよ」
「アルカディア……えっ? もしかしてあのアルカディア?」
「どのアルカディアかは分からないけど、ミカたちからはそう聞いてる、けど……何か驚くようなところあった?」
「何を言っているんですか! アルカディアは前人未踏の聖地と呼ばれている場所ですよ! 本当にここがあのアルカディアなんですか!?」
「聖地?」
同行者である聖女アリスと聖騎士ノア。
その二人の疑問に首を捻る。
「ええと……ミカ、説明してあげてくれるか?」
「了解しました!」
額に手を当てて敬礼しながら答えたミカが、アリスたちの前に進み出る。
「この島の名はアルカディア。貴女方が聖地と呼称するそのアルカディアで間違いありませんよ」
「で、でもアルカディアって、島の周囲には巨大な魔物が跋扈し、どんな大型船でも近付くことのできない島だって……」
「その通りです。ですがご主人様の転移魔法を使えば良いだけの話ですよね」
「あ、そっか……」
「じゃあここは本当にアルカディアなのですね……」
「さっきからそう言っていますよ。それとも何です? ご主人様の言葉が信用ならないとでも?」
「そ、そういう訳ではないのだが……」
俺のことをバカにされたとでも思ったのか、ミカがきつい口調でノアを責める。
「ミカ。そういう威圧は良くないって。誰だって信じられない光景を目の当たりにしたら確認したくなるものなんだから」
「むぅ。ご主人様が気にしないであればミカはもう言いませんけど」
「気にしてないよ。それに俺自身、この島のことは良く知らないんだ。改めて説明してくれると助かる」
「そうですね。では改めて、この島について説明しますね♪」
そういうと気持ちを切り替えるように咳払いを一つしてミカは説明を始めた。
「この島は絶海の孤島アルカディア。この島は創世神が最初に創った島であり、禁足地として設定されています」
「禁足地っていうのは、誰も入ってはいけないと決められている場所」
「え、俺たち、めちゃくちゃ入ってるけど……良いの?」
「良いんです! ここは創世神がご主人様を管理者として設定していますから。ご主人様と、ご主人様に仕える者たちであれば特に問題ありませんよ♪」
「それに今は主様が管理者になっているから自由に設定の変更ができる」
「俺が?」
「そう。禁足地の設定も解除できる」
「なるほど……? じゃあその設定の仕方を後で教えてくれるか?」
「ん。もちろん」
俺とメイドたちの会話を聞いていたアリスが小首を傾げた。
「……ねえカミト様。カミト様っていったい何者なの?」
「へっ? 俺?」
「うん。だってカミト様、明らかに普通じゃないもん」
「そう言われると、まぁ確かに」
剣の一撃を素手で防御して傷一つないのだから普通じゃなくて異常だ。
「それだけじゃないよ。聖獣フェンリル様を支配したり、失われた古代魔法である転移魔法を使ったり。聖地アルカディアに住んでいたり。その割には世間知らずなところもあるし。どんな人なのか、気になっちゃうの」
「どんな人、と言われてもなぁ」
「後で説明してくれるって言ってくれたよ? 私、カミト様のことをもっと知りたいんだ。教えて欲しいな」
「そうだな。ミカ、良いか?」
「ご主人様のお望みのままに。とはいえです。もう夜です。その娘たちは野営の準備も必要でしょうし、それを終えてからでもよろしいのでは?」
「あ、そっか。じゃあ俺も家を出そう。アリスたちに色々と説明するんだったらその方が良いだろ」
「ええっ!? あのお家をですか!?」
「え、なに、ダメだった?」
「ダ、ダメって訳じゃありませんけど。あのお家はミカたちが初めてご主人様の神精力を頂いた思い出の場所ですし、そこに別のオンナを入れるのはイヤって言うか」
「ミカ、ケチケチしない。主様の望みを邪魔するのはよくない」
「ううっ、分かりましたよぉ……」
「ええっと……やっぱりやめとくか?」
「主様が必要と考えているのなら気にしなくていいよ」
「……分かった」
俺が別の世界から来たことを説明するなら、例のアパートの部屋を見て貰うのが手っ取り早い。
そう考えた俺は『無限収納』からアパートを取り出した。
「ええっ!? これ、もしかしてお家?」
「家が一瞬で出現するなんて。もしかして『無限収納』ですか!?」
「そう。良く分かったな」
「これほど大きな建物を収納できるアイテム袋はこの世界でも国宝級のアイテム袋です。そんな貴重なアイテム袋をあなたが持っているとは思えない。とするなら必然的に『無限収納』というレアスキルを持っていると考えるのは当然です」
「そうなの? 物知りなんだなノアって」
「このぐらい聖騎士であるなら常識です。それにしても……奇妙な家ですね」
「え? そうかぁ?」
四方四角の豆腐ハウスなんて良くあるものだと思うけど、このフォースデン世界では奇妙なものなのかもしれない。
「とにかく中に入って。そこで俺のことについて説明するよ」
アパートの中に招き入れると、アリスたちは興味深そうにキョロキョロと部屋の中を見回していた。
それも当然の反応だろう。
この部屋は俺が日本で生きていたときに住んでいた部屋そのものだ。
部屋の中にはテレビやエアコンなんかのフォースデン世界にはない電化製品が山ほどある。
アリスたちの目には未知の道具らしき何かにしか映らないだろう。
部屋の中を興味深げに見渡していたアリスたちに着席を促し、俺自身も床に腰を下ろした。
俺にならってミカとルーがベッドの上に腰を下ろし、シロが俺の膝の上に乗りかかってくる。
皆が座ったことを確認し、俺は説明のために口を開いた。
「改めて自己紹介、かな。俺は神宮守人。こちらの世界風に言うとカミト・ジングウ。この世界とは別の世界から転移してきた男だ」
「別の世界?」
「ああ。信じられないかもしれないけど、まずは俺の話を聞いて欲しい」
アリスの疑問に頷きを返し、俺自身に起こった出来事を伝えた。
前世のこと。
創世神との邂逅。
フォースデン世界への転移と、ミカとルーの創造。
この世界を何も知らない俺が勉強しようと思い立って旅に出て、そしてアリスと出会ったこと。
時折、ミカとルーに補足してもらいながら俺自身のことをアリスたちに伝えた。
「――っていうのが、俺自身のことかな」
「待って。創世神と会話したと言っていましたが、それは本当なの?」
「むっ。貴女はご主人様の説明を信じないと言うのですか?」
「信じないという訳じゃない。色々と辻褄が合うところもある。だけどあたしはこの世界を創世したと言われる地母神マーヤの信徒だ。いきなり他に創世神が居ると言われても俄には信じられない」
「それなんだけど……ノアちゃん。マーヤ様は創世神じゃないってご自身で仰っていたよ」
「へっ?」
「神託を受けたときにね。『創世教会』の教義が時代を経て変わってしまったんだって。私たちはその間違った教義を信じ込まされていたんだよ」
「え、あの、えっ? アリス、それは本当なの?」
「うん。女神様から直接聞いたから本当のことだよ」
「そ、そんなぁ……」
アリスの話を聞いてノアはがっくりと項垂れた。
それも当然だろう。
今まで信じていた教義が嘘だと信仰の対象である女神自身に否定されたのだ。
「そこまで気にする必要ない。教義なんてものは人間が自分たちに都合良く創り上げた、ただの覚え書き。その覚え書きは世情や権力によって簡単に書き換えられる程度のものでしかない」
「ルーの言う通りです。そもそも貴女は教義を信仰していたのですか? それとも女神とやらを信仰していたのですか? それを考えれば落ち込む必要がないことなど自明でしょう」
「言われてみれば、確かにそうかもしれないわね……」
「そうだよ。私たちは地母神マーヤ様を信仰しているけど、『創世教会』の教義を信仰していた訳じゃないんだから」
「……そうね。でも、はぁ~……今まで教義の勉強に費やした時間は何だったのよ。無駄な時間を費やしちゃったわ……」
「そんなことないよ。マーヤ様の創世は嘘だったかもしれないけど、教義には良いところもたくさんあったんだし。勉強に費やした時間は無駄じゃないよ」
「そもそも勉強とは己の知らないことを知るための手段。そこで得た知識を取捨選択し、実践することこそが大切なのです。学びを軽視するような発言は己の無知をさらけ出すのと同じですから止めておきなさい」
「むぅ……反論したいが、できそうにないわね」
「反省すればいい」
「……そうね」
きつい言葉ではあったが、ミカとルーの言葉に一理を認め、ノアは素直に頭を下げて二人に謝意を伝えた。
「とにかく。この世界を創世した神が居るのは理解したわ。だけど創世神とカミト殿との繋がりが良く分からないわね」
「それなー。実は俺もそうなんだよな」
「どういうこと?」
俺の言葉を受けてアリスが首を傾げた。
「この世界に転移したときに神様は俺にこの世界を呉れた。そのとき、好きに生きれば良いとは言われたんだけど、どうやら何かの思惑があったみたいなんだ」
そう言って俺はミカに視線を移した。
「はい。ご主人様はフォースデン世界へ転移する際、創世神より代行者と任命されているのです」
「これ?」
ミカの言葉を確かめるために『鑑定』を使って自分のステータスを表示する。
「ちょ、ちょっと! 自分のステータス情報を他人に見せるとか、あなた、何を考えているの! すぐに隠して!」
「え、そうなの?」
「他者のステータスを見るのは、この世界ではマナー違反になりますね」
「でも本人が許可しているのならその限りじゃない」
「そうなのか。まぁ良いんじゃない?」
この部屋に居るのは俺たち三人と一頭の他はアリスとノアだけだ。
短い付き合いではあるが、二人が知った情報をペラペラと喋るような人間性じゃないことは理解してる。
「それにほら、アリスももうガン見してるし」
「ちょっ!? アリスぅ!?」
「え、あ、あははっ、ごめん。でも興味があるから……」
悪戯っぽく笑ったアリスがペロッと舌を出しながら謝罪する。
その表情は可憐で、可愛くて、思わず胸が高まってしまう。
(見た目は純真そうなのに、結構したたかな感じがするよな、アリスって)
警戒まではいかないが、もし何かの拍子で迫られたりしたら即コロッと行ってしまいそうだ。
それぐらいアリスの容姿は少女らしい可憐さを感じさせた。
(というか良くみるとこの部屋、美少女率高すぎない? まさか俺のアパートにこんなに女の子がいる日が来るなんて)
日本で住んでいた頃からは考えられない状況だ――なんてことをつらつらと考えていると、アリスが首を傾げながら質問してきた。
「カミト様が異常な力を発揮してるのって、やっぱりこの代行者って
「多分ね」
「多分って。ちょっと異常ですよこの数値は……」
アリスがガン見しているからだろうか、マナー違反を怒っていたノアも俺のステータス情報をガン見しながら呆れたような口調で呟いた。
「異常とは何ですか異常とは。失礼ですよ。ご主人様は紛うこと無く正常です!」
「主様サイッキョ」
「いやいや、この世界のステータスの最高値は100なんだろ? だったらノアの言う通り、俺たち全員普通じゃないのは否定できないって」
「ぬっ? その口ぶりからすると、やはりミカ殿とルー殿もカミト殿と同じようなステータスなのね」
「ふふんっ、当然です♪」
「ルーたちは主様に創られた主様だけのメイド天使。主様以外に負ける訳がない」
「天使? えっ、ミカ様もルー様も天使なの?」
「そうです。ご主人様専属の天使です」
「ミカは光天使。ルーは闇天使。主様が創ってくれた」
「創った……。カミト様、そんなことができるんだ。本当に神様みたい」
「俺がどうのっていうよりも、創世神からもらったスキルを使ったらできたってだけだけだよ」
「……つまり代行者って言うのは創世神の代行者ということ?」
「アリスはなかなか聡いですね。まさしくその通りです」
「有り体に言えば主様はこの世界唯一の神様」
「え、そうなの?」
「……どうしてカミト殿が首を傾げているんですか!」
「い、いや初めて言われたし、実際、実感ないし。ちょっとステータスが変なだけのただの一般人だと思ってた」
「実感も何も。人外レベルのステータスを持ち、人外レベルの強さを持つ天使を従え、魔剣を素手で受け止め、失われたはずの転移魔法を使う一般人なんて、この世に居るはずがないでしょう!」
「そ、そうだよな、それだけ列挙されると改めて自分がおかしい存在だってのが身に染みるなぁ」
「いえ、おかしいという訳ではありませんけど……その……すみません。少し言い方がきつかったです」
「いや良いんだ。実際、ノアの言う通りなんだ。いい加減、俺も自分自身のことをちゃんと把握しておかないと。ミカ、説明してくれるか?」
「かしこまりました」
俺の要請にミカは恭しく頷き、説明のために口を開いた。
「創世神よりこのフォースデン世界を賜ったご主人様には、創世神の代行者としてこの世界を管理して頂きたいのです」
「管理と言っても人の世に
「創世神が一万年以上放置していたこの世界では様々な
「世界が消滅すると創世神の力が弱まったり、色々と不都合なことが起きる」
「なるほど。だから俺に
「その通りなのですが……」
「主様、やりたくない?」
「いや、やるよ。縁あって転移した俺の第二の人生を過ごす場所なんだ。自分が快適に過ごすために手を加えるのは家主の仕事なんだから。だけど……管理ってどうすりゃ良いんだ? 俺一人でできることなのか?」
「いいえ、さすがにそれは無理でしょう。ですからご主人様にはミカやルー以外にも多くの仲間が必要になると思います」
「仲間?」
「ん。その仲間に
「ええ、それってもしかして……?」
神精力を授けるということは、つまりエッチなことをするってことか?
「そのやり方が手っ取り早くはありますね」
「でも主様の側で過ごすだけでも効果はある。具体的に言うとエッチすればレベルが上がり、一緒に過ごすと経験値をゲットできる感じ」
「そうすれば仲間たちの魂の
「そのために必要なのが拠点」
「拠点か。つまり町作りをしろってこと?」
「そういうことです。このアルカディアをご主人様の『理想郷』にしましょう!」
「でもどうやって?」
「そんなの簡単。主様には『神』スキルがある」
「そうだったな」
創世神から貰ったなんでもできる『神』スキル。
このスキルを使って、次はこのアルカディアに街を創ろう。
その後はまた旅をして、仲間となってくれる人たちを探そう。
「やりたいことがたくさん出来たな」
「ん。主様、頑張って」
「ずっとずっとミカたちが全力でサポートしますからね♪」
「ああ! 異世界をもらったから『神』スキルを使ってヤリたいこと全部ヤる! 明日からは町作りだ!」
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