復讐の下準備と悪女な後輩 3ページ目

「──コホン。私が陰キャかどうかは、おいておきまして。可愛い後輩を助けるのも、優しい先輩の役目。だから、お互い協力しましょうか。決して、私に友だちがいないとか、そういう理由じゃないですからねっ」


「あー、まぁ、そういうことに、しておきますねー。朱音先輩とは長い付き合いになりそうです。よろしくお願いしますねー」


 私は神崎さんと結託して、選挙戦へ望むことにした。熱い握手で共闘を誓うも、神崎さんの手は文字通り暖かった。


 いや、普通の人よりもかなり熱く感じる。


 手のひらが熱いと心が冷たいだなんて、ただの迷信だよね。


 だから、神崎さんの視線が悪魔っぽいのも、私の気のせいに決まってるから……。


「こちらこそよろしくね、神崎さん」


「私のことは奈乃って呼んでください、朱音先輩っ」


「う、うん。奈乃さん、ね」


 主導権を握られたら気がしますけど、大丈夫、私にはまだ勝機は残ってる。いくら元陰キャだからって、後輩には負けられないもん。


 私は職員室の重いトビラを開け、奈乃さんと一緒に想いの詰まった立候補用紙を提出した。


 これでもうあとには引けない。すべては拓馬と担任教師へ復讐するため、会長の座につかなければならない。


 ツンデレ貧乳こそが正義。


 ツンデレを制するモノは世界を制す。


 マスターおなつの言葉を信じ、私は大きな一歩を踏み出した。



「思ったより、あっさり受け取ってもらえたよね」


「ただ提出するだけですから。それより、朱音先輩、公約とかちゃんと考えてるんですか? まさか、白紙だなんてオチはないですよね?」


「ギクッ。も、もちろんだよ。公約のひとつやふたつ、私にとっては、朝飯前だからね」


「それじゃ、今考えている公約を言ってみてください」


「え、えっと……。あ、明るい学園生活とか……?」


「朱音先輩……。それって、この学園の教育理念ですよ?」


 何も考えてなかったなんて、奈乃さんに言えるわけもなく。


 私が不意に口にしたのは、学園の教育理念。


 ジト目で奈乃さんが見つめるも、すぐに満面の笑みに変わっていた。


「こ、これは奈乃さんを試しただけ、なんですからねっ」


「私にツンデレされても、意味がありませんよ。やはり、元陰キャには荷が重いようですね。でも、安心してくださいね? 私が一緒に考えてあげますから」


「ま、待って、元陰キャとか言わないでーーーーーーっ」


 私の心の声はスルーされ、奈乃さんに図書室へと連れていかれる。その力は思ったより強く、私は流れに身を任せるしかなかった。


「ここなら静かなので、じっくり公約を考えられますよ」


「うぅ、私ってこういうの苦手なんですよ」


「大丈夫、大丈夫ですよ、朱音先輩。私の言う通りに動けば、何も心配ありません。そうすれば、私が影の支配者になれますので」


「ねー、今影の支配者って言ったよね? まさか、私を操り人形にでもしようとしてるんじゃないでしょうね?」


「……気のせいですよ、朱音先輩」


 あからさまに視線を逸らしましたわよ。

 見た目は可愛いのに、この子の心は真っ黒だよ。


 気をつけないと、利用するだけ利用して、あっさり可燃ゴミのように捨てられちゃうよ。


 これは試練、そう、神が与えし試練なのよ。ツンデレマスターになったなら、色んな属性をその手中に収めなさいってことなのね。


 いいわよ、やってやるわ。これぐらいできないと、復讐だなんて成し遂げられないもの。


 鬼よ、心を鬼にするのよ、朱音。あの修行で挫けぬ心を学んだじゃない。このままだとクイーン・オブ・ツンデレの名が泣いてしまうからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る