橙色の結末


 その夜も、満月だった。

 淡く光る月が、雲の隙間から顔をのぞかせていた。

 分厚い雲だが、この間の夜ほどではなかった。

 それでも、湿度が高いらしく。

 雨が降り出しそうな気配だった。

 私はスラムの指定場所へときていた。

 マスターは、後から来るといっていた。

 どちらにせよ、始末するのは私だろうけれど。

 彼がやりたいのなら、別に気にはしないけれど。

 止める理由など――ない。

 そのまま警戒しつつ、しばらく待つ。


 そういえば。

 シアが、なぜかまた明日といっていた。

 それはいつものことだろうに。

 何故、わざわざ約束など言ったのだろうか。

 用事があって、明日はこれないからとか?

 それならば、する意味などない。

 でも、してしまったからには守りたいとは思う。

 こんなことを考えているのは、変なのだろうか。

 主との約束も、叶えられてはいないのに。

 明日も、掃除くらいしかすることがないだろう。

 もしかしたら、夜の仕事も始まるかもしれない。

 いずれにせよ今夜の仕事が大事だ。


 そのまま、ひたすら待っていると。

 背後から、靴音が聞こえて。

 それは聞いたことのある音で。

 私はゆっくりと振り返った。

 数メートル先にいたのは――

「……シ、ア?」

「あれっぇ、ルナちゃんどうしたんですか? こんばんわ」

「あ、こんばんわ」

「危ないですよ? 夜のスラムって。

 早く帰ったほうがいいと思いますよ~?」

 いつもと変わらず微笑む、シアがいた。

 服装も、別れたときと同じまま。

 両手は後ろで組んだまま。

 見えない指には、リングがはめられているのだろう。

 どうして、彼女がここにいるのだろうか。

 スラムに宿泊施設はないのに。

「あなたは、何をしているんですか?」

「あたしですか? ただのお仕事中ですよ」

 それよりも、と彼女は続けた。

「ここに、ルナちゃん以外に誰か来ませんでした?

 たぶん、あたしの探し人なんですけど」

 私が来たときには誰もいなかったはずだ。

 こんな夜中に人探し。いささか物騒な気も。

 答えをかえさないのにも、気を悪くした感じはなく。

「ルナちゃんこそ、なんでいるんですか?」

 少しだけ。うらめしそうな声の響きだった。

「まだ、日付は変わっていないのに」

 今日じゃなくて明日だったら。何かが変わる?

 なんで? それは仕事だから。

 そう答えようとしたとき。

 別の足音が暗闇から聞こえて。

「ああ、おそろいですね、二人とも」

 マスターが到着したようで。

 いつものように、黒の仕事着だった。

 腰にはホルスター。

 きっと整備したての銃が入っているんだろう。

 こちらへと近づいてきた彼を見て。

 シアが小さく呟いた。

「見つけちゃった」

 私は彼女のほうへ振り向いてから、彼のほうへと。


「マスター、彼女は何故ここに?」

「……私言いましたよね? 今日はお仕事ですよ」

 それは、さきほど聞いた。

「何故、シアがここに?」

 ただの偶然ならばいい。

 だが。私も人探しをしていて、彼女も人探しをしている。

 なによりも、さきほどの一言は――

「気づいているんでしょう? 貴女は聡明ですからね」

 どこが。私は頭の堅い機械人形。

 ただ、この場にいる以上。彼の態度をみる以上。

 シアがネズミということなのだろう。

 彼女を見ると、見事なまでに無表情で。

 そんなシアを見ながら。マスターは楽しそうに。

 *s4-2|明日だったら

「私からの依頼ですよ、ルナさん。

 仇なす物を壊してくださいな」

 いつもだったならば、すぐに……イエスと答えていた。

 ただ、今ばかりは。

 すぐに答えを出せずに迷っていると。

「見つけました。見つけちゃいました。いなければよかったのに」

 その声音は今までに聞いたことのないもの。

 人ならば、血を吐くようなとでもいうのだろうか。

「ルナちゃんがいなければよかったのに。

 アル様だけならよかったのに。

 何も知らずに、また明日、会えたのに」

 明日会えたとしても。

 何も知らない……知らないことばかりが多いのは、もう嫌だ。

「どうせ、あいつの差し金でしょうけれど。

 命令に従っただけでも……ね?」

 そういって彼はにっこりと微笑んだ。また、嫌な微笑みだ。


「あなたは、最初からそのつもりで?」

「あたし言いましたよね、前に。覚えてますよね」

「忘れないと、約束しました」

 はたしてそれは、約束と呼べるものだったのかどうか。

「私は、知らないというのは嫌です」

 じゃあ。それじゃあ。

 彼女はそういって、表情だけで笑った。

「ねぇルナちゃん。何かできるんですか?

 あたしを、その手で壊すこと以外に。

 教えてくださいよ。頭の堅いお人形さん」

 彼女の言うとおりではある。

 私に……私に何ができる? いや、何がしたいか。

 仕事は、こなすべきだとは思う。

「あたしだって頭は堅いですよ、機械人形ですもん」

 でも、しあわせになりたいんです、なれるものなら。

 彼女はそういった。

 私は、それでも彼女を壊したくはない。

「ほらどうするんですか。アル様、殺しちゃいますよ」

「それはさせません」

 後ろだった手が、見えた。両刃のナイフが握られている。

 うまく使えば、人は殺せる。

「なら? ルナちゃんは人数には入っていないんですから」

 おとなしくしててくださいよ、とシアはいう。

 待ちきれないかのように、マスターがいう。

「どうしたんですか。早く、始末してください」

「……マスター……」

 こちらを見る彼の瞳。凍て付いた湖のよう。冷たい。

 私は、動けない。だけど、このままではよくない。

 最悪の結末が待っているような気がして。

 何か。何か方法はないものか。

 マスターも死なず、彼女も壊れない。

 私はどうなってもいい。でも。

 できれば明日をまた迎えたい。

 都合の良すぎる結末。

 でも私は今それを望んでいるから。

 ぎしぎしと軋む歯車を辿りたどり。

 記憶を、思い出してみる。

『ほかの人に使われたこともありますから』

 まぁ、子鼠ですから――


「マスター、頼みたいことがあります」

「なんですかいきなり。やる気になりましたか?」

 別のことは、と答えて彼を見据える。

 冷たい凍った青色の瞳。そらさずに告げる。

「私に、命令をください」

 そういうと、彼の目が少し見開かれた。

 何故? と無音の言葉が響く。

「私に、親鼠を殺せと」

 尻尾を切っても意味がない。元から絶たねば。

「それでは、彼女が抵抗するでしょう?」

「あ……」

 その可能性を忘れていた。本末転倒。

 少し離れた場所で、シアはただ見ている。

 ナイフをもった指には、あの四つ葉。

 私と、おそろいの。

「なら、彼女にでも。人の命令なら、逆らえない」

「それでは、彼女は止まりますが」

 ……私はやはり頭が堅いのだろうか。馬鹿なのだろうか。

 目先のことばかりで。その先まで考えられていない。

 行き場がなく、視線をさまよわせていると。

 不意に、笑う気配がして。


 *

「貴女は、変わりましたね。でも悪くはない」

 彼を見ると、なぜか薄く微笑んでいた。

 嫌なものではない、不思議な穏やかさ。

 さっきまでとは、ぜんぜん違う。

「足りない考えは、まぁ仕方ないとしましょう」

 そういうとマスターは、シアへと向き直って。

「で、貴女はどうしますか、シアさん」

「いや、あたしの方こそ、どうするんですかって感じです」

 話している間。いつでも殺そうとすればできたはずだ。

 何かを、待っていたのか。

「命令はしませんけれど。依頼ならば、受け付けますよ」

「あいつを殺してくださいって?」

 ええ、と彼は微笑した。こちらは少し黒さを含んでいる。

 だが。提案した私がいうのもなんだが。

 その人は、今の彼女の主なわけで。

「シアはいいのですか? それで」

「あたしは命令を守ってるだけです、作られたから」

 それ以外に。

「あいつに興味はないです、でも自分じゃ殺せない」

 もしかして、彼女がむかつくといっていたのは。

 彼女は手を再び後ろで組んで、くるりと回る。

 夜なのに、リングが光ってみえた、錯覚。

「じゃあ、あたしから依頼してもいいですね。

 あいつを殺してください」

 確かに承りました。

 彼は、夜闇の中でそう囁いた。

 ――代価は?

「あのマスター。代価は?」

「あまりぶんどれるものはなさそうですが」

「うわ、ひっどいですアル様」

 それでは……と彼は少し考えてから。

「貴女のつけているリング。

 いつかそれをもらいましょう」

「いつか? 今じゃなくていいんですか」

「もちろん。後は、ルナさんをしあわせにしてあげてください」

 ずいぶんと、アバウトなのだけれど。

 そもそも、私自身の幸福が何かわからないというのに。

 だが、その言葉をきいた彼女は――満足そうに微笑んで。

「それくらい、お安い御用ですっ」

「シアさん、明日メンテナンスしましょうね」

 シアは首をかしげている。

 その後に、ルナさん、と彼に呼ばれた。

「始末するのは、私がやりますから。

 貴女は戻ってていいですよ」

「これから、ですか?」

「ええ。即刻。もう、閉幕の時間ですから」

 これも、一つの結末です。

 彼はそう呟いて、夜を見上げた。

 つられて、私とシアも空を見上げる。

 雲はいつのまにか晴れていて。

 満点の星空と、満月が輝いていた――


 トゥルー


 アリシア=エルス 幸福を探して


「おはようございます、ルナちゃん!」


 翌日。彼女はいつものようにやって来た。

 待ち構えていたマスターがメンテナンスを。

 どうにも彼女は機嫌がいいらしい。

 また、音の外れた歌を歌っている。

 私はというと、掃除をしながらそれを眺めていた。

 こうしていると、普通で平凡だ。

 昨夜、まるで何もなかったかのよう。

 私は覚えているけれど。

「ありがとうございました、アル様」

 メンテナンスが終わると、シアは二回そういった。

「なぜ、二回いうのでしょうか?」

「え? お仕事分ですよ」

 私が問うと、そう彼女は答えた。

 仕事に対しての、お礼もかねているらしい。

「お構いなく。私としても、さっぱりしましたし」

 そういって工具をしまいつつ、微笑むマスター。

 彼も、心なしか普段よりも、明るいような。

「シアさん、貴女はどうするんです、これから?」

 くるりと回って、彼女は答える。

「旅に出ようかと思ってるんです。自由になりましたし」

「それはいいことですね。それなら……」

 マスターが、なぜか私を見ている。

 これは、もしかしなくとも……

「ルナさん、貴女もご一緒したらどうです?」

 ほら、代価でもあるんですし。

 そういって彼は笑った。爽やかな、彼に似合う笑み。

「それは! とっても素敵ですね!

 ねぇ、そうしましょうよ? というか連れてきますよ」

 今度は、彼女は飛び跳ねている。

 よっぽど二人旅がうれしかったらしい。

「知らないものは、たくさんあります。だから、見に行くんです」

「マスター、仕事はどうしましょうか。私はどうすれば」

「こっちは平気です。したいようにするといいでしょう」

 彼のその言葉をきいて、シアがガッツポーズをしている。

 なんというか、子供みたいだと思う。

「悪くは、ないと思います」

 私がそう告げると。

「ならなら、思い立ったが吉日っていいますしね? いきましょ」

 そういって連れ出されそうになるのを。

 支度があるから、と部屋へと逃げる。

 得物と、ひとつだけぬいぐるみを袋に詰める。

 チェーンはもう首にかかっている。

 階段をすばやく降りて、戻った。

 ふと見ると、シアがもう外に出ていた。

 身軽でいいというか。行動的というか。

 苦笑いのようなものを覚えつつ、外にいこうとして。

「あぁ。ルナさん、これを」

「これは?」

 呼び止めた彼から渡されたのは、小さな袋。

 金属でも入っているのか、じゃらりと音がした。

「貴女達は、ものは食べないですけど。

 メンテナンスは必要でしょう?」

「……ありがとうございます」

「さ、外にでるんでしょう? 彼女が首を長くして待ってますよ」


「さあさあ。明日に向かってレッツゴーです!」

 外にでるなり、シアにひきずられた。

 引っ張られつつも、半分だけ振り返って。

 事務所の戸口にたつ彼へと。

「行ってきます」

「たまには、お土産話でもくださいね」

「いってきま~す!」

 片手を引っ張っていた彼女が、走り出した。

 私は前につんのめりそうになり、慌てた。

 背後では、きっと彼が微笑んでいるのだろう。

 この世界には知らないことがたくさんあるだろう。

 哀しいこと、嬉しいこと、色々なもの。

 私の狭いものさしでは、見逃してしまうものでも。

 彼女と一緒なら。何か見つけられるかもしれない。

 これは。

 私が始めて自分で望んだことだ。

 明日も、明後日もその先も……

 きっと、なるようにしかならないのだろう。

 彼女に流されてみるのも、悪くはない。

 そうすればいつかは――

 しあわせが、見つかるだろうから。


 ◇


 橙 BAD


 動けなかった私が、頭の中で選択したもの。

「ごめんなさい」

 私は得物を抜いてマスターの前に立つ。

 命令なのだから。彼の敵なのだから。

 それがたとえ私の敵ではなくとも。

 私には、それ以外に考えられない。

 そんな私を、彼女はまっすぐにみた。

「ルナは、選んだんですね。仕方がない、か」

 それが、あなたの理由なら。

 彼女は呟いた。

「それでは、ちょっと手伝ってあげましょう」

 マスターがそういったすぐ後。

 四発の銃声が、夜に響き渡った。

 私の目の前で、彼女は崩れ落ちた。

 四肢は打ち抜かれているが、壊れてはいない。

「さ、後はどうぞルナさん?」

 私は彼の言葉に背中を押されるようにして。

 彼女の前へと立つ。

 彼女のリングを見ると。二つ葉になっていた。

 むりやり外装をはがすと、剥き出しなのは歯車。

 きれいな、橙色をしていた。

 何かできるだろうに。彼女は抵抗をしなかった。

 ただ、私のことを見ていた。

 少し固まっていると、後ろで装填する音がして。

「あぁ。これを使ってくださいな」

 マスターから、銃を手渡された。

 中身は、特別製のものだろう、確実な。

「あの、シア」

「よかったですね。アル様を裏切らなくて」

 そういって彼女はうつろに微笑んだ。

 今の私に何がいえるだろうか。壊そうとしている私。

 このヒトガタの手で、救えはしないのだ。

 この機械の頭は、命令を遂行するだけで。

 この偽者の形は、痛みを感じはしない。

 重さなど、意味をなさないのに。

 構えた銃がひどく重く感じられて。


 引き金に掛けた指が、なぜか固まる。

「最後に、何かありますか?」

 そういうのが精一杯。

「あたしのことは、もういいました」

 しあわせでした、って。

 そういって、彼女は笑った。

 散りゆく花のように。

「あとですね。日付、たぶんもう変わりました」

 私の中の時間は、とうに麻痺している。

「ですから、明日……会えましたね?」

「それは――」

「約束を守ってくれて、ありがとうございます」

 その言葉をきいた刹那。

 私は反射的に、引き金を引いていた。

 嫌な音が響いて。綺麗なくらいに、砕け散った。

 そして私は。

 照準を、彼女の……微笑んだままの顔に合わせて。

 再び引き金を引いた。

 ひびがはいって、壊れるまでの残像。

 二発目の銃声は、長くながく、尾を引いた。


 しばらく、そのまま立ち尽くしていると。

 雨が、降ってきた。叩きつけるように。

 まるでこの人形の身を責めるかのように。

「ご苦労様です。では、戻りましょうか?」

 そういって歩いていく彼の背を見て。 自然と、片手が持ち上がって――


 最後の選択


 幕を下ろす


 細身の背に、狙いを定めて。

 何かに気づいたのか。

 彼がはじかれたかのように振り向いて。

 その頃には、狙いは冷たい胸に。

 呆然とした彼の表情が見えた。

「機械人形は、とても……虚しいですね」

 そうして、今度は軽くなった引き金を――引いて。

 三発目の銃声が、恐らく響いたのだろう。

 それを私が聞くことは、ない。


 ◇


 馬鹿な真似はやめる


 しかしそれもすぐに下がった。

 無言で、私はついていく。

 仕えているマスターの後を。

 雨は激しく降り続く。

 ノイズのような雨音。軋む歯車の音。

 ざわめいているのは、気のせいではない。

 けれど、私はどうしようもなかったのだ。

 術を、選べなかった。

 もしくは、選択を間違えた。

 でも――

 教えてくれる人は誰もいない。

 価値を説いてくれる人も。

 私はきっと日常へと戻っていく。

 ただ、仕事をこなしていくだけの。

 それでも決して忘れることはないだろう。

 許されることもないのだろう。

 いつまでも、苛まれるのだろう。

 私が、私でなくなったとしても。

 この感情や記憶は、残るだろう。

 銃声も、微笑みも、砕け散った歯車も。

 この、ヒトガタの罪の記憶は――

 愚かな道化師の過ち。


 ◇

 激しい雨が降り注ぐ、夜のスラム街。

 その路地裏に、アルフォンスはいた。

 汚れた壁を背にルクロディと対峙して。

 向かいの壁を背にしているのは眼帯の男。

 賭けの結果はでた。ならば、結末もなくてはいけない。

 このゲームにも、終わりを。

「賭けは、私の勝ちでしたね」

「そうみたいだな」

「裏切られたのは、あなたです」

「お前も、同じだろう?」

 そういう男の顔は、歪んだ笑みで彩られていた。

 なんのことかと、彼は笑う。

「まさか。あれは彼女の提案ですよ」

「同じようなものだろうが」

 往生際の悪い男は、認めたくはないらしい。

「とにかく、勝ちは勝ち。あなたは負けたのです」

 それはわかってるさ、と男は呟く。

「あれは、私に対しての裏切りにはなりえませんよ」

 その約束をしたのは、僕なのだからと。

 銀髪の彼はいう。歌うように。嘲るように。


「さて、何か言い残すことは?」

 そういうと、彼はルイに向けて狙いを定めた。

「普通のより、ちょっと痛いかもしれませんが。

 旅路にでるのは変わりませんから」

 顔に浮かぶ笑みは、絶対零度。

「特にはない……が、そうだな」

 ルイは少し考えこんでから、答える。

「お前の望む結末だったか?」

 そんな問いに、彼はすぐに返した。

「彼女にとっては」

「答えになっていないな」

「そんなもの、望んでいないでしょう?」

 乾いた笑いをこぼして。眼帯の男は呟く。

 それも、そうか……と。

「では、自分で幕を引かせてくれ、とでもいっておくか」

 彼にしては珍しく、すぐに拳銃を差し出して。

 男が手に取ろうとした瞬間。

 美しい指が、それをさらっていった。

「お断りです。あなた、嘘吐きですから」

 最後までひどいな、と男はぼやく。

「これも、俺の結末か」

「さぁ? あなたがいなくなるのは確かです」

「なに。最後は誰もがいなくなる」

「それは当たり前でしょうに」

 かすかに、安全装置を外す音が鳴って。

「それではさようなら――」


 雨夜に、銃声が響いた。

 Fin

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