第5話 スケルトンナイト
「ああ……油断した!!」
『わっ、びっくりした』
唐突に大声を上げるカインを前にしたブランディアが驚く。
彼らが今いるのはスタート地点とも言えるブランディアの銅像の前。注意していたにもかかわらずカインは再び回帰してしまった。
『……どうやら回帰してきたようね。何があったのか教えてくれるかしら?』
これまでと同じように死亡前に何があったのか語るカイン。
スケルトンの群れを倒しながら洞窟を奥へ進んでいたが、突然現れた長剣を手にして鎧を纏ったスケルトン――骨人騎士スケルトンナイトによって気付いた時には斬られており、回帰することとなった。
短剣と長剣。武器の長さから、カインの攻撃が届くよりも先にスケルトンナイトの攻撃が届いてしまった。
「だけど、どういう攻撃をするのかは見えた」
スケルトンナイトの攻撃方法は覚えた。カインの存在を認識してから動き出したため、対峙した瞬間からを考慮するだけでいい。
『どうやら随分と頑張っているみたいね』
「ええ。もうすぐこんな場所から抜け出してみせますよ」
ブランディアはカインがやり直している間の記憶を保有していない。彼女は記録セーブされた時点までの記憶しか保有しておらず、現時点では何も情報がない状態から回帰したカインの言動から察することしかできない。
これまでのブランディアはそのようにしていた。しかし、今の判断基準は他にも存在している。
『先に自分のステータスを確認してみなさい。どうやら、この状態で回帰してくるのは初めてみたいね』
「ステータス?」
大量のスケルトンを倒している間に詳しい数値まで確認していなかったものの、自分の力が上昇したのは感じていた。
間違いなくレベルが上がっている。
「あ、れ……?」
しかし、言われて確認したステータスはカインの想像とは異なっていた。
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【名 前】カイン
【年 齢】15
【レベル】1
【職 業】なし
【体 力】1
【筋 力】1
【速 度】1
【知 力】1
【スキル】月の女神の加護
保有ポイント:60
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ステータスの数値は見覚えのあるものだった。なにせ、これまでの人生において何度も見ており、決して変わることのなかった数値だからだ。
加護を考慮してステータスの変化について考えてみる。
ロードすると、ステータスもセーブした時点の状態に戻る。どんな致命傷を受けていたとしても肉体の状態が元に戻っているのだから、ステータスも元に戻っている可能性があると考慮しておくべきだった。
ただし、完全に元通りというわけではない。これまでに自分のステータスだけでなく、他者のステータスで話に聞いたこともない項目が自身のステータスに増えていることに気付いた。
「この保有ポイントというのは何ですか?」
数値だけを見ればカインにもなんとなく予想できた。
『何があったのか私は知らないけど、貴方は努力してレベルとステータスを上げたわ。肉体の状態がリセットされたとしても、貴方の経験は魂にしっかりと蓄積されているわ』
保有ポイントの数値は、ステータスが元の数値まで戻ったことで減少した数値と一致している。
セーブされた時点の状態まで戻るが、経験まで最初から積み直す必要はない。
『どんな力を求めるのも、それは貴方の自由よ』
ステータスの項目に触れると数値を増やせるようになっており、代わりに保有ポイントが減少した。試しにステータスの数値を減らして保有ポイントを増やしてみようと試みるものの、ステータスを減らすことはできなかった。
どのようなステータスを求めるのか。
回帰した後ではやり直すことはできないらしい。
『どうするのかしら?』
まずは喫緊の問題を解決する必要がある。
その後の問題は、後から考えればいい。
「あのスケルトンナイトを倒すことを優先させます」
自身の状態について、もう一つ確認することがある。
「やっぱり短剣はないんですね」
『さすがに武器まで継承されないわ。そこは自力で解決してもらうしかないわ』
「もちろんです」
方法は既に把握している。
☆ ☆ ☆
もう慣れていると言っていい作業を行い、宝箱から武器を入手する。
ステータスもスケルトンナイト向けに調整済みだ。
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【名 前】カイン
【年 齢】15
【レベル】4
【職 業】なし
【体 力】15
【筋 力】20
【速 度】25
【知 力】4
【スキル】月の女神の加護
保有ポイント:0
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【知力】を抑えて【速度】に割り振る。
スケルトンのいる通路を駆け抜ける。カインの存在に気付いたスケルトンが一斉に襲い掛かって来るが、全てのスケルトンをすれ違いながら斬り捨てる。スケルトンを倒す為に必要な攻撃力は短剣が自動で補ってくれており、カインに求められているのは攻撃を受けないよう注意しながら短剣を当てること。
半端な自我しか与えられていないスケルトンたちは動き出した直後に倒された。
そうして進み続ければスケルトンナイトが数分ほどで辿り着き、前回と同じ待ち構えているのが見えた。到達するまでに何体ものスケルトンが倒され、その時の音でカインの接近に気付いたスケルトンナイトは余裕を持って剣を構える。
走りながら風を切るのを感じながら、スケルトンナイトを視界に捉えて短剣を構える。
自分を殺した相手と戦闘を行うのはミミックを含めて2体目。
だが、1体目と違いカインの心は落ち着いていた。レベルが上がったことで自分に自信がつき、倒せるだけの力がある武器が手にある。それが恐怖を抑えることになった。
チャンスは一度だけ。
長剣が届く距離まで迫るタイミングに合わせてスケルトンナイトが勢いよく剣を振り下ろす。
「見えた!」
【速度】にステータスを多く割り振ったことで、今のカインは意識を集中させることで相手の動きをゆっくりと捉えられるようになっていた。
動体視力の向上も【速度】の強化によって得られるものだ。
さらに自身を攻撃しようとする動きは、危機感もあって普段以上の感覚で捉えることができる。
振り下ろされる刃の先端に短剣を当て、滑らせるようにして受け流す。
雑用として他の冒険者に同行している時、ある冒険者が同じように剣を手にした相手の攻撃を受け流している姿を見た時から憧れていた動きだった。実際に練習などしたことのないカインだったが、これまでに遭遇したスケルトンで簡単な練習だけは行っていた。
――ああ、同じだ。
同じ時間を繰り返す内に気付いた。繰り返している自分が干渉しなければ、全ての事象は同じ行動を繰り返す、ということに。
前回以上の速度で駆け抜けたせいでスケルトンは異なる行動をしていた。
しかし、この道のボスとして君臨しているスケルトンナイトは位置を変えず、こうして対峙している戦闘においてカインは特別な行動をまだ起こしていない。スケルトンナイトは以前と同じように走るカインへタイミングを合わせて剣を振り下ろしただけ。
カインの予想は的中しており、前回と同じタイミングと軌道で振り下ろされた。
戦闘経験の乏しいカインだったが、一度は見たことのある軌道で振り下ろされた剣に当てるのは難しくなかった。
スケルトンナイトが真っ直ぐ振り下ろした長剣が地面に当たる。
「よし!」
カインはスケルトンナイトの後ろへ回り込み、背中に短剣を押し当てる。
「な、っ……」
しかし、短剣が当たっただけで短剣がスケルトンナイトの纏う簡素な鎧を貫くには至らず、短剣が弾かれてしまった。
弾かれたせいで風がスケルトンナイトの方へ向かわない。
「だったら……!」
短剣を鎧に押し当てて風を発生させる。
風邪の刃は鎧を斬るには至らなかったが、それでも発生した衝撃波によって大きく吹き飛ばされ、向こうにあった岩壁へ叩きつけられる。
土埃の舞う中、スケルトンナイトがゆっくり立ち上がる。鎧から露出している骨の至る所にひびが入り、何本か落ちてしまっているものの問題なく動けていた。
ダメージはあるが致命傷には至っていない。
「失敗か」
自分の体を見下ろしながらカインが呟く。
胸には深々とスケルトンナイトが手にしていた長剣が突き刺さっていた。カインが短剣から衝撃波を発生させた時には遅く、スケルトンナイトは背を向けながら剣を後ろへ突き出していた。
何も知らないまま衝撃波を発生させたことで、カインの胸からは夥しい量の血が流れていた。
口からも血を吐き出しながら膝をつく。
「今回は俺の負けだ。だけど、すぐにもう一度チャレンジさせてもらうぞ」
すぐに意識と命を完全に失う。
☆ ☆ ☆
暗い洞窟の中を失踪しながら遠くにいるスケルトンナイトを見る。
三度目の挑戦。今のレベルではスケルトンナイトの攻撃を見切る為に必要となる【速度】を要求すれば、スケルトンナイトの鎧を貫くほどの【筋力】を得ることができなくなる。短剣では、どうしても攻撃力に欠けてしまう。
だが、それでも問題ないと分かっていた。
前回と同様にスケルトンナイトの振り下ろした長剣を受け流し、背後へと回り込むと衝撃波を発生させて壁へ叩きつける。
「よし」
最初から鎧を斬れないことは分かっていた。そのおかげもあって淀みなく短剣を押し当てることに成功する。
斬ることに失敗する時間の省略。
時間にすれば数秒にも満たない猶予だが、その程度の時間であっても戦闘においては大きな影響を与えることになる。
スケルトンナイトが傷を負いながらも立ち上がる。
一方、カインに傷はなかった。今回もスケルトンナイトは後ろへ回り込んだカインを突き刺すため、剣を後ろへ突き出そうとしたが、スケルトンナイトの長剣が届くよりも先にカインの衝撃波がスケルトンナイトを襲った。
ただし、吹き飛ばして壁に叩き付けても致命傷に至っていないのは前回と同じ。
「うおおぉぉぉぉぉりゃ!」
スケルトンナイトが立ち上がったところへ落ちていた石を持ち上げて骨が露わになっている頭部へ投げ付ける。
石と言っても拳よりも大きなサイズの石。前回、意識を完全に失う直前に顔を下へ向けた時に大きな石がいくつも転がっているのが見え、攻撃に利用することを思いついた。
骨に攻撃するなら打撃の方が有効だ。
石が当たったことで頭蓋骨が砕け、首の骨が折れて頭部が地面を転がる。
そんな状態になってもスケルトンナイトは戦おうと長剣を構える。だが、頭部が転がっているせいで構えた長剣の先がカインとはズレた場所へ向けられていた。眼球があるわけではないが、スケルトンも頭部で見て目の前の光景を把握していた。
そんな状態であるため隙が生まれた。
カインが後ろから抱き着くように腕を回して、スケルトンナイトの首の上から短剣を突き刺す。頭部が取れたことで鎧の中へ短剣を簡単に突き刺せるようになり、短剣から発生した風が鎧の内側から骨の体をズタズタに斬り裂く。
今度こそ無傷でスケルトンナイトを倒すことに成功した。
「レベルが上がったか」
レベルが上がった、ということは魔物を倒した証拠である。
カインの経験値となれる魔物は、目の前で倒れているスケルトンナイトぐらいしかいない。
「今度は【速度】が大きく上がっていますね」
変化したステータスを確認すると【速度】が大きく変化しているのに気付いた。
『かなり敏捷性に頼った戦い方を続けてきたから、そういった偏った上がり方をしていてもおかしくないわよ』
通常、レベルが上がった際には、その時の戦い方に適したステータスが上昇するようになっている。事前に【速度】を上げて戦いに挑んだこともあって【速度】が重要視されていた。
だが、どうせ次にセーブすれば自分の望むままに変更することができる。
そう思いステータス画面を閉じる。
「先へ進みましょう」
『少しは休まなくていいの?』
「はい。どうせなら、このまま進める所まで一気に進んでしまいましょう」
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