第3話 殺害予告
ハッと気が付くと僕は結界の外にいた。
半ば反射のように自身の身体をチェックするが当然怪我や火傷等は無い。
だがつい先程の全身を一瞬で内側まで焼かれる感覚はしっかりと残っていた。
「また何も出来なかったなぁ・・・」
そう呟きながら結界内で戦っているサイコパ・・親友二人を見る。
凄い以外の形容が思いつかない。
「いつまでも高みの見物してんじゃねぇぞアイリスゥゥゥゥ!!!飛斬飛ざぁあああああん!!!」
「一体一でアストル相手に地上戦挑む程・・・私は蛮勇じゃない・・よ!」
僕がいなくなった模擬戦場で戦う二人。
アイリスは近距離戦を嫌い上空から炎の魔法を駆使して距離を取りながら戦い、アストルは遠距離攻撃でその炎を打ち払い、消し飛ばしながら有効打を与えようと詰め寄っている。
「二人共本当に凄いや・・・こうやって体で思い知らされる度に主席の天才度合いを見せ付けられるよ」
「・・・寧ろ今の今まで貴様がその事を真に理解していなかった事に呆れるしかないがな。平民」
「・・・やぁグラン」
独り言ちている僕の背後から反応が返ってきた。
槍術科目一位のグラン・テール。アイリスに負けず劣らずの金髪ロングヘアーを揺らしながらとてもキツイ目付きをしている彼もまた比類なき天才の一人にしてキャニオン王国大貴族の家柄だ。
平民である僕が毎度二位を取るもんだから色々邪推してくる内の一人であり、親友二人とは違って僕の事を嫌っている。
「いい加減認めたらどうだ?貴様どういった不正をしてあのような成績を出している。槍術でこそ私の足元にも及ばないが・・・魔法科目では魔族に比肩する魔法を使用する。どんな魔道具や方法を使っているんだ平民?」
「いやいや、僕みたいな小市民が魔道具なんて高価なもの手に入れられる訳が無いよ。只ひたすらに頑張ったってだけ」
「ふざけるな!我々才能ある主席達でも人間であれば魔法は人並み程度のものしか使えん!それを平民である貴様如きが我々どころか魔族よりも成績が良い等不正を行っているに決まっているではないか!」
なんでこの人は僕の事を「平民」か「貴様」としか呼んでくれないんだろうか。
互いに小等部からの付き合いであるのは親友二人と変わらないのに・・・。
それに毎度絡まれる度に不正だ何だと僕に詰め寄ってくるしいい加減うんざりもしている。
「あの二人との手合わせを見ていたが酷いものだな。貴様何も出来ないどころか逃げ回っているだけではないか。それで全科目二位というのが不正の証拠であろう!」
知らないんだよ。努力する天才に凡才がどれだけ頑張っても追いつけない事を君達は知らないんだ。
僕は全力だった。それでも詠唱なんてする暇も無く逃げ回る事しか出来ない。そんな僕に対して二人は本気ですらない。今も手合わせのルール内で戦っている。
そのレベルですら僕には手も足も出ないのが現実なんだ。どうすりゃいいってんだ。
「不正が露見して恥をかく前に学園に謝罪したほうが良いぞ平民。どうせ今更貴様がどうしたって我々主席には届かないのだからな。」
言い返せない。不正をしている訳ではないが実力不足なのはその通りなのだ。
僕は意識しないまま拳を強く握りしめていた。
「グラン!まーたジンに絡んでんのかオメェは!」
「おやおや。脳筋貴族のアストン君じゃないか。もう手合わせは終わったのかね?」
「誰が豚だこらぁ!俺はアストルだ!この肉体は贅肉じゃなくて筋肉だボケ!!」
「ジンを苛めてるのが見えたから・・・中止してきた」
「アイリス君までこの平民を庇うのはいただけないなぁ。君も魔族の貴族なのだからもっと私の様な格にあった者と友好を深めねばいけないよ?」
「なーにが格だこの野郎。俺らは好きでジンと友達やってんだ。外野に兎や角言われる筋合いはねぇや!」
「そーだそーだ・・・ジンは・・凄いんだから」
「はっ!では一週間後の模擬戦でその平民の凄さとやらを見せてもらおうではないか。私に勝てなければ潔く不正を学園側に白状してもらおうか」
「だーからそもそもジンは不正なんかしてねぇっての!」
「前提から・・・間違えてることに気づけー・・」
「ではな平民。一週間後を楽しみにしているぞ!ハッハッハ!!」
僕を除け者にしたまま僕を中心に話を進めるのやめてくれませんかね?
なんでちょっと進退を賭けるような流れになってるの?
「ジン!こうなったらあいつをボコボコにしてやれ!お前なら出来る!!」
「今同じ主席の親友二人にボコボコにされたばかりなのにどうしたらそんな言葉がでてくるのさ・・・」
「ジンなら出来る・・・ジンは凄い。フレーフレー・・ジン」
「他人事だと思って・・・」
そもそも少し気合を入れた程度でどうにかなるなら次席に甘んじていない。
例え一体一であっても主席の連中には勝てない。
技の練度が違う。科目に費やしてきた時間が違う。・・・才能が違う。
何か他とは違う物が一つでも自分にあればとは思うがそれも思いつかない。
どうしても主席を取りたい。お爺ちゃんとお婆ちゃんに楽をさせてあげたい。
何か・・・何かないのか。
唇を噛み締め拳を握り、何度目かわからない己の不甲斐なさに打ちのめされながら考えを巡らせるが、それで名案が浮かぶのであればとうの昔にやっている。
親友達の勝手な行動に多少の怒りを覚えもしたが、何より一週間後に地獄が用意されたことに焦りを覚える。
「なーんでジンってそんなに自分に自信がないんだろうな?」
「色んなことが出来るから・・・戦い方も選びたい放題・・だよね?」
「それな。俺なんか突っ込んで剣振り回す位しかねぇし」
「私も・・・同じようなもの」
そんな友人たちの言葉も聞こえない程考えに没頭しているジンの首にかけている紫色の水晶が淡く光っている事にアイリスが気づいた。
「ジン・・!ネックレスの水晶が」
「え?おわぁ!なんぞこれ!?」
「おぉ~なんか光ってんぞ」
「綺麗・・・」
「なにこれなにこれどうなってんの!?」
突如ジンが物心付く前から着けていたネックレスの水晶が光を発していた。
孤児院の大人達も唯一ジンが持っていた物だからと自分に与えてくれたジンの唯一の持ち物。
「お・・・・・・い・・・こ・・・・・ろ・・・・す・・・」
「は?」
今水晶から声が聞こえたんだけど・・・途切れ途切れだったけど「おい殺す」って・・・。
え!?僕の事!?僕何かした!?はぁ!??
「どうしたジン?」
「いや殺すって・・・誰を!?僕を!?」
「ジン・・・大丈夫?」
「この水晶から声が聞こえて・・僕を殺すって!」
「はあ?声なんか聞こえねぇぞ?」
「し・・ね・・・じん・・・よ」
「今言ったぁ!絶対僕に死ねって言ったぁ!」
「何も・・聞こえない・・・よ?」
「いやあああああ外れないしこのネックレス!なんでどうして!?」
突如光った水晶から聞こえてきた声に錯乱するジン。
しかしその声は二人には聞こえていないようで。
「なんかよくわからんが俺に任せろ!オラァッ!」
「グッ!・・・フォァ・・・」
傍から見たら一人で錯乱しているジンを大人しくさせようとアストルは大剣の柄でジンの腹をぶん殴った。
「な・・・する・・・・アスト・・」
「あれぇ?本とかだとこうすりゃ気絶するのになぁ」|
「ふざ・・・な」
唐突に腹部を殴られたジンはゲホゲホと咳き込みながらアストルを睨みつけ悪態を付く。おまけに殴った理由に殺意を込めながら。
「おっしゃもういっちょお!」
「ゴッフゥェエッッ・・・!!」
まさかの二撃目である。僕の事を友人と言っていたが疑いたくなってきた。
アイリスはオロオロしながら不安そうな目をこちらに向けてきている。
いいからこの脳筋を止めてくれよ・・・。
そう思いながら僕の意識は沈んでいった。
本とか関係なくアストルの力で無防備な腹部を二度もぶん殴られたらそりゃ意識も飛ぶよ。
ぜってぇにいつか仕返ししてやるからなこの野郎
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