第59話 セシィの横顔

 最近のあたいはどうかしている。

 どうしても心がざわついてしまい、ものすごく不機嫌ふきげんになってしまう。

 ジェフが天使に名前を与えた時、とてもうれしかったはずなんだ。ジェフはそんなに考えるそぶりを見せずに、あたいにちなんだ名前を提案してくれた。

 ジェフにとってあたいの存在がとても大きいものなんだなと感じられて、その場で踊りだしたくなるぐらいうれしかったはずなんだ。

 なのに、なのに!!

 ジェフがセシルに優しく微笑ほほえみかけると、それだけで、あたいは全身をかきむしって叫びたくなる。

 嫌だ! ジェフのその微笑ほほえみは、あたいのものだ! あたいだけのものなんだ!!

 そう、叫びそうになってしまう。

 こんなことではダメだ。これでは、あたいの気持ちをジェフに知られてしまう。

 あたいはこれまで何度もやってきたように、自分の気持ちにふたをしようとする。

 しかし、今までは簡単だったはずなのに、それがとてつもなく難しくなっている。

 あたいの気持ちのふたは、もう、ひびだらけになってしまった。少しでも気を抜くと、簡単に中身があふれてしまいそうになる。

 そして、ものすごくイラついてしまう。

 あたいは、いつからこんなにも嫌な女になってしまったのだろう?

 ジェフがいつか誰かに取られてしまうことは、ずっと昔から覚悟し続けていたはずなんだ。

 なのに、ちょっとセシルに微笑ほほえみを向けるだけでとても心がざわついてしまって、イライラが止まらなくなる。

 ああっ、クソッ! ジェフはなんで、あんなお人形さんがいいんだよ!!

 そこで、ふと気づいた。

 そうだ、これは嫉妬しっとじゃない。あのブリキ人形がジェフにふさわしくないから、それだから、イラついているだけなんだ。そうだ、そうに違いない。

 だって、そうだろう? セシルは人じゃない。ただのカラクリ人形だ。

 そう考えると、少し落ち着いてきた。

 ああ、でも、どうやったら、ジェフがあのお人形をあきらめてくれるんだろう?

 まともに言ってしまったら、あたいが嫉妬しっとしているようにしか見えない。そんなことは、あたいにだって分かってる。

 それじゃダメだ。この気持ちだけは、絶対に知られるわけにいかないんだ。

 あたいは答えの出ない考えをぐるぐると巡らせ続け、そのたびにざわつく心を持て余し続けていた。

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