第67話 新たな天使

 それから季節が過ぎ、春になった頃。

 俺たち死神しにがみ殺しの部隊に正式にセシルも配属されていて、連携も問題なく順調に最前線でお仕事にはげんでいた。

 セシルはグラディエイタースタイルを駆っているが、主にサブの壁役として活躍してくれていて、かつての宣言通り、俺を危険な状況から少しでも遠ざけるような動きに専念していた。

「セシルは過保護だよな」

 セシィがそんな感想を口癖にするほどの活躍ぶりだった。

 二種類の新型の多脚戦車も順調に配備が進んでいて、そのおかげもあって、なんとか新帝国と拮抗きっこうさせることに成功していた。

 それでも、それまでにじりじりと後退させられ続けた前線は、旧帝国の最大さいだい版図はんとより少し広い範囲にまで押し込められていた。

 しかし、ようやく新帝国の進撃を止めることができたことにより、俺たち兵士の士気も上がり、さあここからがりどころだと、みんな目の色を変えて奮戦している。

 そんなある日。突撃命令が下ってすぐに、それは現れた。

 俺たちの頭上を、人型の何かが高速で飛び回っていたのだ。

「天使だ! 新しい天使が出たぞ!!」

 それを見た誰かが、外部スピーカーで叫んでいた。

 拡大表示してみると、それは確かに天使だった。顔立ちはセシルにそっくりだが、長いストレートヘアをたなびかせながら飛んでいて、なにより、きつくにらんだような目つきをしているため、かなり印象が違う。

 服装も形状こそセシルの時と同じだが、青を基調としていたセシルの服とは異なり、オレンジ色をしていた。

「何かを探しているのか?」

 俺は思わずつぶやいていた。そいつはこちらのがわに降り立つことなく、旋回しながら首を巡らせて何かを探している。

 しばらくすると、後方の前線司令部から信号弾が上がる。

 内容は──天使てんし殲滅せんめつ作戦さくせん、開始。

 それに従い、一斉砲撃が開始される。俺も当然、砲撃に加わる。そうやって順調に逃げ道を誘導していたが、俺はおそらく無駄になるだろうなと考えていた。

 軍上層部にも報告しているが、何度も同じはめ技を使わせてくれるほど、マクシモは甘くないだろう。

 そんなことに思いをはせながら砲撃を続けていると、やがて新天使は目標ポイントへと降り立った。

 その直後、手順通りに投網とあみが発射される。

 しかし、新天使の全身から細かいナイフのような刃が一斉に飛び出し、投網とあみをバラバラに切り裂く。

 自由になった新天使は、そのまま飛び掛かってきた多脚戦車をあっさりとかわし、ついでとばかりに次々とスクラップに変えていく。

 そして、再び飛び上がると、また何かを探し始める新天使。

「ヤツの目的はなんだ?」

 俺がそうつぶやいたとき、俺から見て右側を飛んでいた新天使とモニター越しに目が合った気がした。

 その直後、一気に加速してこちらに近づいてくる新天使。

 俺が背筋にゾクリとした悪寒おかんを感じたのとほぼ同時に、俺の目の前に降り立った新天使が口を開く。

「見つけましたよ、死神しにがみ殺し」

 そして少しだけ飛び上がり、右手の剣をこちらに向け、俺を見下すようにしながら宣言した。

「旧人類の希望となっているあなたには、ここで消えてもらいます」

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