第46話 天使殺し

 作戦開始の合図の直後、味方からの猛烈な砲撃が天使に対して始まる。戦場の死神しにがみの時と同様に、これによって逃げ道を誘導するためだ。

 その時、モニターに拡大表示していた天使が少し笑ったように見えた。

「笑ってやがる……」

 表情の変化に乏しい天使が、かすかにではあるが確かに笑っていた。

 俺にはその姿が、『私を罠にはめようというのか? 面白い。小賢こざかしい罠ごと食い破ってやる』という、挑発の笑みに見えた。

「いいだろう。俺たち人類の悪あがきってやつを見せてやる」

 俺はそうつぶやき、進捗しんちょく状況じょうきょうをじっと見つめる。

 やがて逃げ道を誘導された天使が、作戦通りに俺たちの中隊が展開した場所の目の前へと降り立った。

 その瞬間、俺からの指示を待つことなく、決められていた手筈てはず通りに小細工のための道具が仲間たちの機体で起動される。

 次々に発射される、極太ワイヤーでできた投網とあみ

 そう。用意された小道具は、投網とあみを発射する専用の銃だ。十重二十重とえはたえと天使に投網とあみかぶさっていく。

 しかし、あの姿で多脚戦車以上のパワーを誇る天使だ。この程度では多少の時間が稼げるだけだろう。だが、そんなことは想定済みだ。

 投網とあみを発射し終えた中隊の仲間たちは、そのままひるむことなく天使に向かって次々に飛び掛かる。天使を背中側から押し倒し、積み重なるようにして仲間の機体が押しつぶす。

 その結果、いかな天使といえども身動きが取れなくなったようで、うつ伏せになって動きを止める。

 俺はワイヤーごと切り裂ける特別仕様の剣をたずさえ、ゆっくりと天使のもとへと近づく。

 この剣は切れ味に特化しており、その分耐久性が低い。しかし、一回だけ使えたらいいので、この場合、折れやすいことは問題にならない。

 俺はそれを頭上に振りかぶり、天使に語り掛ける。

「どうだ、思い知ったか? これが旧人類とお前らが見下す、俺たち人類の底力だ」

 そのまま素早すばやく剣を振りぬき、天使の首と胴体を切り離す。

 俺たちが天使殺しを達成した瞬間だった。

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