12、
* * *
第一回僧侶コンは大盛況であった。
二十名ほどの僧侶の男性に対し、倍近い女性の申し込みがあり、まさに男性は選び放題の状況だったのだ。
最後のカップリングタイムでは、何組ものカップルが誕生し、仲睦まじい男女が増えた。
参加者の僧侶たちからは、仕事が忙しくて女性とは縁がなかった、適齢期過ぎて焦っていたので良い機会を与えてくれて本当にありがとう、と何人からも感謝された。
一対一でのデートの取り付けではなく、イベント形式は異世界にきて初めてだったが、大成功だと言っても過言ではないのではないか。
アリサの婚活アドバイスは評判を呼び、相談所は毎日予約が絶えないほどの人気となった。
次はどんなイベントをしよう。あの人と会う異性は誰かしら。
色々考えているのが楽しくて仕方がない。自分の天職だと、アリサは口元を緩ませた。
「ルビオ王子、一人で行かれないでください!」
店の表の通りから、男性の大声が響き渡った。
馬の鳴き声や、蹄で歩く音も聞こえる。
「? 外が騒々しいわね」
アリサが手元の書類を置き、カウンターから立ち上がり何事かと顔を出す。
すると、乱暴に扉が開いた。
そこに現れたのは、輝く美しい金髪に、青い目をした、スラリと背の高い美青年。
王族しか着ることを許されない真紅の服に大鷲の紋章が描かれた服に身を包んでいる。
しかし、その眉間には深い溝が刻まれており、美しい顔にはそぐわない。
ガーネット王国第一王子であるルビオ王子が、側近のクレイを引き連れ相談所に押しかけてきたのだ。
「結婚相談所というのはここか」
靴の音を鳴らし、ルビオはカウンターへと近づいてくる。
(ルビオ王子!? どうしてここに……。そして、めちゃくちゃかっこいい!)
推しキャラの登場に驚き、そして実際その姿を目の前にして釘付けになるアリサ。
(でもおかしいわ。城に住む王子が、城下町のギルドに来るようなイベントはなかったはず。どうしてここに……?)
ゲームを何周もやり込み、セーブデータを複数作りやりこんでいるアリサが、ルビオが街に来る姿は初めて見る。
青い瞳と目が合うと、心臓が跳ね上がった。
「あなたが結婚相談所の責任者ですか。
先日の僧侶コンたるもののせいで、城内の僧侶が全員休暇を取ったりと、迷惑をしているのです。王子もお怒りで」
隣に立つクレイがアリサに注意をする。
(この人は確か、王子の側近のクレイさんだったかしら。
ゲームではちょっとしか登場しなかったから印象にあまりなかったけれど、育ちが良さそうで品のある人ね)
栗色の髪をオールバックにし、騎士の格好に身を包んだクレイ。
腰には剣の鞘を差しており、背筋が伸び姿勢が良い。凛とした印象を受ける大人の男性だった。
どうやら、僧侶コンに物申しにきたらしい。
確かに、昨日のイベントには宮廷僧侶の方も多数参加していた。休日だと言っていたが、無理やり休みを取ったのか。
町の僧侶より、ガーネット城に常駐する宮廷僧侶の方がハイスペだと、女性参加者からは人気だった。
クレームを行っているクレイを押し退け、ルビオはアリサのいるカウンターへと近づくと、傲慢な態度で机に手をついた。
「お前が責任者だな?」
「は、はい……アリサと申します」
この国の最高権力者に目をつけられてしまった。
もしかしたら罪人として捕まってしまうのか、店は畳まなきゃいけないのか、せっかく軌道に乗ってきたのに、などと不穏なことがアリサの頭をめぐる。
しかしルビオは、想像に反することを声高々に命令した。
「私の理想の妻を探してもらおうか!」
ギルド一帯に響き渡る。
「ええ?」
「は?」
ルビオの向かいに立つアリサと、横にいるクレイは同時に間抜けな声を上げた。
「言葉の通りだ。アリサとやら、評判のその腕を発揮してもらおうじゃないか」
ルビオ王子は、虫だらけのボロボロの部屋に住む、何処の馬の骨とも知らない転生してきた結婚相談所のスタッフ相手に、不敵な笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます