ゲームを求めて三千里(嘘じゃ、近所じゃて)

施設から出た儂が、辺りをキョロキョロと見回しちょるとじゃな。


「山本さん?

 どうかなされました?」っと、さなえさんがの。


「いやの、この近辺にゲーム屋がないかっと、思うてな」

そう儂が告げるとな。


「ゲームセンターは、駅前まで行かないと見当たらないですわ」っと、そのようなことをな。


「いやいや、ゲームセンターではなくてじゃな、ゲーム機やゲームソフトを売っちょる店じゃて。

 先ほど、テレビでVRゲームの話題が出ておってな、五感に失陥があっても楽しめるのじゃと。


 年老いた儂でも、VR空間では不自由なしに楽しめるのではと思うてな」

そう告げると、さなえさんも理解してくれたようでな。


「なるほど…確かに散歩以外は部屋に居られる山本さんには、良い気晴らしになりそうですわね。

 ただ…体が弱りますから、散歩は続けていただかないと」っと、心配そうにの。


まぁ、動かねば寝たきりになりそうじゃて、散歩は欠かせんじゃろて。


「この近辺となると…テタラですかねぇ。

 本やレンタルソフト以外にも、ゲーム関係をあつかっていたはずですわ」っと、そのようなことをのぅ。


たしかに歩いて行ける範囲ではあるのじゃが、儂の足では一時間近くは掛かろうか…


んっ?ゆっくり歩いて10分掛からん?

老人の歩みを舐めるでないわっ!

若僧のような軽い足取りなんぞ皆無じゃでな、これでも同年代では速く歩けるんじゃっ!

ってもの、寝たきりが大半じゃでな、歩ける同年代ではっうことじゃが…


まぁ、そんなことをうておってもテタラには辿り着けんわけで…


「頑張って歩くかのぅ」

「はい、頑張ってください」


っうわけでじゃ、テタラまで歩いた訳じゃが…さなえさん?や?途中で儂を抱えて歩くのは、どうかと思うのじゃが…


んっ?ペース的に帰りが夕飯に間に合わないっとな?

なれば、仕方ないのぅ…


っというわけでじゃ、30分ほど歩いたところでの、さなえさんに抱えられてテタラへとの。

流石はアンドロイドだけあって、実にパワフルじゃて。


とはいえ、絵面は最悪じゃ。

ナイスバディな美人さんがの、ヨボヨボの爺さん抱えて高速で歩いておるでな。


歩行補助機にて体を支えておるでな、体には負担はないぞえ。

実に楽チンじゃ。


まぁ…歩行補助機が邪魔で、さなえさんと密着は…ごほんゴホンげほん!はて、なんじゃろかい?


そんな儂らと擦れ違った何人かがの、2度見して転け掛けておったわい。


そんな感じでテタラへ辿り着いたわけじゃが…店内からの視線がの。

照れますのぅ。


店員が気付いてな、こちらへとの。

「あら山本さん。

 また、さなえさんに抱えられて来られたのですね」っと、微笑んで言ってくるのじゃ。


「帰りを考え行動するように、指示されましたので」

そう、さなえさんが応えとるわい。


老人介護施設の統括サーバからの指示じゃろうか?

施設内機器およびAIアンドロイドを統括管理しておるでな、スケジュール合わせにて指示でもしたんじゃろうな。


「それで、どのような本を、お探しでしょう?

 最近は、補視器の調子が良くないっという話でしたが…ご新調なされましたので?」


ふむ、ここ数年ほどは補視器の調子が芳しくなくなっておったでのぅ、テタラへの足が遠退いておったのじゃ。

ゆえに、久々の来店ちゅうわけじゃな。


「いや、補視器は高いでな、流石に新調は厳しいわい。

 この歳になると、目の調子も安定せんでなぁ…」

「さようですか…

 では、本のご購入では?」

「違うの。

 実はの、VRゲームちゅうのを試してみとうてな」

「山本さんがですか?」


そがぁに唖然とせんでものぅ。

店内の人々も驚いておるようじゃが…変じゃったかいのぅ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る