異世界を貰ったので『神』スキルを使ってヤリたいこと全部ヤる
K.バッジョ
第1話 異世界をもらった
【プロローグ】異世界をもらった
生きるのは案外簡単だ。
仕事をし、お金を稼いでメシを食い、睡眠を取って朝になったらまた会社に行き、仕事に従事する。
それでなんとか最低限、生きていくことはできる。
だけどそんな毎日を繰り返す内に気が付くんだ。
『俺って何がしたかったのかな』って。
子供の頃に考えた俺最強の物語。
偉い人になりたいだとか、お金持ちになりたいとか。
飛行機や電車だけじゃなく、アニメに出てくるロボットのパイロットになりたいだとか。
子供の頃には夢がたくさん詰まった宝箱みたいにキラキラした目標がいっぱいの、将来への希望があった。
だけどそこから一歳、また一歳、歳を取る度に宝箱からは光が消えていき、希望が現実的な目標に取って変わっていく。
将来への希望はキラキラと光るものじゃなく、実現可能なA4サイズの
別にそれがイヤなワケじゃない。
それが大人になるということだし、それが生きるということだ。
――そうやって自分を納得させる技術だけは磨かれていくのだから困ったものだ。
生きるとは何かを諦めること。
それが俺にとっての人生だったし、きっと他の人も同じような人生を過ごしているんじゃないかなって。
漠然とそう思っていた。
だけど違ったんだ。
やりたいことを諦める必要もなければ、我慢する必要もない。
そんな世界があったと、俺は知った――。
時間を少し遡る。
時刻は深夜まであと少し、終電の二本前程度の時刻。
「よし。今日はそこそこ早く帰れそうだ」
激務が続いた最終日。
帰宅のために会社の最寄り駅までの道を足早に歩いていると、突然、足下に大穴が現れた。
「えっ……」
いったい何が?
と思う間もなく、穴に落ちて気を失い――気が付けば、視界いっぱいに真っ白な空間が広がる場所に居た。
そこには何も無い。
人も居なければ、モノが置いてあることもない。
真っ白で、だだっ広くて、何も無い空間の真っ只中で茫然としていると、どこからともなく光の玉がやってきた。
その光の玉は目の前で人の形となって俺に話しかけてきた。
「やぁやぁ。
フレンドリーというよりも軽薄な声が頭の中に響く。
声の感じからして少年のようだ。
「……へ? 俺が、消滅? えっ、それって死んだってこと?」
「そうだよ。日本の首都東京の板橋区に住んでいた
「ち、地球を消滅させるっ!? なんだってそんなことを!?」
「なにって、んー……まぁ気分? でも地球を消滅させるつもりが個人を消滅させるボタンを間違えてタップしちゃったんだ。この機能って数千年に一度しか解放されない機能でさ。キミが消滅したお陰で地球を消滅させることができなくなっちゃった。まぁ、キミが世界を救ったようなものかな? どう? カミトクン。地球を救った英雄になれた気分は」
「実感のないことを聞かれても答えようがないですけど。いや、それよりも創世神って言ってたけど、なに? もしかしてアナタが神様ってこと?」
「そうだよー。ボクは創世神『繝ゥ繝上ェ繧ァ』」
「え……? 今、なんて?」
「ボクの名前だよ。『繝ゥ繝上ェ繧ァ』」
「すみません、なんて言っているのか全く聞き取れないです」
頭の中で響いている言葉は日本語なのに、この光の少年?が名乗ったときだけ、ノイズのような音が響いて意味を理解することができない。
「あー、そっか。ボクの名を人の身で知るのは禁足事項に設定されているから、君には伝わらないんだった。うっかりしてたなぁ」
「うっかりって。そのうっかりで俺は消滅させされたってワケですか」
「まぁそうだねー。悪かったと思ってるよ! ほんとーにごめんね。アハッ♪」
自らを創世神と名乗った少年?は、全く悪いと思ってなさそうにあっけらかんとした拍子で謝罪した。
「えーっと……その創世神さんの誤タップで世界から消し去られてしまった俺は、これからどうなるんです?」
「あれ? 怒らないの?」
「現実感が無いというか、怒る気力もないっていうか……」
「あらら。お疲れなんだねー」
「そうですね……」
罰ゲームじみたベリーハードな現実が終わったと考えれば、案外、悪くはないという気分になってくる。
「で、俺はこれからどうなるんです?」
「そうだねー。いつもならそのまま放置しちゃうけど、『
「『存在意義』? 『神坐』? 何のこと?」
「『存在意義』は、まぁカミトクンの世界で言うところの『魂』だね。『神坐』っていうのは
「はぁ……」
創世神の言っていることがあまりよく理解できず、マヌケな声で反応する俺を見て、少年?は話題を変えた。
「とにかく、だ。カミトクンを間違えて地球から消滅させちゃったお詫びの印として三つの道を用意した。これからどうするかはそこから自分で選んでくれるかな?」
「三つ……」
「一つは別人として今まで過ごした現実に戻る道。一度死んでしまったカミトクンを今の世界に戻すなら別人になってもらうほうがボクには好都合だからね」
「神様の都合って……」
「そっちのほうが簡単にできるからねー。もう一つは同じ世界に転生する道。新しい人生を送れるからオススメだけど『存在意義』を設定しなおすことになるから、キミはキミでは無くなっちゃう。リセットして一からスタート、みたいな感じだね」
「それはちょっとイヤですね……」
「うーん、じゃあ最後の一つ。異世界に転移して第二の人生を歩む道。キミという『存在意義』はそのままで、記憶をそのまま持ち越して異世界で過ごせるよ」
「異世界転移……それってもしかして」
「そうそう! カミトクンの世界で多くの人が望んでいる『チート異世界転移』だよ。なろう系だよなろう系。そういうの地球では流行ってるんでしょ?」
「そう、ですね。辛い現世より明るい来世に期待したいって。そう思ってる人は多いと思います。俺もそうだし」
「うんうん。だったらボクは三つ目の道をオススメするかな。キミの魂、ちょっと疲れ過ぎだし」
「そんなにですか? 自分では良く分からないですけど」
「疲れ過ぎだよー。キミのステータスを見ると二十九歳なのに魂の推定年齢七十九歳になってる。ヤバすぎだよ!」
「そうなんですね。ハハッ……まぁ俺みたいな人、日本じゃ多いのかも」
「そんなに過酷なの? 異世界転生の物語が好まれるのも必然なのかもねえ」
「神様の力で何とかならないんですか?」
「ならないし、する気もないよぉ。神は存在するだけだから」
「そういうものですか」
「そういう
創世神と名乗る少年の目の前に一つの惑星の映像が表示された。
「この惑星はフォースデンと名付けた世界。ボクが地球とは別の次元に創った世界なんだけど、ちょーっと手が回らなくてさ。ずっと放置しちゃってるんだよねー。だけどあまり放置しすぎるのもマズイからこの異世界をカミトクンにあげる」
「異世界をあげる? えっ? どういうことです?」
「そのままの意味だよ。カミトクンにこのフォースデン世界をあげるから、そこで好きに生きるといいよ」
「好きに……」
「うん。カミトクンの魂、我慢しすぎ、諦めすぎ、夢なさ過ぎ。疲れ過ぎなんだよ。酷使しすぎて魂がボロボロになっててさすがに見てられない。だから縁をもったボクが君の魂を癒やす手助けをしてあげる。ボク、いつもはこういうことしないんだけど久しぶりに持った縁だしさ。少しは可愛がってあげようかなって」
「でも異世界をもらったって俺には何もできませんよ?」
知識もないし技術もないし目的もない。
「何もする必要ないよ。カミトクンはフォースデン世界で、
「はぁ……」
「とにかく。カミトクンはこのフォースデン世界で好きに生きれば良い。なんだってして良いんだよ? ハーレムを創っても良いし王様になって世界を支配したって構わない。神様として愚民を導いてやってもいい。やりたいと思ったことはなんだってやれば良いさ。どうせ放置してた世界だしどうなったってボクには関係ないからね」
「冷たいんですね、神様なのに」
「神は存在するだけって言ったでしょ? そういうものさ」
肩を竦めてそういうと少年は俺に向かって手を伸ばした。
肌に手が触れる感触と共に胸の奥が何やら熱くなってくる。
「君にフォースデン世界限定の『神』スキルをあげる。いわゆるチートってやつだね。これで新しい人生を楽しんでよ」
「人生を楽しめ、ですか。なんか生まれて初めて言われた言葉な気がします」
「はははっ、まぁ君は今、死んでるんだけどね」
少年?の軽口に思わず笑いが零れ落ちた。
そうだ。確かに今、俺は死んでいるのだった。
「とはいえ、カミトクンはカミトクンのままで異世界に行くことになる。異世界転生じゃなくて異世界転移ってやつだ。それで構わないだろう?」
「分かりました」
「それじゃ転移開始だ。向こうについたらまずは眷属を召喚すると良い。やり方は……まぁカミトクンが慣れ親しんだやり方でできるように世界の設定を弄っておくから向こうについたらやってみてよ」
眷属って何? 世界の設定って?
そう質問しようとしたが、声が出なくなっていて。
やがて意識が遠のいていった――。
//第6話まで公開中です
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