幕間 五天魔の二人
コツコツと靴音を鳴らし廊下を進む一人の女性。
これより一週間後に控えた全学部の模擬戦内容についての会議がある為、学園内会議室へ向かっている。
深い緑色の両目とボブカットの髪、少々小柄ながらも目に付く胸の大きなスタイルが目立つ彼女の名は【アスティア】。
五天魔の一人にして慈愛のアスティアという二つ名を持つ者。
何時もスムーズに進行した試しの無い会議に向かうその足取りは少々重く見える。
「はぁ・・・。またこの時期が来てしまったか。いくら実戦訓練の為とはいえ私の創った結界内で子供達が傷つけ合う姿は余り見ていて嬉しいものではないのだが・・」
魔族である彼女の見た目は身長の所為で何とか20代前半に見えるか見えないかと言った所だが実年齢は100歳を超えている。
人間の平均寿命は約80歳、魔族の平均寿命は300歳と言われているこの世界では魔族の年齢は一見ではわからない。
それでも彼女は人魔大戦にて大活躍した人物であり、またその仲間達と、敵対していた勇者パーティのメンバーと合わせて世界中に名前と容姿が知られている。
その為彼らは学園の敷地外に出るときは変装しなければならない。そのまま外出してしまえば民衆に囲まれ自由に動く事が出来なくなってしまうからだ。
人魔大戦が終わり、人間と手を組んで教育に力を入れると発表した時は様々な人達からちやほやされる事に少々気を良くしていたが、今となっては有名税の方が高くついてしまっている現状に多少のストレスを感じていた。
「あぁ・・・たまにはゆっくり温泉にでも浸かって癒されたい。最近肩こりも酷くなってきたし歳かなぁ・・」
ぐるぐると両肩を回し、独り言ちながらふと窓の外を見やる。
そこには模擬戦場で手合わせをしている生徒達がいた。
「あれは高等部のアストル・マーティンとアイリス・モール。それに・・・」
上空からフレアバーストを降らせる少女とそれを笑いながら破壊している少年。その中で逃げ回っている一人の少年がアスティアの眼に止まる。
「ジン・・・か」
慈愛のアスティアと呼ばれていても彼女も魔族最強の一角。その魔法は全力のアイリスでも歯が立たない程卓越している。
そんな彼女は職業病なのかぶつぶつと模擬戦を見ながら採点を始める。
「アストル・マーティンは80点。あの剣技は同年代では郡を抜いているな。流石は主席だ。剣技においては今すぐにでも近衛兵にもなれるだろう」
「ではアイリス・モールは90点だな。あの年齢でフレアバーストの術式を弄っている。対象に向かって追尾する改良とは面白い。速度が物足りないがな」
「【アラン】・・・何時の間に」
アスティアの横で急に話しかけてきた魔族の男性。目にかかる位の金髪と真っ白な歯、すらっとした長身で嫌が応にも目に付く見た目をしている彼は五天魔の一人、閃光のアランだった。
「無粋だったかな?」
「いや、構わないが気配も無く側に寄るな」
「アスティアが私の伴侶になってくれるなら考えよう」
「・・・一生気配消してろ」
「おやこれは辛辣」
人魔大戦が終結してから今迄ずっとアランに言い寄られているアスティアはげんなりしながら
「もう何度伝えたかわからないが私はお前のような気障ったらしい男に興味はないんだ。私をどうにかしたければまず性格を変えてこい」
「ははっ。それでも私は諦めないとも!ありのままの私を好いて貰える様努力する所存さ」
ウゲーっと舌を出しながらアランに不快な物を見る目を向けるアスティア。
このままでは話が進まないと思い会話内容を変える。
「所でもう一人をどう思う?」
「もう一人?あぁ、あの何時も全科目で2位を取っているジンとかいう少年かい?」
「そうだ。ジンは人間ながら魔法の科目でも属性別全てで2位を取っている。それも小等部からずっとだ」
「アスティアはあの少年の様な男が好みなのかい?」
「茶化すなバカタレ!・・・不思議に思わんのかお前は」
「人間なのに魔族レベルの魔法を行使出来る事を?」
「そうだ。少なくとも私の記憶でそんな人間は一人しか知らない」
「カイ」
「その名前は口にしてはいけない事を忘れたか?」
「っ・・・とごめんごめん。勇者の事だね」
「はぁ。魔王様のお名前すらお呼びする事叶わんとはな」
「それがこの学園を運営する条件だからね。私も魔王様のお名前を口に出来ない事には憤りを覚えるけどさ」
「貴族社会とはなんとも面倒臭いものだ」
「五天魔の本当の素性も公にできないしね」
「目的の為に此処まで堪えたのだ。見つかるその日まで幾らでも辛抱するさ・・・で?どう思うんだ」
「ジン君ねぇ・・・。正直器用貧乏という印象が拭えないね。人間にしては魔法はありえないレベルではあるけど実践で使えるかと言われれば主席レベルでギリギリって感じだし、肉弾戦に至っては全ての科目で上位互換がいる様なもんだからなぁ・・・多めに見積もって40点ってとこかな」
「お前の基準は大戦時代のそれだろうが。それでも片鱗は感じないか?可能性というか・・・」
「全くだね。主席の子達の方が余程見込みがあるよ。・・・あ、ジン君焼けた」
話し合う二人の目線の先でジンがヘルバーンによって焼かれて消えた。
「・・・私の買い被りだったか」
「そういうこと。さてそろそろ会議が始まるよアスティア」
「あぁ。行くか」
ジンが居なくなった模擬戦場にて手合わせを続けるアストルとアイリスを一瞥した後二人は会議室へと歩いて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます