11、

「ハリーさん、まさか……!」


「はい。僕たち、結婚を前提にお付き合いを始めることになりました。

 アリサさんのおかげです。ありがとうございます!」


 満面の笑みのハリーと、照れているローザ。その手はしっかりと恋人繋ぎされている。


「わあ、おめでとうございます!」


 今日はおめでたいことばかりだ、もうクラッカーを鳴らし祝杯でもあげてしまいたい気分のアリサは両手で万歳する。

 二人が気持ちを通わせていった過程や、二度目・三度目のデートでの出来事、プロポーズの言葉などを聞き、全部に感嘆の声を上げてしまう。


「最初僧侶を勧められたときには、正直気が乗らなかったのだけど。

 今では紹介してくれて感謝してるわ」

 

 気の強いローザは、幾分か顔つきが柔らかくなった気がする。優しい彼氏のハリーのおかげだろうか。


 話を聞くと、冒険者界隈で顔の広いローザが、友人の女子達にハリーの良さを伝えると、僧侶の男性は優しくて結婚向きなんじゃないかと話題になっているという。

 そのおかげで、ハリーの同僚の僧侶達も、少しずつ女性にモテだしたとのこと。


「お世辞にも僧侶は女性に人気のある職業ではないのですが、最近は同僚を紹介してと彼女の友達に言われるんですよね」


 幸せのお裾分けで、お互いの友達を紹介しあっているのだという二人の会話を聞いて、アリサの婚活アドバイザーとしてのセンサーが反応した。


(これだわ……! この僧侶の人気にあやかって、婚活イベントを主催するしかない! 僧侶の男性を集めた婚活パーティ、題して僧侶コンね!)


 次のイベントを思いつき、アリサはガッツポーズをする。

 どういう理由や原理で異世界転生したのかはわからないが、着実にこのファンタジー世界の住人たちを幸せにするお手伝いができていると、自信をつけてきた。



*  *   *



 アリサたちが住む城下町、フィルタウンの南西に位置する、ガーネット王国の王宮。

 その広い庭を、王位継承権第一位、ルビオ王子が歩いていた。

 乗馬が趣味のルビオが、遠乗りをした帰り道だ。


「ちっ……。着地に失敗し、足を痛めてしまったか」


 白馬の手綱を引き、横を歩きながら、忌々しそうに独り言を呟く。

 膝に擦り傷から、赤い血が滲み出ている。


「……私としたことが、情けない」


 血がにじみ傷が痛むため、足を引きずる形で歩いている。

 王子ともある者が、みっともないのですぐにでも王宮にいるお抱えの宮廷僧侶に回復魔法を唱えさそうと城内を歩いて探す。

 

 しかし、どこを探しても、城に常駐しているはずの宮廷僧侶の姿が見えない。

 金の十字架の刺繍がされた白い服に、長い杖を持っているため、遠目にもすぐに見つかるのだが。今日は人っ子一人見当たらない。

 

 近くを王子側近の一人、クレイが通りがかったので、声をかけた。


「おいクレイ。僧侶はどこにいる」


「ルビオ王子。それが……僧侶達は全員今日は休みをとっておりまして」


 腰に剣の鞘を差し、ルビオの姿を見ると胸に手を当て敬礼をしたクレイだったが、僧侶の居場所を聞かれて言葉を濁す。


「なに? 全員だと?

 もしモンスターに襲われ怪我人が出たらどうするのだ!」

 

 ルビオの叱咤に、同感だと眉間に皺を寄せるクレイ。


「私もそう申したのですが……。なにやら城下町で『僧侶コン』などというイベントが行われるらしく、たまには休ませてくれと全員に泣きつかれまして……」


「僧侶コン? なんだそれは」


 聞きなれない言葉をのため聞き返すルビオに、


「結婚相談所が主催する、男女の出会いの場だとか」


 腕を組み、クレイも頭に疑問符を乗せている。


「なんだと、また結婚相談所か!」


 数日前、城下町をお忍びで散策した際、道を埋めるような人だかりができていた、怪しい名前の店。男女を引き合わせて、恋愛をさせ、それで金を稼ぐなど、常人が考えつくとは思えない馬鹿馬鹿しい商売だ。


 膝がじくじくと痛むルビオは、苦虫を噛み潰したような表情をする。


「よし、明日私はその結婚相談所やらに行くぞ」


 イラついているルビオの様子を見て、クレイはすぐに咎める。


「いけません、王子自ら城下町に赴くなど……!」


 内密に城下町に降りることだって民衆に混乱を招くし、敵国に知られたら王子の留守を狙われるかもしれない危険な行動だ。


 堂々と行くなど、なおさらである。


「ふん、心配ならばお前もついて来れば良い」


 一度決めたら言うことを聞かない王子だ。

 しかし確かに、聖職者の僧侶が女性関係で浮き足立つのはあまり芳しくない。 

 相談所に注意しに行くことは必要かもしれない、とクレイは顎に手を置き考えた。


「では明日、私もお供いたします」

 側近として告げると、姿勢を正し頭を下げた。

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