21.

「前回のエグゼクティブパーティでの失敗。それは、御三方が自分から女性にお話に行かなかったことだと私は思います」


 ソファに腰掛けているルビオとクレイの二人に、的確に指導をする。


「いつの世も、やはり女性は男性がエスコートするべきです。

 そして初対面の男女が仲良くなるのに会話は必須。

 お酒を飲んで食事をとり、少し気分が高揚した時だと、饒舌になるでしょう。

 楽しい会話をした相手とは、また会いたいと思いますよね」


 相席居酒屋というシステムの良さを熱弁するアリサ。


 前世で婚活業界に勤めていた時も、相席居酒屋が巷で流行った時には、とんでもないものが台頭してきたと思ったものだ。


 堅苦しい婚活パーティよりも、相席居酒屋の方がフランクに出会える、と会員たちの気持ちが持っていかれたのも事実であった。


 だからこそ、異世界でも通用するのではないかと思ったのだ。



「確かに、酒を飲むと気が大きくなりますし、女性とも親密になれるかも、ですね……?」


 クレイは手をあごに置き頷いている。


 代々王子の側近の家系というだけあって、貴族出身の彼は女性と飲む習慣など無さそうだ。

 きっと今まで彼の祖先も、家と家の結婚をしてきたのだろう。考えたこともなかったという様子だ。


「つまり、何処の馬の骨か知らぬ女と酒を飲めということか? 気が乗らんな」


 ルビオは金髪を掻き上げて不服そうに吐き捨てる。


「言葉が悪いですよ王子! 

 大事なのはどう出会うかではなく、誰と出会うかです。

 運命の人と出会えれば、状況は関係ないのでは?」


 前世でもよくあったあことだ。

 幼馴染、同級生、職場の同僚。自然な出会いで恋愛関係になり、結婚したほうが良いという考え方。


 結婚相談所に入会するのが恥ずかしい、という気持ちはわからなくはないが、そんな固定概念は捨ててほしい。


 婚活だろうが、街コンだろうが、ナンパだろうが、バーで隣の席になったからだろうが、幸せな結婚に出会い方は関係ない。

 大事なのは、素敵な相手と出会う機会を増やすことだ。


 アリサの言葉に、珍しくルビオはハッとして眉を上げた。


 どうも、『運命の人』というものに興味があるようだ。


「……面白いことを言うではないか、婚活アドバイザーとやら。いいだろう、お前の提案に乗ろう」


 ルビオはその長い足を組み、愉快そうに告げる。


「会員様を成婚させ、笑顔を増やすのが私の仕事です。お任せください!」


 アリサの言葉に、ルビオとクレイが頷いた。


「場所は3番街のレストラン・マーガレットです。では当日は自然体で話せるように、ラフな格好をしてきてくださいね」


 王族はラフな格好をするのかは疑問だったが、一応伝えておく。


 ギルドでの来客対応が終わったのか、ケビンが扉を開けて入ってきた。


「王子たちは大丈夫か?」


「ああケビンさんちょうど良かった! 

 それでは日時が決まったらご連絡しますので、ケビンさんも普段着で来てくださいね!」


「……俺がいないうちに、何か話が進んでないか?」


 ケビンの言葉にも生返事で、アリサは早速宣伝をしなければと勢いよく駆け出し、部屋を出て行った。


 ルビオとクレイ。

 一国の王子と側近といつの間にか3人組にされてしまったケビンは、気まずそうに2人に会釈をした。



*   *    *



 相席居酒屋は、異世界では最初受け入れられなかった。

 

 初対面の男女が飲むというのも抵抗があるし、男性がお金を払って、女性は無料というのも疑問がられた。

 中にはずるい、と言う男性もいた。


「男性の方が飲む量も食べる量も多いし、そもそもご飯ついでに、ぐらいの軽い気持ちでなければ女性が集まらないんですよ!」


 婚活業界の辛いところだ。

 どうしても、女性の方が売り手なので男性が不利な場合も多い。


 不満の声も上がりそうだったが、


「踊り子のショーを見に行くより安く、女の子と話せるんだからいいじゃねぇか!」


 武道家のジョンが、ケイトの料理を運びながら友人達に宣伝してくれていた。


 冒険のないときはケイトの店を手伝っているようだが、竹を割ったような性格の彼がそう言うと、一度行ってみるか、という気にさせるみたいだ。


(男の人たちを参加する気にさせてくれた。ジョンさん、ナイスアシスト!)


 アリサは、店でそう言ってくれていると噂を耳にして、ジョンにお礼のお酒でも持って行こうと思った。


 彼の応援もあってか、男性で興味を持ってくれた人も徐々に増えてきたようだ。

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