第61話 亀裂

 いつものように中隊でまとまって朝食をとり、さて今日も新型のテストを開始するかと格納庫へと向かっていた時。

 俺はふと疑問に思ったことをセシルに質問していた。

「そういえば、セシルは食事をしないな。どうやって活動のためのエネルギーを入手しているんだ?」

 そうすると、セシルはキョトンとしながら答えた。

「私の動力は魔力ですから、魔石を定期的に摂取せっしゅしています」

「そうか。もしよければ、その様子を見せてくれないか?」

 俺が何気なく聞いたその質問に、セシルはしばらくだまって考えを巡らせた後、少し嫌そうな表情をしながら返答した。

「……自分でもなぜなのかは分からないのですが、他の人ならともかく、ジェフにだけは絶対に見せたくありません」

 俺たちのそんなやり取りを聞いていたウォルターが、肘で俺をつつきながらジト目で指摘する。

朴念仁ぼくねんじんとはいえ、お前ももうちょっとは乙女おとめごころってもんを理解しろよ?」

 俺はその言葉を聞き、もしかすると服を脱ぐ必要があるのかもしれないなと思い至り、無遠慮ぶえんりょを謝罪する。

「それはすまなかった。これからは発言に気を付ける」

 俺たちのそんな様子を、セシィがずっとにらみつけるようにして見ていた。俺がそれに気づいて視線を向けると、プイッと視線を逸らすセシィ。

 その様子はまるで……。

 いや、よそう。そんなはずがない。そうでなければ、あの時の俺の判断は大間違いだったことになる。だから、そんなはずはないんだ。

 俺は無理やり自分に言い聞かせ、同時にこのままではいけないと思う。何が不満なのかは分からないが、ずっとセシィとこのままでいいはずがない。

 そんなことを考えながら機体に乗り込み、本日のテストメニューをこなす。なるべく余計なことを考えないようにしながら仕事を続けた。

 やがて午前中のテストを終え、格納庫へと帰還して機体から降りる。ちなみに、午後はテストで気になった点などを報告書にまとめて提出する時間になっている。

 今日はセシルの訓練が少し長引いているようで、まだこちらには来ていない。そんなことを確認していると、セシィはこちらを振り向きもせずに、ズンズンと通路奥へと歩いていく。

 大股おおまたで歩き続けて休憩室に入ったセシィを追いかけ、少し早歩きしながら俺も続けて入室する。

 そうすると、飲み物の自動販売機のボタンを押し、缶コーヒーを手に取ったセシィが見えた。

「なあ。最近、お前おかしいよな?」

 俺がそう切り出すと、セシィは不機嫌ふきげんな様子を隠そうともせずに返答する。

「そんなことはない!」

 明らかにイラついているその様子に、俺は思わずため息をこぼしそうになったのをぐっとこらえ、続きを語る。

「いや、もうそれがおかしいだろう。いったい、何をそんなにイラついているんだ?」

「ジェフには関係ない!!」

 さらにイラつき始めたセシィを少しでもなだめようと、俺はできるだけ優しい口調を心掛けながら口を開く。

「関係なくはないだろう? 俺はお前の仲間で、親友で、幼馴染おさななじみだ。これだけ理由がそろっていれば、おせっかいを焼くのは当然だろう?」

「……」

 セシィは無言でふくれっ面をしている。俺はそんなセシィに歩み寄るつもりで、彼女の地雷を踏みぬいてしまう。

「なあ。もしかして、俺が何かしたか? それなら、どうして欲しいか言ってくれ。改善するからさ」

 俺のその発言に対し、セシィがキッとにらみつけながら語る。

「改善? それ、本気で言っているのか?」

 俺は大きくうなずきながらそれに応じる。

「ああ、もちろんだ」

 俺のその発言に完全にキレたようで、セシィは絶叫しながら自動販売機を叩きつけた。

「じゃあ、今すぐあのブリキ人形と別れてくれよ!!」

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