産休の申請
そうざ
Apply for Maternity Leave
「失礼します!」
大柄な局員がノックと同時につかつかと入室して来たので、ぼんやりと
「〔産休〕の申請に参りました!」
「あぁ……」
やっぱりそれか、と局長は思った。嫌な予感が当たってしまった。
「希望期間は、
「実はね」
局長が言葉を遮るように言った。
「今月、我が局の〔産休〕申請者は君で百人目なんだ」
「遅れを取りました!」
「既に全員、受理したが――」
ここで突然、局員が気を付けの体勢になったので、局長は思わず身を震わせた。
「労務総動員法要綱第3条九号! 生産局の全局員は等しく〔産休〕申請の権利を有す!」
釈迦に説法でしかない局員の暗唱を、局長は何とか押し留めた。確かに好きな時期に好きな期間だけ自由に〔産休〕を取得出来る制度はあるが、流石に一割もの局員が一斉に現場を離れるとなれば、今期の目標生産数の達成は絶望的だ。大戦の長期化は必至と目される
「時局は切迫の一途を辿っている」
「承知しております!」
「となれば、生産増強は急務だ」
「承知しております!」
「君ねぇ、解ってるんなら――」
「
「それは、実に局員の鑑である」
「
局長は目眩と既視感とを同時に覚えた。今月に入って九十九回、申請希望者と同じやり取りをしているのだ。
「……受理する」
「有り難う御座います!」
「念の為、言っておくが……くれぐれも
「は?」
「近頃、不心得者が多くてな」
由々しき事に、局員に因る窃盗事件が後を絶たない。勤労奉仕を旨とすればする程、
「一日も早い現場復帰を切に願う!」
「はっ! 今後とも不退転の決意で臨みます!」
局員は、自ら手掛けた生産品を胸に
局長は再び窓際に立ち、雄大な
その片隅で、
しかし、中々手放そうとしない。見兼ねた他の局員が代わりに生産品をベルトコンベアに載せた。
そこに、
産休の申請 そうざ @so-za
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