第72話 02攻略戦

 しばらく前線の指定されたポイントで待っていると、やがて小さな人影ひとかげらしきものが飛来してきた。

 俺はそれを拡大表示し、02ゼロツーであることを確認してから外部スピーカーで挑発を始める。

「俺はここだ! 死神しにがみ殺しはここにいるぞ!!」

 俺に続いてセシルも挑発を始める。

「私もここにいます」

 俺たちの周囲は、戦場のど真ん中であるにもかかわらず味方が少し距離をけており、ここだけぽっかりと穴がいたような状態になっていた。

 そこに俺たちの小隊だけが陣取じんどっているため、02も見つけやすかったのだろう。すぐにこちらにやってきて、少し距離をとった状態で着地した。

小賢こざかしい知恵しか回らない旧人類と、廃棄処分の決まった不良品がそろっていて、どんな姑息こそくな罠を用意しているのかと思って来てみれば、何もしてこないではありませんか。抵抗しても無駄だと、やっと理解しましたか?」

 俺はその発言に対し、さらなる挑発で応じる。

「ごちゃごちゃ言わずにかかってこい。そうしないと、弱く見えるぞ?」

 そうすると、02は足の裏からジェットを吹き出し、素早すばやく俺に肉薄してきた。

 続けて繰り出された一撃を、俺は冷静に盾で受け流す。そのまま返す刀で打ち付けてきた02の攻撃を、今度は右手の剣で払って受け流す。

 そうしているうちにセシルとセシィも配置につき、けん制の攻撃を始めた。02の注意がそちらに向きかけると、剣を突き入れて俺に注意を固定させる。そのすきに、ウォルターもそっと背後にひかえるようにして配置についた。

 02の攻撃は速い。セシル以上だ。その上、こちらの最も嫌な、防御しづらいポイントに正確に攻撃が来る。

 しかし、それだけだ。

 人類に対する学習が明らかに足りていない。これがセシルであれば、フェイントなども多用してこちらをかく乱してくる。しかし、02は馬鹿正直ばかしょうじきに最適な行動だけを繰り返す。

 これならば、いくら速くても予測が簡単だ。

 そうやって、しばらく攻撃をさばき続けていると、おそらくここまで攻撃を防がれるとは思っていなかったのだろう、やがて02はあせり始めたのか、さらに素早すばやい攻撃を繰り出してくるようになった。

 しかし、素早すばやくなった分だけ攻撃が軽くなったので、剣と盾を合わせてさばき続ける。さらにしばらく防御を続けていると、周囲の戦友の一人が外部スピーカーで叫んだ。

「負けるな! 死神しにがみ殺し!!」

 一人が応援を始めてくれると、それはすぐに広がりを見せた。

「もうお前しか、そいつを止められる可能性があるやつはいないんだ!!」

ってしまえ!!」

 そんな一人一人の応援が俺の力となり、さらなる集中力を得る。

 ただ、02の攻撃は常に正確であるがゆえにすきが無い。

 だが、ないのなら作ればいい。

 俺は02の一撃を受けそこなったふりをし、盾を少し左に泳がす。俺の誘いに乗った02は、今までとは異なり、大振りの一撃を振り下ろしてくる。

「ここだ!!」

 俺は数多あまたの戦場で数え切れないほど繰り返してきた、最も自信のある行動にでる。

 盾を斜めにかかげ、その表面で02の剣をすべらせる。そのまま地面に打ち付けた02の剣を盾で抑え込み、車体重量を預けて一瞬だけ固定。02の動きをほんの少しの間だけ封じる。

 セシィが同時に動く。もはや阿吽あうんの呼吸で俺の動きに合わせ、戦場でり上げ続けた必殺の攻撃を繰り出す。

 ───02の左腕が切り離された。

 それにあわてたのだろう。02は俺を振りほどいてセシィに体を向ける。しかし、そのすきを見逃すセシルではない。今度はセシルが02に肉薄。

 ───02の右腕も切り飛ばされた。

 攻撃と防御の手段を一瞬で失った02は少し混乱したのだろう。ごくわずかな時間だけ動きを止める。

 その刹那せつなの時間にウォルターが動く。今までずっと息をひそめて存在感を消してきたウォルターが背後から急襲。愛用の巨大なハンマーが真横に振りぬかれる。

 ───02の下半身が吹き飛び、両足も失う。

 そのままドサリと音を立て、地面にあおむけに落下した02。その顔は驚愕きょうがくに染まっていた。

「馬鹿な……。罠にめられたわけではない。それなのに、お父様に作られた最高の新人類である私が、この私が、旧人類に後れを取るなどあり得ない。あってはならない……」

 呆然ぼうぜん自失じしつとしている様子の02。そんな彼女に俺は剣を振りかぶりながらゆっくりと近づき、語り掛ける。

「なんだ。少しは人らしい表情もできるじゃないか」

 そして、02に事実を突きつける。

「これこそが、お前が不良品とさげすんだセシルが見出した、俺たち人類の強さだ。あまり人類をなめるなよ?」

 ───02の首を切り離す。

 しばらくすると、02の頭部が爆発、四散しさんした。セシルから指摘されてはいたが、やはり、対策がとられていたようだ。

 その様子を、周囲の戦友たちが固唾かたずんで見守っていた。そこに、セシィからの近距離レーザー通信が入る。

「ほら、ジェフ。応援してくれたみんなに、お礼の報告をしなよ」

 俺はそれに対し、声を張り上げるのではなく、勝利の証として右腕の剣を高々とかかげた。

「「「おおおおおおおおおお!!」」」

 その直後、周囲から上がる怒号のような勝鬨かちどき

 俺たちが人類最強の部隊、人類の切り札と呼ばれるようになった瞬間だった。

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