第79話 ニールの横顔

 俺がいつものように最前線で二体同時に敵を相手取っていると、横から小隊のメンバーの援護が入った。

「ニール小隊長! 大丈夫ですか?!」

 緊迫きんぱくした声で、小隊の仲間からの近距離レーザー通信が入る。

 それに対し、俺はついイラついた心のまま、冷たくあしらってしまう。

「チッ。俺一人でもなんとかなったんだ。余計な手出しはするな」

「はっ。失礼しました」

 こんなことではダメだ。今のは完全に八つ当たりだ。

 分かってはいるんだ。俺のあせりからくる不満を、部下に押し付けてしまっていることは。

 俺は近距離レーザー通信がオフになっていることを確認し、思わず独り言をつぶやいてしまっていた。

「部下に当たり散らしているようでは、いつまでたってもジェフとの差が広がるばかりだな……」

 俺の目標としているジェフは、順当に周囲にその力を示し続けている。

 その結果、出世街道を驀進ばくしんしている。あっという間に大隊長になってしまっていた。

 その名声の広がり具合は、もはや天井知らずといってもいいだろう。

 もちろん、俺は予想していた。あのジェフであれば、いつか英雄にのし上がっていくであろうことは。

 しかし、俺のそんな予想さえも簡単に飛び越えて、すさまじい速度でジェフは出世してしまっている。

 そして、俺はというと、あずけられた小隊の掌握しょうあくさえもおぼつかない有様ありさまだ。その事実が、どうしようもなく俺をあせらせ、イラつかせてしまう。

 だからといって、いくら心の内が荒れていようとも、部下にあたるのはあり得ない。それでは、ますます部下の心が遠のいていってしまう。

 それが分かっていながら、ついついきつい態度をとってしまう。そんな自分にさらに落ち込んでしまうという、悪循環あくじゅんかんおちいってしまっていた。

「考えていてもどうしようもないな……。さらにきつい戦場へと向かえば、余計なことは考えなくても済む。腕もみがけて、一石二鳥だろう」

 俺は思考をいったんたなに上げ、手ごろな敵はいないかと、周囲に注意を向ける。

 そうすると、三体で固まっている敵を見つけた。

 さすがに三体同時はきついか? いや、だからこそ、腕をみがけるだろう。

 俺はそう判断し、敵が最も分厚く布陣しているように見える部分に突撃をかます。

「くっ!」

 いくら稚拙ちせつなブリキ野郎の攻撃とはいえ、三体同時に繰り出される攻撃をさばき続けるのは、やはりかなりきつい。

 しかし、危険な状況におちいったことにより、俺の集中力は増していく。

 敵の動きがスローモーションに見え始め、着実に防御を固めていく。

 どれほどさばき続けただろうか? 数秒のような気もするし、数時間のような気もする。

「そろそろ、あいつらからの援護が入っても良さそうさんだが……」

 この時の俺には、まだこうつぶやくだけの余裕があった。

 しかし、ある瞬間から相対している三体からの攻撃が勢いを増し始め、俺はさらに集中力を高めた。

 余計な考えは頭から抜け落ち、雑音などの余計な情報も脳から全てシャットアウトされる。

 そして、いつの間にか目の前の敵に集中しすぎてしまったようだ。

 車内に鳴り響いていた、後方からの敵の襲来しゅうらいを告げる警報音に対してさえ、俺は意識を向けることがなかった。

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