有名Vtuberになろうと思って配信したら異世界に来たんだが!?

朝雨

第1話 酔った勢いで物事を進めるのはよくないという戒め


Vtuber(ブイチューバ―)とは。


主にインターネットコンテンツで活動し、2DCGや3DCGのアバターを用いて動画投稿や生配信をする配信者を指す言葉である。


2022年も終わり、2023年インターネット社会が強く根付いた昨今では、手軽に家で見ることのできる配信コンテンツが充実し、今やその知名度はとてつもなく右肩上がりとなっている。

その影響もあってか、日々動画投稿業界は現在も進化をし続けており、没個性(ぼつこせい)の配信者は淘汰(とうた)されるほどの影響力がある。

特に人気配信者ともなれば配信だけでお金を稼ぐこともできてメリットが多いことで現在の若者の将来なりたい職業ランキングでも配信者は名が上がるほどに世間に浸透(しんとう)しているといえよう。


そして、その影響は俺に転機(てんき)をもたらすことになったのだった―――。


★☆★



俺の名前は麻沼(あさぬま) 啓(けい)。その辺によくいるサラリーマンだ。

今日も特に何事もなくいつもの仕事を終え、帰宅をしている。

だが、そんな俺でも誇れるものが二つある。

一つ目は―――。


「おっ、兄ちゃん、かっこいいね! モデルやってる? ホストやらない?」

「……いえ。大丈夫です」

「うおっふ! お兄さん声もめちゃくちゃかっこいいね! もし興味あったらいつでも連絡してきてよ! お兄さん来るなら絶対人気出るからさ!」

「……はぁ」


そう。俺は圧倒的に顔と声が良い。

自分でいうのも何だが、正直言って俺の顔はかなりイケメンだし、声はめちゃくちゃかっこいいと思う。

今のやり取りだって、いろんなところに出張されるたびに何回もやられ、家には使う当てのないホストの名刺が恐らくホスト通いをし続ける人よりも圧倒的に多いだろう。


ならどうしてホストやモデルをやらないのかって?

その理由は単純だ。俺が人と話すのが苦手だからだ。

とはいえ特段コミュ障と呼ばれるほどではない。

必要な会話はできるし、相槌(あいづち)も打つことができる。


まぁ、俺ほどの顔面の持ち主なら正直相槌だけでも困らなかった。うん。

だから俺はホストなんてもってのほかだし、モデルなんてやろうものなら絶対に有名になるに決まっているし、そんなことになるのが目に見えているのならやるのは面倒くさいというものだろう?


さて、色々と話が逸(そ)れたが、今の俺は正直平凡な生活を送っているが、現状に不満はない。

幼いころに両親を亡くして、母方のほうに引き取られることになったものの、その後に祖母が亡くなり、続けざまに祖父も亡くなり、いよいよ"悪魔の子"とまで呼ばれたという苦労以外は特段辛いこともなく、今の給料で全然やっていけるから問題ない。

ま、特にやりたいこともないしな……。


そうして俺は何度か声を掛けられながらもようやく家へとたどり着いた。

家は二階建ての少し古いアパートだが、特に問題なく生活できており、大家さんとの関係も概(おおむ)ね良好である。

俺の部屋は二階の階段を上った奥の角部屋で、俺が昇ろうと階段に足をかけた途端、噂をすればなんとやらで、階段から一番近い部屋のドアが開き、大家さんが出てきた。


「あら? 葵くんじゃない! 奇遇(・・)ね~!」

「……どうも」

「今日も帰り遅かったのね! お疲れ様~!」

「……っす~」


大家さんは正直、控えめに言っても綺麗な人だと思う。

普通の人ならこんな綺麗な大家さんが出迎えてくれるなんて最高のアパートじゃないかと言われるかもしれないが、俺はならん。

圧倒的な顔面を持つ俺にとって、正直顔が良い女性は何人も近寄って来た。

その悉(ことごと)くが俺の顔や声目当ての人ばかりで、辟易(へきえき)しているのだ。

それに加え、この大家。

実を言うとこのやり取りがのである。

これが大家の言うように奇遇なら運命の神はもっとやることがあると思う。

俺はそんなことを考えながら階段を上り、自分の部屋に入る。


俺の部屋は特に何かがあるわけでもなく、玄関の近くにトイレ、風呂、そして奥に行くとキッチンがあり、壁で区切られた空間に寝室があるという簡素(かんそ)なものだ。

特に必要なもので揃(そろ)えたと言えば、冷蔵庫や洗濯機といった一般家電や、テレビなどといったものだけだろうか。

俺はリビングキッチンに置いてあるテレビをつけ、冷蔵庫からビールを取り出す。

正直ビールは美味しいとは思わないが、この喉を通る瑞々しさと苦さがどこかクセになる。


「さて、今日はどんなニュースがあるんだ?」


俺はビールをもってリビングにある椅子に座りながらテレビを眺める。

最近はテレビで流れるニュースをビールを片手に見るのが俺の流行なんだが、今日はなんのニュースをやってるのかな。

そうしていつものニュース番組を流していると、テレビのキャスターが手元の原稿用紙を見ながら今日のニュースを説明していた。


『~と言うことがありました。さて、続きまして、近年人気が爆発的に伸びてきた"あの"お話です』


あのお話ってなんだと俺が思うよりも早く、ニュースでは続きを言ってくれる。


『最近、世間では"Vtuber"の人気が爆発的に急上昇中のようです』


あ~確かにそんな話もあったな。

今や配信者ってのは一職業として認められる動きも出ているし、企業が全面的にバックアップしてくれるところまであって、今最も人気のある仕事と言っても過言(かごん)じゃないだろう。


テレビを見続けていると、再びアナウンサーが話し始めていた。


「いや~! 世間の人気はすさまじいですねぇ! と、ここで! 実は、現在そのVtuber業界を支えている一人のあの方にお繋ぎしています! 陽乃(はるの) ミナさ~ん!」

《はいっ! みなさ~んっ! おはようこんにちはそしてまたおはよう~っ! 陽乃(はるの)ミナです~っ!》


「おぉ、声可愛いな」


テレビから流れてきた唐突なかわいい女の子の声に思わず心の声を漏らしてしまう。

一人で部屋にいると独り言を話したくなるのはなんでなんだろうか……。

でも本当にすごいなぁこれ。

俺はテレビの中でアナウンサーと会話する2DCGの女の子―――陽乃(はるの) ミナを見て思う。

確かに絵面としてはアニメのようなかわいいキャラとアナウンサーが話しているのだが、彼女の言動や立ち振る舞い、相槌など、どれをとっても決して一般人とは言えない雰囲気だった。

その上、表情も豊かで多くのパターンがあるのか、見ていても全然飽きない真新しさがあった。

俺はそのコーナーを感心しながら食い入るように見つめていると、陽乃(はるの) ミナが何やらお知らせを発表するということで意識を元に戻す。


《はいっ! ということで最後になるんですけど~ 実はっ! 陽乃(はるの) ミナが所属するバーチャルファンタジア事務所が第三期生を募集しますっ!》


陽乃ミナがそういうと、スタジオもどよめき立ち、出演者も多くのことを陽乃ミナに聞いていた。

そうか。そういうのもやってるんだなぁ。

俺はふと何気なくその応募画面を見る。

そこにはいくつかの長い文章とともに、応募要項なども記載されていた。

どれどれ……?


――――――――――――――――

■応募条件

・常識にとらわれない発想ができる方

・面接時、遅刻しない方

・週に数十時間のスケジュールを確保できる方

・一般的なコミュニケーションが取れる方

・私たちと一緒に働きたいと思う方


――――――――――――――――


……なるほどね。

まぁよくある企業の応募条件とは対して差はないし、この辺は特に当たり前のことができる人が採用されるんだろうな。

でも応募数もたくさんあるだろうし、運営側も年々大変になっていくよなぁ……。

俺はそのまま下にスクロールしていくと、応募方法が書いてあった。


――――――――――――――――

■応募方法

・注意事項を必ずご確認の上、下記の応募フォームからエントリーしてください。

  https://virtualfantasia~


――――――――――――――――


やっぱ大企業だしちゃんとしてるな~!

ちょっとリンク踏むだけだし見てみるか!


……この時の俺は正直、かなり酔っていたと思う。

……お酒にも、自分にも。


普段はそんなに酔うことはないのだが、今日は仕事で特に疲れたからだろうか、いつもより酔いが早かったのが失敗だった。


そう。俺は酔った勢いで、応募フォームに全部記載して、送信していたのだった―――。


―――――――――――――――――


氏名:麻沼(あさぬま) 啓(けい)


年齢:21


性別:男性


応募したきっかけ:俺が一番かっこいいから!!


趣味:毎日三回は鏡を見ること


特技:街を歩くと大体振り向かれる。あと声がめちゃくちゃかっこいい。絶対聞いたほうがいいです。人生の半分どころか全部損してます。間違いなく声はいいです。


生配信の経験:なし


自己PR:語るにはここは短し!


―――――――――――――――――

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