第24話
ジェノム伯爵との話があってから一週間が経過した。
突然のことであったので王都、または王都近くに居た貴族しか来られていないのだが、幸いなことに今は社交シーズンということもあってたくさんの貴族がこの謁見の間に集まっている。
今日、何を発表するかは一切口外していない。
何があるかもわからず集められたたくさんの貴族たちはざわめきながらそのときを待っている。
「きたぞ」
「なにがあるんだろうか」
「何か問題でも発生したのだろうか」
そういった声が聞こえてくる中、ゆっくりとこの謁見の間へと足を踏み入れていく。
(うぅ、やっぱり緊張するよ~)
何度やっても緊張する。
このたくさんの人の前で立つというのだけでも大変なのに、話さなきゃいけないのだからもうつらい。
「静まりたまえ」
玉座に腰を掛けてゆっくりと口を開く。
その一言を聞いた貴族たちは話すのをやめ、音を何一つ立てずにこちらを見ている。
今回発表する内容はもちろんジェノム伯爵の爵位が上がることと、この国に宰相が出来ること。
通常このように集めるのは社交シーズンの始めであり、まとめて行うことが普通であるが、今回は例外的に社交シーズンの終わり頃に行うこととなる。
なお、今年の社交シーズンの始めにあった重大発表と言えば、僕の結婚である。
おかげで今年はパーティーに顔を出さなくてよくなったのだ。
……って、こんなことを言っている場合ではない。
「ジェノム・レスタン伯爵、およびその一族よ、前へ」
あまりこの場に長居したくないので、サクッと終わらせてしまうことにした。
会場の中に紛れていたジェノム伯爵、自然と出来た道を通って僕の前へとやってくる。
先ほど話したときに聞いたのだが、今日連れてきた家族にはなんと内容を伝えずに連れてきているらしい。
僕はこういうドッキリみたいなのが大好きだ。
爵位が上がるなんて言うことをいきなり聞かされればとてつもない驚き方をするだろう。
さすがジェノム伯爵。僕の趣味をわかっている。
「面を上げよ」
跪くジェノム伯爵に視線が集中している。
事情を知らない家族たちは、もしかしたら罰を受けるのではないかと不安そうな表情を浮かべている。
「ジェノム伯爵、貴殿の王国に対する活躍は目を見張る物がある。民からも信頼されているようで、おかげで王都は大きな問題もなく円滑に回っている。
それはもちろん簡単なことではない。それを難なく成し遂げたジェノム伯爵に敬意を示し、レスタン伯爵家の位を伯爵から侯爵とすることに決めた」
「ううぇッ!?」
「……ネ、ネリウス、静かにしなさい」
僕がそう爵位をあげることを発表したとき、会場にいた貴族は納得の表情を浮かべていた。
なんて言ったってこのジェノム伯爵は国民だけでなく貴族からの信頼も厚いのだ。
常に中立の立場をとり続け、何か災害が起きた際には真っ先に資金を援助する。
困りごとがあればその豊富な知識を生かして相談に乗ってくれる。
そんな素晴らしい貴族だからこそ、この王都の管理を任せるときにも一切の反対意見が出なかった。
拍手鳴り響くこの謁見の間野中で、唯一声を上げて驚いたのはレスタン伯爵家長男のネリウス・レスタン伯爵子息である。
それを自身も驚きを隠せない様子で声を詰まらせながら止めたのがジェノム伯爵の妻のフェリネリゼ・レスタン伯爵夫人だ。
正直ほかのお子さんたちも目が飛び出るのじゃないかって位驚いていてニヤけそうだ。
周りを見渡せばどうやら一部の貴族もニヤけそうになっているようで、すでにニヤニヤしてしまっている者も居る。
通常は何か悪巧みでもしているのではないかと思うところだが、そのニヤけ方が微笑ましい物を見ているニヤけ方だった。
「ジェノム・レスタン伯爵、前へ」
「はっ!」
そういうと、立ち上がってはこちらへとゆっくり歩いて近づいてきた。
そして、僕の前の前までやってくると身長の差を埋めるために少しかがんだ。
そんなジェノム伯爵の胸元についている伯爵位を証明するバッチをはずし、侯爵位を証明するバッチをつけた。
これにて正真正銘、ジェノム伯爵はジェノム侯爵へと変わった。
ゆっくりと階段を下って再び先ほどの位置へと下がる。
「以後、レスタン伯爵家はレスタン侯爵家となる。そして、もう1つ発表がある。この国には宰相が存在していなかった。そこで、新たに宰相の役職を作ることとした。その宰相にはこのジェノム・レスタン侯爵がつくこととなった」
「はぇッ!?」
「……ちょっとお母様!」
「はっ、ありがたき幸せ! この職務、全身全霊を持って全ういたします!」
立ち上がり、胸元に手を当てながらそう宣言すると、謁見の間は本日一番の拍手と歓声に包まれた。
「本日はこれで終わりとする。なお、しばらく王都の管理はジェノム侯爵に行ってもらうが、決まり次第別の者に変わる。まだ一切決まっていないため、我こそはという者がいれば後ほど書類を提出するように。以上!」
その瞬間、先ほどまではお祝いの空気に包まれていた謁見の間に、一気に緊張が走る。
今、王都の管理という重役の席が空いた。
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