15、


*  *  *



 ギルドの閉店時間になり、店を閉めた後、個室にてアリサと男性三人は再び集まった。

 

 店の仕事を終えるまでケビンを待つ間、ルビオは優雅にアリサが出した紅茶を飲んでは、安い味だと文句を言っていた。


「すまない、待たせたな」


「いえ。お忙しいところすみません」


 まさか自分が王子とその側近を待たせると思っていなかったケビンは、恐縮しながらソファに座る。


「それでは、みなさんには婚活イベントに参加してもらいますね」


 紅茶のカップを置き、ルビオはアリサの言葉に深く頷いた。


「どうして俺まで参加するんだ」


「ケビンさんも女性から見たら素敵な男性だからです。

 それに、親しいご友人のジョンさんがこの間彼女ができて、少し羨ましそうに見えましたよ?」


「う……まあ、確かにそうだが」


 図星を突かれたのか、ケビンは少し恥ずかしそうに同意する。


「私は結婚相談所を注意しに来たのですが……確かに私も今まで忙しくて、結婚などする余裕がありませんでしたが、もういい歳ですからね」


 当初の目的とは違ったが、これも良いきっかけだと、物分かりの良いクレイは頷いている。


 隣のわがままな王子に四六時中付き合っていたら、女性と出会う余裕がないというのも納得だ。


 三人が了承したところで、アリサは考えた。


(彼らの職業は、一国の王子、王子の側近、ギルドの店主。

 現実世界で考えたら、ルビオ王子は一流企業の社長、クレイはその会社の秘書や役員、ケビンは自営業の経営者ね。

 全員かなりのハイスペックだわ。ルックスもかっこいいし、収入も良い)

 

 ならばそれを存分に発揮するイベントを開催するしかない。


「よし、では御三方は、エグゼクティブ婚活パーティに参加していただきます!」


 アリサがそう言って強く頷いた。


「エグゼクティブ婚活パーティ……というのは?」


 聞きなれない言葉に、クレイが問いかける。

 婚活界隈ではよく知られた言葉だが、前世の日本でも多くの人が知らないだろう。


「参加者のレベルが高い、少し高級なパーティです。

 収入の良い男性がたくさん集まるので、女性に人気です」


 女性はワンピース、男性はスーツと参加者はドレスコードがあり、高級レストランやホテルの一室などで行われることが多い。


 通常のパーティ参加費は、男性の方が食事や飲み物を飲むため、男性側の金額が高く設定されているが、エグゼクティブパーティにおいては女性側の会費も高額だ。


 それでも、ハイスペックな男性と出逢える確率が高いと、女性に人気のパーティである。


 前世では、『年収○○万円以上』や『医者・弁護士等国家資格所有者』など、男性側に厳しくも少し露骨な条件が出されているものも多かった。


「みなさんなら、そこでも結果が出せるはずです。頑張りましょう!」


 大体の説明をすると、三人は納得したようだった。


「では、ラグジュアリーなホテルとかを会場として借りなきゃですね」


 エグゼクティブパーティは、非日常を演出するために有名なホテルなどを会場にすることが多い。

 

(転生してきたばかりの異世界で土地勘はないし、場所を見つけたとしても、身分や素性も不明な自分に借りられるかしら……)


 せっかく意気込んだのに、出鼻をくじかれてしまった。

 腕を組み悩んでしまったアリサを見兼ねてか、クレイがそっと手を上げ提案してきた。


「中央街にあるセントラルホテルはいかがでしょう。

 王宮の式典などによく利用しますので、あそこの支配人には口が効きます」

 

 続いてケビンも言葉を続ける。


「冒険を引退して、自分の店を開いた友人が何人かいる。

 参加する気がないか俺の方で聞いてみよう」


「わあ、ありがとうございます!」


 当面の問題であった、エグゼクティブパーティにむ沢しい会場を押さえられる

かということと、ハイスペックの男性が集まるかということも、クレイとケビンの協力により解決しそうだ。


「では早速、パーティに着て行くのにふさわしいお洋服を買いに行きましょう!」


 ケビンはいつも麻のシャツにジーンズというラフな格好しか見たことがないし、ルビオとクレイは宮廷の者が着る鷲の紋章のついた服を着ていて目立ちすぎるので、パーティ用の服が取り急ぎ必要だろう。


 向かいの通りに、ラグジュアリーな服が売っているお店があったため、三人をショッピングに促す。


「アリサ、ちなみに君今お金はあるのか?」


 ウキウキと心が踊っていたのに、ケビンの冷静かつ非情な一言で我に返った。

荒れ果てた部屋に住んでいる今の自分の懐事情を思い出すアリサ。


「……ケビンさん、ギルドのお金貸してくれませんか。

 このパーティが成功したら必ず返しますので!」


「こっちもカツカツでやってるんだがな……」

 

 ケビンのため息が、狭い個室に響いた。

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